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『イロアセル』作・演出 倉持 裕、インタビュー

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より豊かな創造の実践として新国立劇場が進めてきたフルオーディション企画。その第四弾では、倉持裕が、自身が劇場に書き下ろした『イロアセル』(二〇一一年)を初演出する。物語の舞台は小さな島。そこでは、一人ひとりの言葉に固有の色がついており、離れていても誰が何を話したのかが特定されてしまう――。現代のインターネット、SNS社会を風刺したファンタジーが、初演から十年という時間と、新たなキャスト・スタッフを得て、問いかけるものは?

インタビュアー:鈴木理映子 (演劇ライター)




初演から十年

ネットで匿名で発言する快楽を

ますます手放せなくなっているのでは



─今回のフルオーディション企画では、ご自身が劇場に書き下ろした『イロアセル』を初演出されることになりました。


倉持 自分以外の作家の戯曲を演出する企画だと思っていましたから、「『イロアセル』はどうですか」って劇場の方に言われた時には、ちょっと意外な感じがしましたね。フルオーディション企画では、その取り組みがほかの劇場にも波及するほどに根づき、書き下ろし作品も登場して......という段取りを経て初めて、作演出が一緒の作品ができるというふうに思い込んでいたんです。逆に言えば、そのくらい、キャスティングの問題は強固な岩盤なんですよね。実際、「この人の主役でどんな話にしよう」ってところから出発する企画は多いですし、規模の大きい、商業的な作品になればなるほど、集客力や知名度が優先されがちです。そこを崩していくのには、すごく時間がかかるだろうと。


─実際に全役をオーディションして、どんな感想を持たれましたか。


倉持 すごく面白かったし、「つらいもんだな」とも感じました。「この役者さんがいい」っていうだけじゃなく、組み合わせも考えなきゃいけない。Aさんがこの役をやるならこっちの役はBさんだけど、CさんがやるならBさんではなくて......というようなバランス。そのどちらかを選択するのが難しい。最初は自分が書いたもので演出も自分なんだから、どういう俳優がいいか、誰がやると面白くなるかはおのずとわかるはずだと思っていたんです。でも実際にやってみたら本当に悩むことになりました。もちろん、始めから「こういう『イロアセル』にする」という強いビジョンを持っていれば、より決めやすかったとも思います。でも、それもつまらないですから。


―台本を読んでもらったり、場面を演じてもらうことで、「あぁそういうやり方もあるのか」という発見もありますしね。

倉持 そうです。だから、オーディションという名の稽古なんですよね。何度も客席から観たことのある俳優でも、取り組む姿勢やポリシーまでは一緒に稽古しないとわかりま

せんし。そういう部分も含めて見て、選べるのもオーディションの良さです。


―初演から十年を経てあらためてご自身の作品に向き合われているわけですが、何か新たな発見や時代の変化を感じるようなことはありましたか。


倉持 十年前に書いた作品なので、やる意義はあるのか、やって面白く観てもらえそうか、半信半疑で読み返しましたが、「確かに今やっても面白いな」と思えました。ちょうど第一稿を描き終わった後に東日本大震災があって。あの時は電話はつながらないけどTwitter なら連絡をとれるということがあったり、原発に絡んでいろんな人が意見を言うようになったり、SNS が盛り上がり始めていました。そんななか、インターネット上で匿名で発言することについて「なぜそれが気持ちよくなってしまうのか」といったことを考えながら仕上げた戯曲です。あれから十年経ちましたが、今もオリンピックをめぐっていろいろな意見、やりとりがありますし、状況は変わっていない。というより、匿名という仮面をつけたまま物を言うという意味では、ますますその快楽を手放せなくなっているんじゃないかと感じます。


―インターネット、SNSを通じて、誰もが自由に、広く発信できるようになった一方で、フェイクニュースのような問題も起きやすくなっていると感じます。

倉持 もともとこの作品は、「滅び」をテーマにしたシリーズ(【美×劇】 ─滅びゆくものに託した美意識─)の一作として企画されました。その時、演出の鵜山(仁)さんが「メディアを題材に考えたらどうか」と提案をくださって。インターネットに押されて新聞が売れなくなり、マスメディアが衰退している、というところから発想を展開させていきました。はっきり看板を掲げている新聞や素性を明かしている筆者が書いていることよりも、どこの誰だかわからない人の言葉が影響力を持つようになったのはなぜか......この不思議な現象も今に続いていますよね。



戯曲はユーモアを持って書いたつもり

その点を意識して演出したい


―現代のコミュニケーションのあり方、人々と社会の関係を風刺したという意味では「寓話劇」と呼べますが、「どうすれば正解」という物語ではありません。むしろ答えを持たないまま、問題に向き合い続けているような感覚を覚えます。


倉持 顔も名前も晒されて、発した言葉のすべてに責任を持たなければならない。そんな環境に押し込められた人たちが匿名性を手に入れるというのは、極端な設定だと思います。ただ、その方が「なぜそうなってしまうのか」という仕組みや過程をはっきり見せられるんじゃないかと考えていました。今読むと、ずいぶん無茶なものを書いた気もしますけど、当時は、「ちょっと面白いこと考えたな」という手応えもありました。


―謎が多い物語でもありますね。どうしてこの島でだけ言葉に色がついているのか、物語の鍵となる囚人はなぜ島に移送されてきたのか。登場人物たちが言葉の色を特定できる機械「ファムスタ」を持ち歩く理由は何か......。

倉持 ハードSFみたいに決め込んでいるわけじゃくて、ちょっとぼんやりしてるんですよね。あえてそうしていたんだと思います。あんまりこだわって説明しても、かえって伝えたいことが見えなくなりそうで。あの機械にしても、遠くで話された言葉が読み取れて、自分の言葉も遠くへ飛ばせる、スマホみたいなイメージはあるけど、詳しい機能は僕もわからない(笑)。ただ、そういうとぼけた感じが面白いなとも思っていて。僕はもともと喜劇が好きだし、結構ユーモアを持って書いたつもりだったんです。


―設定の一つひとつを真面目に受け取るというよりは、ちょっと笑っちゃってもいいような?


倉持 そうそう。鵜山さんが演出された初演版は、登場人物の内面や背景にある事情を掘り下げたシリアスなドラマだったので、自分がやるなら、そういうユーモアを意識してやりたいとも思っています。


―今回選ばれたキャストは、それができる、楽しめる顔ぶれということにもなりますね。

倉持 みなさん、面白がり方のセンスでは共通するものがあるのかもしれません。この前初めて全員で読み合わせをしてみたんですけど「あぁ、間違ってなかったな」と思いました。個人技を見せたりするんじゃなくて、ひとつの作品を見せることができるメンバーになっています。箱田(暁史)さんが演じる囚人なんて、一見なんでもない感じの奴だからこそ、「何やっちゃってここに来たんだろう」といろいろ想像を刺激すると思うんですよね。(島では異端の存在である)ナラ役の東風万智子さんも、変にシリアスにならず、開き直った強さを自然に演じてくださっていてとてもよかったです。


―美術、照明といったプランナーも初演とは違う顔ぶれです。さきほど「無茶なことを書いた」とおっしゃっていたのには、「イロ(色)」の表現も含まれると思うのですが、何か新たなアイデアはあるのでしょうか。


倉持 映像ばかりで見せるのも面白くないんじゃないかという気はしてて。同じ映像でも使い方を変えたり、アナログな表現もしていく予定です。色の使われ方も場面によって違いますから。自由度をあげて、それぞれに相応しい見せ方を考えていこうと思っています。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 9月号掲載

<くらもち ゆたか>

劇作家・演出家。2000年、ペンギンプルぺイルパイルズを旗揚げ・主催し、すべての作品の作・演出を務める。2004年『ワンマン・ショー』で第48回岸田國士戯曲賞を受賞。近年は映像でもヒット作品を出し、多くの脚本も執筆、劇団外にも活動の場を広げている。 近年の主な劇作作品にヴィレッヂプロデュース『浦島さん』脚色、ミュージカル『HEADS UP!/ヘッズ・アップ!』、いのうえ歌舞伎『乱鶯』『けむりの軍団』、作・演出作品にM&Oplaysプロデュース『鎌塚氏、舞い散る』『鎌塚氏、腹におさめる』『鎌塚氏、振り下ろす』『鎌塚氏、すくい上げる』『鎌塚氏、放り投げる』『虹とマーブル』、世田谷パブリックシアター『お勢断行』『お勢登場』『現代能楽集VII 花子について』、竹生企画『火星の二人』『ブロッケンの妖怪』、東宝『誰か席について』、演出作品にホリプロ『神の子どもたちはみな踊る after the quake』など。新国立劇場では『イロアセル』を書き下ろしたほか、『昔の女』の演出を手掛ける。



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『イロアセル』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:本公演 2021年11月11日(木)~28日(日)

プレビュー公演 2021年11月7日(日)

作・演出:倉持 裕

出演:伊藤正之 東風万智子 高木 稟 永岡 佑 永田 凜
西ノ園達大 箱田暁史 福原稚菜 山崎清介 山下容莉枝

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・11月公演『イロアセル』(作・演出 倉持 裕)
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