『斬られの仙太』座談会 青山勝×浅野令子×伊達暁×陽月華

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撮影:田中亜紀


1934年初演の『斬られの仙太』は、日本演劇界の巨人・三好十郎が劇作家活動の初期に書き上げた大長編だ。幕末、水戸天狗党事件を中核に農民、町民、博徒、武士らが入り乱れての活劇は実にエネルギッシュで、「フルオーディション」&新シリーズ「人を思うちから」第一弾としてもふさわしい。演出を手掛ける上村聡史は、戯曲上八十余役ある登場人物を十六人の俳優で演じる大胆なプランを持ってオーディションを敢行。類まれな情熱を持って演出家に挑み、見事に役を射止めた俳優四人に、来るべき創作の日々への想いを聞いた。

インタビュアー:尾上そら(演劇ライター)



大長編に
ガッツリ取り組みたい!
役への共感・憧れ



─フルに上演すればおよそ七時間という今作。演出・上村さんは「手を挙げてくれた俳優たちは勇敢だ」とおっしゃいました。まずは皆さんが、オーディションに挑戦された動機から伺えますか?


青山 フルオーディション企画は第一回から知っていたのですが、三回目にしてようやくタイミングが合い応募できました。取り寄せた戯曲の長大さにまず「これほどの大長編にガッツリ取り組んでみたい!」とワクワクし、さらに読む中で演じさせていただく、利根の甚伍左という役に惚れ込んだことが挑戦の理由です。


浅野 「フルオーディション」には第一回から応募し続けていて、今回ようやく出演が叶いました!時代劇が以前からやりたかったのと、戯曲を読めば読むほど「お妙を演じたい」という想いが募り、年齢的にはギリギリでしたが(笑)チャレンジして良かったと思っています。


伊達 僕はオーディション経験自体ほとんどないんですが、第二弾の『反応工程』に挑戦し、結果はダメだったもののとても楽しかったんです。だから今回も、演じたい役があってというよりは、またオーディションの熱気や出会いを経験したい気持ちがまずありました。もうひとつは、題材になっている水戸天狗党について興味があって。2013年に山田風太郎の小説を原作にした舞台『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』(長塚圭史作・演出)に出演して以来、心に引っかかっていた史実を三好十郎が戯曲にした、というのも僕にとって大きな魅力でした。


陽月 私も浅野さんと一緒で、企画の立ち上がりから「絶対参加するゾ!」と思っていたんです。最近の自分が舞台から遠のいている感覚があり、ならば自分から飛び込まなければダメだ、とも。『かもめ』はご縁がなく、『反応工程』に至っては年齢にはまる役がないにもかかわらず書類を送り(笑)、三度目にしてようやく合格できました。特に演じる芸者お蔦にはオーディションで台詞を読むごとにシンパシーが強くなり、稽古開始が待ち遠しくてたまりません。


─青山さんはオーディション中に、豊富な歴史の知識を披露されたとか。


青山 元々時代物、幕末を描く歴史小説などが好きなだけで、そんな大したものではありません。重々しい言い方で、説得力が増すようにしちゃったかな(笑)。


浅野 時代物の知識を、お持ちというだけでスゴいと思います。やりたくても、特に演劇では演じる機会が限られていますから。でも着物での所作や当時の日本人の生活、精神に触れられることは刺激的で楽しいと、少ないながらもこれまでの時代物で感じていて。今回、上村さんのプランでは複数役を演じたり黒子的な役割も担うので、スタンダードな時代劇とは違うかもしれませんが、やはりワクワクしますね。


伊達 僕は時代劇経験はともかく、何故か「武士っぽい」と人から言われることが多いんです、あと「特攻隊員」とか(全員笑)。今回は百姓から博徒なので、直接武士ではないけれど、それぞれの所作や振る舞いを意識した身体づくりは、稽古前から始めないととは思っています。すごく長い立ち回りの場面もあり、しかも仙太郎は達人級に腕が立つという設定ですから。初めましての上村さんがどういう演出をされるか楽しみですし、何が来ても応えられる肉体でいたいですね。


陽月 私は皆さんとは逆で、身体ではなく、お蔦さんの心根の部分に時代を超越したリアルさを感じたところから、役を近しく感じられるようになっていて。あの長大な戯曲の中、お蔦さんは最初の登場からしばらく出る場面がないんです。その間、いろいろな身分の男たちが語る理想や信念などについての会話を延々と聞き続けるわけですが、次第に私の中にそれらの言葉に対するジレンマのようなものが溜まってきて。その先にあるお蔦さんの台詞は、男たちを否定はしないけれど、女性ならではの世界の捉え方で核心に迫る、実のある言葉だと感じられ、自分で口にしながらスカッとするんです。そんな共感をベースに持ち、あとは共演の皆さんとのやりとりの中でつくっていけるよう、柔らかな状態で稽古に臨みたいと思っています。


青山 僕の場合、甚伍左に対する想いは共感というより憧れですね、とにかくカッコイイ。僕は内面的にはまったくもって三の線なので、カッコイイ人を演じる機会もほとんどなかったし、実は抵抗や恥ずかしさもある。でも一回くらいは挑戦してみてもいいかな、と。なんとか恥ずかしさを乗り越え、自分の中の新しい領域を拓く機会になればいいですよね。


浅野 私事ですが、うちの近所に農業をしている方がいらして、野菜やお米を届けてもらうほか、三、四年前から季節ごとの作業を手伝わせていただいているんです。草取りや収穫などやっているうちに没頭し過ぎて、気づいたら雑草で足が傷だらけになっていたり、手が荒れ過ぎて休ませていただいたり(笑)。でも一年中いつも忙しく大変そうで、まさに"土に生きる"その姿は、お妙さんという人の軸になる部分に重なる気がしているんです。農業経験の成果かはわかりませんが、私も人から「土の香りがする女優」と言われることがあるので(笑)、そこを自信にオーディションは乗り切れました。稽古から本番も"土に生きる"感覚を大事に、それを伝えられる身体でいたいと思います。


─役について伺うだけで、生きること、生活することなど人間の本質や根本に目を向けさせられる感染症禍を暮らす、私たちに響くことが多い作品だと伝わってきます。中でも百姓から博徒となり、幕末の動乱、その渦中に身を投じながら再び元の生活に戻る仙太郎の生き方は象徴的です。


伊達 時代の流れに飲み込まれながら、それでも人を斬ることに抵抗感を持ち続け、百姓という生き方の尊さを忘れない仙太郎は正直な人間だと思います。移り変わる環境の中、逡巡はもちろんあるけれど、仙太郎の内側にある"土に生きる"ことへの憧憬はブレない。それこそが三好さんの書きたかったことであり、この作品の終景に象徴されることだと思うのですが、そこは大切にしたいですね。

 また仙太郎の親友で、根っからの百姓である段六を演じる瀬口寛之さんがイイんですよ。他にも、「この役はこの人しかいない!」と思える俳優さんたちばかりで、これこそ「フルオーディション」の醍醐味だし、自分もその一人として作品を支えなければと思っています。



三好十郎作品を演じるということ



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─上村さんは、文学座のアトリエ公演での『冒した者』(2017年)が三好作品の初演出だそうですが、皆さんの観劇やご出演など、三好作品体験はどのようなものでしょうか。


伊達 僕は青山円形劇場での『胎内』(2005年、鈴木勝秀演出)に出演したのが初三好体験です。その前年に新国立劇場でも『胎内』(栗山民也演出)をやっていて、僕が演った花岡役を千葉哲也さんが演じられていた。その時の僕の出来は置いておくとして、三好十郎の台詞を舞台上で、観客の前で吐き演じられたという経験は、その後しばらく俳優としての自分を、怖いものなしにしてくれた感覚があって。重厚な台詞を介し、敗戦直後の日本人の複雑な内面を表現することは、当時の自分にとって高いハードルだったからこそ作品に鍛えてもらえたというか。その後、観客としては『浮標』や『冒した者』を観ていますが、演じる機会はなかった。今回この作品と仙太郎役をまっとうできたら、また感じることがいろいろあるような気がしています。ちょうど、『胎内』の貯金が切れかかっているなぁと思っていたので(笑)、ありがたい機会です。


浅野 私は2011年に『廃墟』を演じたのが初体験でした。本当は新作を上演するはずが、作家さんが書けなくて急遽の変更だったうえに、東日本大震災も起き、上演も危ぶまれる状況になった。そのことが戦後の焼け跡で生活する人々を描いた戯曲にも重なり、忘れられない作品になっています。この作品でも男たちが政治の話などを喋り散らすんですが、私が演じた双葉は、それを聞きながらその日の食べ物をどう手に入れるかに頭を悩ませるような娘で、先ほど陽月さんがおっしゃった、男たちにイラつく感覚を思い出しました(笑)。

 オーディション中のワークショップの中で上村さんが、「三好作品の女性像は三パターンに分けられる」とおっしゃっていたのですが、きっとお妙さんと双葉は同じグループで、私はやはり「食」にまつわる役を担うのだなと今、気づきました(笑)。


青山 僕は残念ながら出演経験はありません。随分前に、戦前から戦後にかけての日本の戯曲をまとめて読んでみたことはあり、間違いなくその中に三好作品もあったはずなんですが、記憶に残っていなくて......。重要な戯曲は一作ずつ、しっかり読まないとだめだと反省しています(苦笑)。その時に読んだ戯曲群に共通する、作品を覆うような黒く巨大な戦争の影のようなものは後味として残っていて。伊達さんや浅野さんの話を聞くに、きっとそれは、三好さんの後期の作品にあるものなんでしょうね。

ただ、『斬られの仙太』を読んだときには、馴染みの薄い作家という感じはしなかった。不思議なものですよね。


陽月 恥ずかしながら、私は三好作品はまったくの未経験。三好さんの名前はもちろん存じ上げていましたが、完全な初心者です。でも少し前の、俳優仲間と岸田國士の『留守』という短編を、勉強含めて朗読する機会があって。そこで、自分がいかに海外の戯曲を多く観たり演じたりしてきたかと、それに反して日本人が書いた日本語の台詞が、時代は遠いにもかかわらず自分に非常によく馴染むということを実感したんです。今作もボリュームは大変なものですが、同じような「馴染む感じ」はあって、それは拠りどころになる気がします。


─宝塚時代からあらゆる国や文化圏のドラマを演じてきた陽月さんが、一巡して日本の戯曲への「馴染み」を感じるというのは興味深いです。


陽月 おっしゃる通り幅広い役を演じさせていただいていますが、宝塚でも和物はありますし、日舞や所作なども学ぶ授業があり、なんとなくできるくらいになりはした。けれども私の場合は、身になっている実感には程遠かった。今回を、良い学びの機会にもしなければと思っています。


演出の上村さんは共に戦う「同志」



─皆さん、上村さんとは初めてご一緒されるのだと伺っています。上村さんの印象や演出への期待、ご自身の課題なども伺えますか。


浅野 オーディションの時に「ジャッジするのは僕だけじゃなく、皆さんもジャッジできる。僕の演出を見極めてください」という意味のことをおっしゃったのが印象的でした。二次選考の始めで、まだ緊張で前のめりになっていた自分を落ち着かせてくれる言葉で、その後にワークショップなどで受けた演出も面白く、信頼できる方だと思いました。


青山 僕はオーディションが初対面で、でも気鋭の演出家だからと勝手にスカした感じ(全員笑)の方ではと想像していたら、髪型は坊主に近いし、言葉や指示を聞いていて俳優とイーブンな、同じ土俵にいてくれる方だと一発で分かった。だから、この先の稽古もとても楽しみです。


伊達 僕もお二人と同様の印象を持ちました。加えてたぶん世代も近いと思いますし、感染症禍の大変な時期に、フルオーディションという出会いの場を経て、スケールの大きな作品を一緒につくる方なので、今は勝手に上村さんを「同志」だと思っているんです。本来ならこの企画の第二弾だった『反応工程』と順番が逆になっての上演になりますし、そういうプレッシャーや環境の困難さにも一緒に戦える方だと信じています。


陽月 私、何故か初対面の方に「怒られるのでは?」と思ってしまい、相手の様子を伺ってしまうところがあるんです。でもお会いした上村さんは対応がソフトで皆さんおっしゃるとおり、俳優と対等でいようとしてくださる方だった。同じクリエイターとして扱われることが嬉しく、オーディションの課題も緊張以前に楽しくて。そこに時折見えるクセの強さが面白いので(笑)、稽古でもたくさんあるはずの発見がとても楽しみです。



新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2月号掲載


<青山 勝 あおやま・まさる>

1988年劇団ホンキートンクシアターに参加。劇団解散後、中島淳彦を座付き作家に、座長として劇団道学先生を旗揚げ。ほぼ全ての劇団公演の演出、出演を務めている。テレビ、映画に出演するほか、ラジオドラマ、CMナレーション、吹替など声の仕事も多数。最近の主な舞台出演作品に『梶山太郎氏の憂鬱と微笑』『怪談牡丹灯籠』『銀杯』『奇跡の人』『二分間の冒険』など。新国立劇場には初登場となる。


<浅野令子 あさの・れいこ>

新国立劇場演劇研修所第1期修了。数多くの舞台やCMで活躍するほか、近年は「鼻メガネさん」として、子どもたちのためのパフォーマンスを行う。主な舞台出演作に『四谷怪談』『暴走ジュリエット・迷走クレオパトラ』『お暇をこじらせて』『ピーターパン』『国盗人』『闇に咲く花』など。新国立劇場では、こつこつプロジェクト『あーぶくたった、にいたった』に参加のほか、『マニラ瑞穂記』、リーディング公演『アラビアの夜』に出演。


<伊達 暁 だて・さとる>

1996年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」の旗揚げに参加。以降中心メンバーとして活躍。劇団公演以外にも多数の舞台に客演するほか、近年はTVドラマ、映画、CMナレーションなど、映像にも活動の場を広げている。近年の主な舞台出演作に『両国花錦闘士』『銀河鉄道の夜2020』『人間合格』『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡』『セールスマンの死』『D51-651』『髑髏城の七人~season月〈下弦の月〉』『三億円事件』『新・幕末純情伝』『蛙昇天』『ブエノスアイレス午前零時』『カッコーの巣の上で』『はたらくおとこ』『人間合格』など。新国立劇場では『骨と十字架』に出演。


<陽月 華 ひづき・はな>

2000年、宝塚歌劇団に入団。星組を経て、07年宙組トップ娘役に就任。09年の退団後は、舞台のみならず映像にも進出し、数々のテレビドラマ、映画、CMに出演。「警視庁・捜査一課長」にレギュラー出演中。近年の主な舞台出演作に『灰色のカナリア』『みえない雲』『フランケンシュタイン』など。新国立劇場には初登場となる。



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『斬られの仙太』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2021年4月6日(火)~25日(日)


作:三好十郎演出:上村聡史出演:青山 勝 浅野令子 今國雅彦 内田健介 木下政治 久保貫太郎 小泉将臣 小林大介佐藤祐基 瀬口寛之 伊達 暁 中山義紘 原 愛絵 原川浩明 陽月 華 山森大輔

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