『あの出来事』出演・南 果歩、小久保寿人 インタビュー

2011年、ノルウェーで起きたテロ事件を題材にした『あの出来事』。事件で生き残った合唱団指導者のクレアが、犯人の少年の周囲の人間や、自身のカウンセラー、恋人などとの対話を通して、なぜこんな事件が起きたのかを探っていく。過酷な体験で心に大きな傷を負ったクレアを『パーマ屋スミレ』以来の新国立劇場出演となる南果歩。少年役だけでなく、クレアが出会う人々全てを演じるのは、さいたまネクストシアター出身で、今回の演出家・瀬戸山美咲が手掛けた『ジハード─Djihad─』にも出演した小久保寿人。演劇的仕掛けに満ちた意欲作への出演について想いを聞いた。

インタビュアー:沢 美也子 (演劇ライター)



想像を絶ずる人を演じるには

自分の中に眠るDNAを呼び覚ますことが大事

―『あの出来事』は、実際に起こった銃乱射事件がモチーフの戯曲です。


南 この事件に遭遇したクレアを演じるのですが、生き残ったということは、その事件を体験して、目撃して、そして、多くの犠牲者を目の当たりにしてしまった後のクレアなんですね。過酷な経験をした後、その先の人生をどのように生きられるか、ということも作品のテーマだと思いますが、私が戯曲を読んで最初に浮かんだ言葉は「許す」でした。こういう経験をした人が、犯人に憎悪の気持ちをずっと持ち続けていけるのだろうかと。憎悪の気持ちは、ものすごく消耗すると思うし、自分の傷に対しても、憎悪の気持ちは何か役に立つのかな?と思ったりもしましたね。





―クレアはものすごく傷を負っていると、戯曲から感じます。


南 こういう無差別殺人、銃乱射事件に関して、残された人の心の回復というのは、果てしない遠い道のりであって、私自身もまだ、その途方もなさに考えが及ばず、です。ただ、やっぱり生きているということは、心が日々動いているということなので、いろいろな人と会話する中で、クレアが抱えているものを、より多面的に見せていくことができるんじゃないかと思うんですね。


―平静に見えても、決してそうではなくて、クレアの心の振れ幅がすごいと思いました。


南 クレアの体験は凄まじくて......サバイバーという言葉がぴったりかもしれませんね。生き残った責任からはどうやっても逃れられないんです。人間は普通、毎日少しずつ心も身体も変化していくし、移動していくものだと思うのですが、クレアはそれすらできない、自分の人生の動かし方を失ってしまっている状態なので。もう、想像を絶ずるというか。ただ、想像できない人を演じるということは、途方もない作業のように思える一方、自分の中に眠っているDNA や血といったものが炙り出されてくるのではないかという気がするんです。どれだけ呼び覚ますことができるのかが大事な作業になると思っています。


―注目は、犯人である少年を演じる人が、カウンセラーや少年の父親など、いくつもの役を演じることです。


南 その戯曲のあり方自体がとても演劇的で、演劇でやる面白さがそこにはあると思います。同じ人が演じる方が想像力を掻きたてられるのではないかな。また、完全な二人芝居ではなく、そこに合唱団がいて、音楽が入ってきますし。別の人間(合唱団)が舞台上に登場するので、人の気配や存在感、そういうものがまた別の形で表現できるんじゃないかなと思いますね。


―劇中、合唱団が「暗い歌ばかりで、いやだ」とか言い出したりして、クスッとしてしまいます。


南 それはあると思います。瀬戸山さんの舞台を二作品拝見しましたが、繊細さと大胆さがあって、ユーモアの散りばめ方も面白いと思うので、今回も笑いが起きるんじゃないでしょうか。もちろん重いテーマなんですけど、会話って、言葉のキャッチボールの中で、ふっと力が抜けたり、和んだりするから、稽古をしながらたくさん出てくると思いますね。


―共演は小久保寿人さんです。何役も演じることになる彼に期待することは?


南 どんな方法を取ったとしても、一人の人物が演じるので、小久保君が持っている本来の姿とか本質が、どうやったって出てくるだろうと思います。何が出てくるか、楽しみです。


―改めて、大変な役ですが。


南 戯曲が面白いので、「大変だな」とか思うことなく、一読してやりたいと思いました。ただ、クレアが生きている状態が尋常ではないので、私自身もすごい経験になりそうだなと覚悟しています。


<みなみ かほ>

兵庫県出身。1984年に映画『伽倻子のために』で主演デビュー。テレビや映画、舞台で幅広く活躍。『夢見通りの人々』で第32回ブルーリボン賞助演女優賞、『お父さんのバックドロップ』で第19回高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。映画では他に、『海炭市叙景』『家族X』『阪急電車』『サクラサク』『さよなら歌舞伎町』『葛城事件』『オー・ルーシー!』などに出演。テレビドラマでは『梅ちゃん先生』『スペシャリスト』『ようこそ、わが家へ』『定年女子』など多数出演。舞台では『ロミオとジュリエット』『ガラスの動物園』『マクベス』『メアリー・ステュアート』『モリー・スウィーニー』『日々の暮らし方』『オイディプスREXXX』など、新国立劇場では『母たちの国へ』『涙の谷、銀河の丘』『混じりあうこと、消えること』『パーマ屋スミレ』に出演。



少年が全役を演じる意味

それは、誰もが少年になり得るということかも

―戯曲を最初に読んだとき、どのように感じましたか?


小久保 初めは頭の中が「?」マークでしたけど、何回か読んでいくうちに大枠はぼんやりと見えてきました。ウトヤ島の事件は、映画『ウトヤ島7月22日』を見るまで知らなくて。僕の周りの人も知らない方が結構多いんです。演劇のあり方として、知ってもらって考えるきっかけを作るということもあると思うので、明確な答えがない作品を国立の劇場で今上演するのは、とても意味があると感じました。演じるのは難しいですが、役者として、こんなに挑みがいがある作品はないです。大変な作業になるでしょうけど、今は楽しみですね。稽古が始まったら怖くなるかもしれませんが(笑)。




―小久保さんが演じるのは銃乱射事件の犯人の役ですが、役作りは?


小久保 怪物とかサイコパス、いわゆる悪の権化のようなイメージでは作っていきたくないと思っています。テロ事件に限らず、殺人でも何でも、犯罪者になるべくして生まれてくる人間はいないと思うので。幸せに生きたかった時期が必ずあるでしょうから、そこを大事に、ちゃんとした人間としてアプローチをして作っていくのがポイントになるのではないかなと思います。


―演出の瀬戸山さんは、犯人を理解できない存在と切り捨てるのではなく、私たちの社会の中から生まれたということに留意したいと言っていました。


小久保 日本でも京都アニメーションや相模原(障害者施設殺傷事件)の事件などがありましたけど、極悪人の一言で片づけると解決しない部分もあると思います。クレアが、なぜ少年がこんな事件を起こしたのか知ろうとする行動は、ひとつの手掛かりになるのではないでしょうか。


―犯人の少年役以外に、カウンセラー、少年の父親、友人、政治家、クレアの恋人など、いくつもの役を演じますが、切り替えは?


小久保 作者のデイヴィッド・グレッグさんには、少年に全役をやらせる絶対的な意図がきっとあると思うので。翻訳の谷岡先生の仰る「クレアにとっては全員が少年に見える」というのも、ひとつでしょうし。僕の勝手な考えですけど、どんな人間も少年になり得るんだということもあるのかなと。そういうことを踏まえると、役ごとに想像で遠くへ飛んでいくイメージよりも、僕の中にあるリアルなところで役を作っていくのが、少年が全役をやる意味につながってくるのかもしれません。


―『ジハード│ Djihad │』で瀬戸山さんの演出を受けていますね。どんな印象をお持ちですか?


―小久保 粘り強い! 『ジハード─ Djihad ─』では「もっと、いろんなのない?」「好きにチャレンジしていいから」とよくおっしゃっていて。役者に寄り添ってくださる演出家なので、僕はすごくやりやすかったですし、楽しい現場でした。

―演出家に指示された方がいいと言う役者さんもいますが。


小久保 僕はさいたまネクストシアターに所属していたので蜷川幸雄育ちですから。蜷川さんは「俺の想像を超えるものを持ってこい!」と言う方だったので、自分から動かないと怒られますし、役を外される(笑)。


―南果歩さんの印象は? 期待することは?


小久保 以前に一度、ヤンキー映画で少しだけ絡みがあって、気さくに話しかけてくださる素敵な女優さんだなという印象があります。その時の僕はド金髪で眉毛もなかったんで(笑)、今と一致しないとは思うんですけど。今回の共演はすごく楽しみですし、全部曝け出してぶつかっていきたいなと思っています。


―小久保さんにとって、新しい何かがありそうな予感は?


小久保 どの現場も大事ですけど、今回は今までやってきた集大成にしなきゃいけない舞台だと思います。できる限りの準備をして、納得できる形で役と向き合えたらいいなと思いますし、これをきっかけに新しい僕を見つけたいですね。



新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 10月号掲載

<こくぼ としひと>

愛知県出身。 蜷川幸雄氏主宰の若手演劇集団さいたまネクストシアター出身。蜷川作品に多数出演し、舞台『オイディプス王』ではタイトルロールを務める。近年映像作品への出演も多く、『やすらぎの刻~道』では約5000人の応募の中から見事合格しメインキャストとして名を連ねる。他にもドラマ『メゾン・ド・ポリス』での犯人役の怪演が話題を呼び、今、各方面から最も注目を集める俳優の1人である。今回、瀬戸山美咲作品には『ジハード―Djihad―』に続き2回目の出演となる。主な出演作に舞台『盲導犬』、映画『ユリゴコロ』、ドラマ『サイン―法医学 柚木貴志の事件―』など。



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『あの出来事』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2019年11月13日(水)~26日(火)

作:デイヴィッド・グレッグ

翻訳:谷岡健彦

演出:瀬戸山美咲

出演:南 果歩 小久保寿人

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