そもそもチラシってどういう流れで作られているの?どれだけの人が携わって、どれくらいの時間がかかっているの?そんな疑問を元に、今回は5月上演の『ロビー・ヒーロー』のチラシのデザイン発案から完成までを追った。その創作に携わる方々に聞いた創作秘話や豆知識とともに、現場の様子を伝えたい。
上の写真は、デザイナーさんご提供の『ロビー・ヒーロー』と同シリーズのフォーマット案である。公演の意図を正確に具現化し、観客にも伝わる一枚に仕上げること。そのためにまず行われるのが、デザイナーと新国立劇場との綿密なすり合わせ。そこで使われるのがこのフォーマット案というわけなのだ。作品の意図をデザイナーに伝える打合せの場には芸術監督、チーフプロデューサー、プロデューサー、営業・宣伝スタッフが同席し、デザイナーによる初回のラフ(イメージ案のようなもの)を元にあらゆる観点から意見を交換し、ラフの決定へと進めていく。
新国立劇場宣伝担当
①を経て仕上がったデザインを印刷会社へ発注。ここからさらに色味や版の出方などを吟味しながら、デザイナーと印刷会社による細やかな最終調整へ。デザイナーは数回に渡り色校正を確認し、印刷会社はその指示書を元に最終色校へと進める。
コードデザインスタジオ デザイナー
鶴貝好弘さん
新国立劇場宣伝担当
いよいよデザインが紙へ、そして想いが形へとなっていく本現場。今回は東京リスマチック株式会社様の全面ご協力の元、その現場に潜入させてもらった。版づくり、調色、印刷、断裁。それぞれのプロセスでどのような工夫とこだわりがなされているのか。スタッフさんのコメントも交えながら、工場見学のように楽しく、順を追って紹介していきたい。
まずは、印刷物のベースとなる版づくりへ。到着したデジタルデータと指示書を元に、版材に直接露光して刷版を作製(CTPプリントと呼ばれるもの)。基本となる4色(CMYK)+特色という順番でインクが載っていくので、それぞれの版が必要となる。
東京リスマチック株式会社
舟渡工場副工場長/印刷グループ総括
宇野聡さん
次なるセクション、調色室へ。文字通り、「インクの色を調える」というプロセスだ。全ての色に既製品のインク缶があるわけではなく、繊細な調整が必要な色も。今回の『ロビー・ヒーロー』のチラシ裏面に使用したグリーンも特色に当たる。また、蛍光色・パール・メタリックの入った色。これらも改めてインキメーカーに依頼するか、人の手で作るかのどちらかだそうだ。
そういった特色たちは、そのレシピをデータ化した管理システムを元に、人の手によって作られていく。データ化されていることで、担当する人によって差が出ることなく、かつ重版にも対応できるというわけなのだ。最先端の機械と細やかな手仕事。その二刀流によって、いくつもの色がここで生まれる。
東京リスマチック株式会社
舟渡工場副工場長/印刷グループ総括
宇野聡さん
いよいよ印刷フロアへ。巨大な機械が連なるこのフロアは、まさに工場!という感じだ。それぞれの版とインクをセッティングし、一斉に印刷を開始。ここで一番驚いたのは、現場にいる人の多さだった。
作業服を着た人もいれば、スーツの人も。印刷作業を行う人だけでなく、デザイナーとの直接やりとりを重ねる営業担当者も営業所から駆けつけ、作業が完了するまで立ち合うのだ。
それぞれのセクションを担うプロフェッショナルたちが、作業の都度、役割に応じた確認と共有を行いながら、完成へのラストスパートへ。デザイナーからの全ての指示書をチェックしながら、抜けや漏れ、相違がないかを多くの人がその手で触れ、目で確かめる姿が印象的だった。
東京リスマチック株式会社
舟渡工場副工場長/印刷グループ総括
宇野聡さん
作業もついに最終ゾーンへ。印刷されたものをサイズに応じて断裁する。膨大な紙を一度に機械で断裁するため、空気が入ってズレが生じないように丁寧にプレスをかけ、紙が極端に少なくなった際には不要な紙でかさ増しをした状態で機械にかける。
機械を使うとはいえ、大量の紙を扱うこの断裁作業は相当な力仕事。作業台から下ろす際にはまた別の機械を起動させるほどで、とても人の手で持てる重さではない。また、完成物を丸々預かるこの作業には慎重さも必要。細やかな技術はさることながら、そのスピードにも目を見張った。
たくさんのアイデアと想いをのせた『ロビー・ヒーロー』のチラシが、こうして今、形になった。4つの道程とそれぞれのフロアを担当する多くの方々の手仕事を経てようやく、ゆくゆく私たちが受け取るその一枚は完成するのである。
ここまでが、演劇のチラシが世に誕生するまでのプロセスである。多くの人の手によって作られたチラシは、ここから劇場へと運ばれる。そして、少しでも広く多く届くように「チラシ束」が作られ、観客の手へと渡っていく。
ここからは、演劇のチラシが世に誕生してからのプロセスへ。後編は、印刷会社から劇場やチラシ束制作の現場に移して、創作に携わった人々のコメントとともに、その一枚がお客様の手元に届くまでを追いたい。
取材・文=丘田ミイ子 写真=塚田史香
コードデザインスタジオ デザイナー
鶴貝好弘さん