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『コジ・ファン・トゥッテ』フィオルディリージ役 セレーナ・ガンベローニ インタビュー

ガンベローニ
セレーナ・ガンベローニ

婚約者が不在の間に、別の男性からプロポーズされたら女性はどうする......?

モーツァルトの珠玉の音楽、ダ・ポンテによる恋愛喜劇を、

キャンプ場を舞台にしたミキエレットの演出で描くオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』。

姉フィオルディリージを演じるのは、イタリアの歌姫セレーナ・ガンベローニ。

これまで『コジ・ファン・トゥッテ』はドラベッラ、デスピーナを演じ、

今回オペラパレスでフィオルディリージ役に初挑戦する。

3つの役から『コジ・ファン・トゥッテ』を知るガンベローニに、

これまでの歩みと『コジ・ファン・トゥッテ』の魅力について語ってもらった。

クラブ・ジ・アトレ誌2月号より

インタビュアー◎ 井内美香(音楽ライター)



初めてのフィオルディリージ役 これで『コジ』の女性役制覇!



―音楽との出会いを教えていただけますか?



ガンベローニ 7歳からヴァイオリンを習っていました。兄がピアノを習っていたので「私も音楽をやりたい!」と。でも兄はピアノがとても上手だったので、同じ楽器はやりたくありませんでした。それでヴァイオリンを選んだのです。



―ご家族に音楽家はいましたか?



ガンベローニ いえ、いません。私の実家はヴェローナに近い山間の小さな町にありますが、父は大理石の職人工房を営んでおり、母は会社の秘書の仕事をやめて父を手伝っていました。両親は音楽がとても好きなのですが、子どもの頃、早く手に職をつけなければならず音楽を勉強することはできませんでした。ですから子どもたちには、音楽をする可能性を与えたいと思ったのだそうです。私は日曜日ごとに教会の合唱で歌うのが待ちきれない子どもでした。



―ヴァイオリンから声楽に移行したのはどのようなきっかけだったのでしょう?



ガンベローニ ヴァイオリンは音楽院で勉強し、ディプロマまであと2年でした。ある日、必須科目の合唱の時間にドニゼッティ『愛の妙薬』の合唱部分を歌いました。そこですぐに、なんて素敵な音楽なのだろう!と。14歳の時でした。何度目かの授業の時に勝手にアディーナのパートを歌い、超高音を出したら、先生がレッスンを中断して、私の手を引いてオペラ科の先生のもとに連れていったのです。私の歌を聴いたオペラ科の先生は、「あなたはオペラ歌手になりなさい」と。私はオペラをやりたくて歌ったわけではなかったので「いえ、オペラは興味ありません」と答えてしまったのですが、頭の中にオペラのことが残っていたのですね、両親に頼んでその年のクリスマスに『愛の妙薬』のCDを買ってもらいました。その次に買ったのはモーツァルトのダ・ポンテ三部作のCDで、これを聴いた時に「ダ・ポンテは天才だ!」と思いました。こうして私はオペラに目覚めたわけです。



―それでヴァイオリンから声楽に?



ガンベローニ はい。14歳からオペラ科で勉強し始めました。本来、声楽を学べるのは16歳からなのですが、試験を受けて一番だったこともあり、音楽院の院長が特別に許可を出してくれたのです。最初のうちは自分に合った先生に巡り会えず、試行錯誤しましたが、2000年にアリダ・フェラリーニ先生に師事するようになってからは、彼女が亡くなるまでずっと一緒に勉強しました。



―長く続けていたヴァイオリンは、その後、歌を勉強するのに役に立ったのではないでしょうか?



ガンベローニ 確かにそうですね。ヴァイオリンのような難しい楽器から歌に移行したのは大きな幸運でした。楽器と同じように声に対することができましたから。声を大切に扱うこと、何か欠点があったらできるだけ早く解決しなければいけないことなどですね。



―キャリア初期の頃は軽い高い声の役柄が多かったですね。ミラノ・スカラ座を含むヨーロッパの多くの劇場で歌われたヴェルディ『仮面舞踏会』のオスカルは当たり役ですし、『コジ・ファン・トゥッテ』はデスピーナ役を歌われました。近年はリリックな役柄が多く、フィオルディリージ役は新国立劇場がデビューとうかがっています。



ガンベローニ 実は、私の『コジ・ファン・トゥッテ』デビューは(普通メゾ・ソプラノが歌う)ドラベッラ役でした。今回フィオルディリージを歌うと、私は『コジ』の3つの女性の役を全て歌った数少ないオペラ歌手になります。パルマ王立歌劇場が声の音色が近い姉妹という設定でドラベッラを歌う歌手を探していて、渋々受けたオーディションに受かってしまい最初は不安でいっぱいでしたが、実際に演じてみると楽しかったです。デスピーナ役は英国ロイヤルオペラで歌っていますが、これは演技がとても難しい大変なプロダクションで、再演の時にも歌いました。そういうわけで、本番では間違えて別のパートを歌わないように気をつけなくてはいけません(笑)。



『コジ』の魅力は器楽的な美しさ



―『コジ・ファン・トゥッテ』の魅力はどこにあると思いますか?



ガンベローニ 器楽的な美しさだと思います。『フィガロの結婚』にもその要素はありますが、『コジ』はそれ以上です。登場人物の誰かが主役ということより、アンサンブルに重きが置かれています。フィオルディリージのアリアはすべて、歌のテクニックを聴かせるタイプのもので、声を楽器のように使いこなす必要がありますし、オペラの中で歌う時間も長いのです。発声のチェンジの音域で歌うことが多く、繊細な表現も必要になるので、一音たりとも疎かにできません。おそらく全てのオペラの中で歌うのが最も難しい役のひとつだと思います。デスピーナの歌はよりシンプルですが、常に動きながら歌うのでエネルギーが必要ですし、違う難しさがあります。フィオルディリージは舞台の上であまり動かなくても、音楽が彼女のことを語っているのです。



―ガンベローニさんがオペラ歌手として大事にしていることは何でしょう。



ガンベローニ まずは楽譜に書かれていることをできる限り正確に歌うことです。オペラ歌手は、特にレチタティーヴォの音符やリズムを崩して適当に歌ってしまう場合がありますが、私は音楽的に作曲家には忠実でありたいです。それから言葉を優先して、できる限り明確に歌うこと。最後に、自分自身の何かを、自分が演じる役柄に反映させることです。そうすれば、私の解釈が入った役の表現になります。ここまではひとりの勉強ですが、その後に、演技なら演出家、音楽面は指揮者と話し合って舞台を作り上げていきます。今回の新国立劇場のプロダクションは、演出家のミキエレット氏とはミラノ・スカラ座で一度仕事をしたことがありますが、指揮と歌手の皆さんは全員初共演です。共演者の方々から学ぶことはいつもたくさんあるので、今回も新たな出会いを楽しみにしています。



―夫でもあるテノール歌手、フランチェスコ・メーリさんとの2011年のリサイタル以来の久しぶりの来日です。



ガンベローニ そうなんです! フランチェスコのリサイタルに2009年と2011年に出演して以来です。日本で歌う機会を得られてとても嬉しいです。私は日本を深く愛しており、日本文化をとても尊敬しているので。私たちの長男は今15歳ですが、学校の選択科目で日本語を勉強中なんです。イタリア全国でも日本語を勉強できる高校は4校くらいしかないんですよ。息子はイタリア料理より日本料理の方が好きなくらい日本好きなんです。昨年9月にフランチェスコがローマ歌劇場『椿姫』日本公演で訪日した時にも同行しました。過去のリサイタルの時にはまだ小さかった娘も連れて来ていますので、末っ子の次男が「僕も日本に行きたい、お母さん連れてって!」と騒ぐのですが、さすがにフィオルディリージ役でデビューする時には集中しなくてはなりませんから、今回は独りでうかがいます。



―そんなに日本贔屓でいらっしゃるとは嬉しいです。来日をお待ちしています。



ガンベローニ 日本の歴史や文化を学び、そして私の文化を少しでも皆さんにお伝えできたら嬉しいです。劇場でお会いしましょう!

セレーナ・ガンベローニ Serena GAMBERONI

イタリア出身。2000年にヴェローナで『ドン・ジョヴァンニ』ツェルリーナに出演してデビュー。ジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ歌劇場で『愛の妙薬』ジャンネッタ、『フィガロの結婚』スザンナ、『仮面舞踏会』オスカル、『ドン・パスクワーレ』ノリーナに、トリノ王立歌劇場で『愛の妙薬』アディーナ、『ラ・ボエーム』ムゼッタ、『ジャンニ・スキッキ』ラウレッタ、パルマ王立歌劇場『コジ・ファン・トゥッテ』、『ウェルテル』などに出演。『ファルスタッフ』ナンネッタでヴェローナ野外歌劇場、ローマ歌劇場に、『仮面舞踏会』オスカルでパルマ・ヴェルディ音楽祭、トリノ王立歌劇場、ヴェローナ野外歌劇場に出演し、同役でミラノ・スカラ座、英国ロイヤルオペラにデビュー。最近の出演に、パレルモ・マッシモ劇場『ウェルテル』ソフィー、カルロ・フェリーチェ劇場で『トゥーランドット』リュー、カリアリ歌劇場、フィレンツェ歌劇場で『フィガロの結婚』伯爵夫人(ロールデビュー)、フェニーチェ歌劇場『仮面舞踏会』オスカル、英国ロイヤルオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』デスピーナなどがある。新国立劇場初登場。



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