オペラ公演関連ニュース

オペラ『修道女アンジェリカ/子どもと魔法』公演評 10月5日(木)朝日新聞夕刊

(評・音楽)新国立劇場「修道女アンジェリカ」「子どもと魔法」 対照的な世界、現実あぶり出す

00_DSC_3062logo.jpg
『子どもと魔法』から=寺司正彦氏撮影


 新国立劇場のシーズン幕開けを飾るのは、「母と子」に焦点を当てた近代イタリアとフランスの小規模オペラのダブルビル(2本立て)。20世紀前半の比較的近い時期に誕生した2作だが、描かれる世界は対照的だ(1日、新国立劇場)。



 17世紀の修道院を舞台とするプッチーニの「修道女アンジェリカ」は、不在の子を思う「母」の物語である。亡き息子との再会を夢見て毒をあおったヒロインは、宗教上の大罪を犯したことに気付き、同じ「母」である聖母に赦(ゆる)しを請う。表題役のキアーラ・イゾットンは、次第に明らかになるひとりの人間の複数の顔をドラマティックに演じ分けた。場面の展開に寄り添い、千変万化する沼尻竜典の繊細な音作りや、回転式の装置で修道院という迷宮の光と影を描き出す舞台美術の妙も特筆すべきものだった。



 静謐(せいひつ)で悲痛な「母」の世界とは一転、後半の「子どもと魔法」が見せるのは奇想天外で賑(にぎ)やかな現代のワンダーランドだ。映像技術を大胆に使い、カラフルなかぶりものを着けた歌手やダンサーが目まぐるしく登場するが、真骨頂はやはり、ラヴェルのデザインしたとびきりモダンな音響効果だろう。世田谷ジュニア合唱団の子どもたちが溌溂(はつらつ)と歌うデタラメな算数の歌も、躍動的で楽しい。一方、クロエ・ブリオ演じる「子ども」は自らの悪戯(いたずら)が引き起こしたとんでもない展開にあたふたするばかり。最初と最後にシルエット(と声)のみで登場する「母」の印象は薄い。



 粟國淳の演出は、二作を別個の世界として描き分けつつ、母と子がそれぞれ直面する社会の厳しい現実を象徴的にあぶり出したが、おのおのの「罪」を問われる主人公たちが一応救われる結末に、一筋のあたたかな希望をにじませた。(神保夏子・音楽学者)



10月5日(木)朝日新聞夕刊 3面

本記事を朝日新聞社に無断で転載することを禁じます

承諾番号:23-2818

関連リンク