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『子どもと魔法』子ども役 クロエ・ブリオ インタビュー

クロエ・ブリオChloé BRIOT
クロエ・ブリオ

2023/2024シーズンのオペラのオープニングを飾るのは、プッチーニ『修道女アンジェリカ』とラヴェル『子どもと魔法』のダブルビル新制作!

『子どもと魔法』の子ども役を歌うのは、フランスの歌姫クロエ・ブリオだ。

子ども役を歌って200回というブリオにとって、『子どもと魔法』は歌手人生と共にある作品。

今回の公演が初来日となるブリオに、『子どもと魔法』の魅力をうかがった。





(ジ・アトレ誌2023年8月号より)



『子どもと魔法』はずっと寄り添ってきた作品 子ども役は私を豊かにしてくれました


-ブリオさんは打楽器を学んでいらしたそうですが、声楽を学ぶようになったきっかけは?


ブリオ 記憶をたどれる限り、私はずっと歌っていました。小さい頃、家族旅行でドライブに出かけるときなど、カセットテープにいろいろな曲を集めて、それを大音量で再生しながら大声で歌ったり。自分の部屋でも大声で歌っていました。いつの間にか音楽が好きになり、ずっと音楽に包まれて暮らしていました。ただ、声楽の勉強を始めるには、声変わりまで待たねばなりませんでした。女性の声変わりは男性より少し遅く19歳くらいなのですが、結局私は待てず、音楽院の先生を説き伏せて14歳から始めました。この時の先生を通してオペラと出会い、オペラはこの世で最も力強い芸術だと発見したのです。その後パリ国立高等音楽院に進みました。

-子どもの頃からプロの音楽家になろうと思っていたのですか?

ブリオ いえ。音楽を職業にできること自体、想像もしていませんでした。幼い頃から音楽を始めたのは、習い事をするといいだろうと両親が考えたからです。とても小さな音楽学校で同じ先生にパーカッションとソルフェージュを習っていたのですが、その先生が私の声を聞いて、歌の勉強を勧めてくれたのです。つまりパーカッションを習っていなかったら、そもそも歌手になっていなかったのです!


-10月、オペラパレスで歌ってくださるのは『子どもと魔法』の子ども役です。


ブリオ 『子どもと魔法』は私にとって本当に大切な作品です。エクサン・プロヴァンス音楽祭で初めて歌い、ここから歌手としてのキャリアが本格的にスタートしました。『子どもと魔法』のおかげで多くの指揮者と出会い、多くの名門オーケストラと共演する機会が得られました。そして、この作品と出会ったおかげで、フランス音楽のスペシャリスト的なものになれました。『子どもと魔法』の子ども役を勉強したとき、男声の役も含めて全ての役を稽古しましたが、そのとき、自分が思い描いた理想的なクラシック音楽の世界そのものに飛び込んだ気がしたのです。  ずっと寄り添ってきた作品で、もう200回くらい歌いましたが、その中で自分も歌手として進歩できたと思います。ひとつの役を何度も演じると、その役を変化・成熟させていくことができます。この役は、自分を豊かにしてくれました。それを日本で歌えるなんて!オファーをいただいたときは、嬉しすぎて信じられなかったほどです。初めての日本で、私にとってとても大切な公演となります。本当に嬉しいです!


-子ども役を演じるとき、ブリオさんが特に心を砕いていることは何でしょう。


ブリオ 大人が子どもの役を演じるのはとても難しいことです。私個人の考えですが、大人が想像する子どもっぽさをことさら強調するような表現になってはいけないと思うのです。大人になると忘れがちですが、自分が子どもだった時どういう気持ちを抱いたかを思い出すようにとても気をつけています。

 子どもの感情、感動というものは、大幅に増大されます。生のままの感情、これが子どもの気持ちです。子どもの役を大人に演じさせるのを恐れる演出家をしばしば見てきました。簡単なことではないですから。そこで、子どものふり、女の私が男の子のふりをするという悪い癖に陥らないよう、演出家と共に心がけました。"ふり"ではなく、躊躇せずに自分の個性を出して、率直に取り組む必要があります。ボディーランゲージ、視線の使い方など、全てに緻密に取り組まないといけません。舞台上ではどのようなことも緻密であるべきですが、子ども役は僅かなズレも許されません。自分がその時演じるべき感情の原点を、決して見失ってはいけないのです。


-このオペラでは、動物、昆虫、物語の登場人物、家具、ティーポット、さらには数字、とあらゆるキャラクターに命が吹き込まれます。そこに、古いメヌエットからラグタイム、ワルツなど様々なタイプの音楽が作曲された、ラヴェルの音楽的アイディア満載のオペラですね。音楽面でブリオさんが特に興味深いと感じるのはどんな点でしょう?


ブリオ パーカッションを修めた身としては、注目するのはリズムです。本当に多くの要素が含まれていて、当時としてはとても革新的です。いきなり七連符で始まるなど、時には難解な箇所もあります。ラヴェルが作曲時に念頭においた仕組みを理解する必要があり、そこがまた面白いところでもあるのです。動物の効果音的に入っている様々な要素も、庭の場面も、まさにラヴェルの天才ぶりが表れているところだと思います。


オペラのあらゆる要素が50分に凝縮された奇跡の作品


-第一場のハイライトともいえる子どものモノローグ「君はバラの心」は心を打たれます。


ブリオ 子どものもろさを垣間見せるような、心を開くモノローグだと思います。オペラの序盤で歌いますが、子ども役にとって最も難しい箇所です。直前に怒りや対立など熱量の高い要素がたくさんあるため、この歌にたどり着くとき息切れしていることが結構あるのですが、その緊張を一気に解いて、目の前にあるものに驚嘆して歌わなければならないのです。『子どもと魔法』は、子どもが様々な経験を通して成熟する過程を描いています。「君はバラの心」を歌っているとき、子どもの心は非常に動かされているので、私は、緊張が解けた解放感と誠実さが入り混じった思いを込めて歌っています。


-『子どもと魔法』の魅力とはなんでしょう?


ブリオ "難しさ"ですね。自分を追い込んでやり遂げることができるので、難しいことに挑戦するのが好きな私にとって、そこがこの作品の魅力です。

 それから、最後にある、最高に美しい合唱です。あらゆるオペラ作品の中で最も感動的な曲だと思います。演じるたびに、この合唱に大いに心を揺さぶられ、最後はいつも泣いてしまいます。あそこで子どもは許されるのですよね。とても素敵なストーリーになっていて、これこそがこの作品の持つ力だと思います。オペラの劇作上のあらゆる要素が、50分の中に凝縮されているのです。信じられません。


-初めての日本とのことですが、日本で体験したいこと、行きたいところはありますか?


ブリオ 何もかも見てみたいです!日本の文化にとても惹かれています。実は......できれば秋田に行ってみたいです。飼い犬が秋田犬のメスで本当に大好きだったのですが、数日前に亡くなりました。この犬種に完全に心を奪われました。なので、日本で何かひとつするなら、最高だった犬にお別れをするため、巡礼に行く意味で秋田に行きたいです。


-最後に、ブリオさんの舞台を楽しみにしている日本の聴衆にメッセージを。


ブリオ 皆さんにお会いできるのが待ち遠しく、楽しみにしています!『子どもと魔法』に対して自分が抱いている愛の全てを、皆さんにお伝えできますように。人間同士の本当の出会いができますようにと願っております。

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