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『カルメン』カルメン役ドゥストラック インタビュー

オペラの2020/2021シーズンを締めくくるのは新制作『カルメン』。

演出家アレックス・オリエの大胆な解釈による壮大な舞台でカルメンを演じるのは、ステファニー・ドゥストラック。

ウィリアム・クリスティに見出されてバロック・オペラで活躍したのち、レパートリーを広げ、現在はヨーロッパの歌劇場や音楽祭でフランス・オペラの舞台にいなくてはならないメゾ・ソプラノ歌手だ。

演技力にも定評のあるドゥストラックにとって、『カルメン』は最も得意とする役のひとつ。 カルメンという女性、そしてその音楽の魅力をうかがった。

ジ・アトレ誌6月号より



フランス語ならではの声色を大事に歌いたい

― 子どもの頃から児童合唱団で歌われていたとのことですが、10代の頃は俳優になりたかったそうですね。オペラ歌手への道のりについて教えてください。

ドゥストラック(以下D) 舞台に興味があって、まず演劇と出会いました。最初はオペラを知らなかったのです。内気な子どもだったため、役に立つだろうと母が私を演劇のワークショップに通わせたのが始まりでした。9歳の時です。そして11歳頃、喘息の助けになるだろうと歌を歌うようになりました。芝居も歌も好きでしたが、当初この二つは私の中では全く別ものでした。そして14、5歳頃にオペラを知り、これだ、と思い勉強を始めたのです。レンヌ歌劇場の合唱団で歌ったりもして、オペラの世界を間近に見る機会に恵まれました。運の良いことに、学生のとき、ウィリアム・クリスティが主宰するアカデミーのオーディションを受け、いい役がもらえたので、オペラを続けようと決意しました。



― デビュー後はしばらくバロック・オペラの舞台で活躍され、2010年にリールで『カルメン』を歌ったのを機にいわゆるメインストリームのオペラの世界にも活躍が広がりました。バロックのレパートリーをたくさん歌ったことは、どんな経験をもたらしましたか?

D  順応性を身につけることができました。バロック音楽はとても柔軟性に富んだ音楽ですが、同時に非常に厳密なところもあります。そして、テキストを大事にすることも学びました。とにかく、これは歌う演劇だと、初めから大好きになりました。



― ドゥストラックさんは、『カルメン』をはじめ、母国語であるフランス語のオペラをとりわけ得意とされています。フランス語で歌うことの喜び、難しさなどを教えてください。

D  フランス語には鼻母音や口を狭めた音があり、歌う上では十分遠くまで声を響かせながらも、聞く側が内容を理解できるような音にする、そのほどよい加減を見つけなければなりません。特にオペレッタやオペラ・コミックでは、台詞と歌の移行をできる限り自然にすることが難しいです。

 フランス語は抑揚の少ない言語ですので、歌うと非常にレガートになります。その中で、いかに表現をつけ、意味を伝えるかがポイントになります。私はこの点を追求するのが大好きで、ウィリアム・クリスティからも鍛えられました。歌唱技術はもちろん重要ですが、美しい音だけでは歌うべきことの3割にすぎません。言葉や色合いを繊細に表現することも大事なのです。

 また、フランス語に限らず、言語には独特の色があるので、それを尊重するように心掛けます。近年は声のタイプが国際的に均一化してきていますが、以前はロシア的な声、スペイン的、イタリア的、フランス的、など声自体にも特徴があり、聴いて分かったものです。そのような言語特有の色も大事にしていきたいです。


まっすぐに、全身全霊で生きるそんなカルメンに惹かれます

ステファニー・ドゥストラック

― カルメンというキャラクターはとても演じ甲斐のある役だと思いますが、どんな点に魅力を感じますか?

D  喜びから、ある種の傲慢さに近いものまで、本当に様々な感情が行き交う役です。生きる力、大きな活力を彼女は持っていて、そんなところに人々は魅かれるのです。私が特に好きなのは、彼女が非常にまっすぐな人間であること。これと決めたら、やり遂げるのです。例えば、自分が死ぬとわかっていても出かけていく。恐れずに、全身全霊で生きていくのです。



― 音楽的・声楽的には、カルメンはどんな特色があるでしょう。

D  カルメンの音楽は非常に繊細で、軽快でありながら、音楽的表現はさまざまに変化します。太陽のようなエネルギーを発するところもありますが、少しずつ悲劇的な側面が強まっていき、占いの場面やフィナーレの二重唱では、声の音量が突然大きくなるところも出てきます。作品冒頭あたりのカルメンの歌は台詞に近かったのが、占いの場面やフィナーレの二重唱はずっと声楽的で、かつ、激しくなります。音楽的に実に見事に書かれた作品です。私がメルセデス役で出演したときのカルメン役には、大劇場で歌うから、とずっと大声で歌い通す人もいました。私がカルメンを演じるときは、指揮者や演出家の意図を受け入れつつ、作曲家を尊重する意味でも、この役の繊細さを大切にして歌うようにしています。



― リールで初めてカルメンを歌って以来、グラインドボーン、エクサンプロヴァンス、マドリード、ダラス、ベルリン・ドイツ・オペラなど、各地でこの役を演じてこられました。その間、役へのアプローチは変わりましたか?

D  幸運なことに、これまでプロダクションごとに全く色合いの異なる『カルメン』に出会ってきました。シヴァディエ、マクヴィカー、チェルニャコフなどの『カルメン』は、いずれも似たものはなく、私にとって大切な糧となっています。新しいプロダクションに出演するときは、以前の経験には固執せず、毎回まっさらになって取り組むよう心掛けています。その度ごとに自分が驚きを感じられるように。今回の演出家アレックス・オリエさんとは初めてですので、新たな冒険を楽しみにしています。

― 今回の指揮者である大野和士オペラ芸術監督とは、2012年のグラインドボーン音楽祭のラヴェル『スペインの時/子どもと魔法』で共演されていますね。


D 
 グラインドボーンでは3か月近くご一緒しましたが、いい思い出ばかりです。大野さんは明確なビジョンを持ち、考えがクリアで、ほとんど話し合わなくても分かり合えました。一緒に仕事をして大きな喜びを感じるマエストロです。いきいきとした音楽をつくられるので、活力あふれる『カルメン』になるだろうと本当に楽しみです。


― これまで日本へは、2002年エクサンプロヴァンス音楽祭東京公演のミンコフスキ指揮『フィガロの結婚』、2006年「パリ・シャトレ座プロジェクト」のウィリアム・クリスティ指揮ラモー『レ・パラダン』でいらしています。今回はそれ以来の日本ですか?


D 
 そうです、本当に嬉しいです。時間的な余裕ができれば、少し東京を楽しめたらと期待しています。日本が大好きな友人がたくさんいるので、みんなそれぞれのお勧めを教えてくれるのですよ。本当は父も一緒に日本へ行こうとすごく楽しみにしていたのですが、現状では観光客は入国できないため断念せざるを得なくて、その点はとても残念です。


― 最後に日本のオペラ・ファンへメッセージをお願いいたします。


D 
 日本でも音楽活動が制限され困難な状況かと思いますが、共に作品を作る喜びを味わうのがとにかく待ち遠しいです。今回ご一緒する指揮者、演出家、出演者、スタッフの皆様と、作品の新たな発見や驚きに心を躍らせるのを楽しみにしています。世界で最も多く上演されているオペラ『カルメン』を、早く日本の皆様と分かち合えますように!






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