オペラ公演関連ニュース

オペラ『カルメン』リハーサル開始・演出コンセプト説明


2020/2021シーズン最終公演『カルメン』のリハーサルが始まりました。

『カルメン』は本公演と並行しての高校生のためのオペラ鑑賞教室公演、そしてびわ湖ホール公演と全14回公演が控える、2万人の観客へ向けた大プロジェクトです。『トゥーランドット』でも話題を巻き起こしたアレックス・オリエ演出、大野和士指揮のコンビで、再び日本を情熱の渦に巻き込みます。

稽古初日に行われた、アレックス・オリエの演出コンセプトのプレゼンテーションの様子をご紹介します。『カルメン』に向け来日したアレックス・オリエ氏と美術・衣裳・照明のクリエイティブ・スタッフ、そして海外で演奏会を指揮して帰国した大野和士芸術監督は、入国後の待機(隔離)中のため、リモートでプレゼンテーションを行いました。




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大野和士のあいさつ

大野:この1年間を考えますと、ちょうど今から1年前は1回目の緊急事態宣言が解除され、演奏会の再開の動きが始まったところでした。それから、1年間、演奏会に続いてオペラも始まり、昨年9月のリハーサル再開以後、新国立劇場のオペラは1演目もキャンセルせずに公演を行って参りました。それもひとえに皆様の献身的なご協力、それにご努力の賜物だと、心から心から感謝したいと思います。ありがとうございます。

これから『カルメン』、そしてオペラ夏の祭典 2019-20Japan↔Tokyo↔World『ニュルンベルクのマイスタージンガー』東京文化会館公演が続きますが、その両方に参加される方も大勢いらっしゃると思います。その期間中に何事も起こらず、無事にこの大きなプロダクションが成立し、お客様へ届けられることを心から祈っております。

『カルメン』は何回も上演されてきましたが、今回のアレックス・オリエさんの演出は非常に斬新な視点から『カルメン』を捉え直した演出であります。カルメンが現代に変えて言うならばマドンナやレディ・ガガのようなロック界の大スターとして登場します。

そこにはジェンダーの問題や、あるいはカルメンが――これはビゼーの作品の本質でもありますが――カルメン自身が自らの手で人生を決定し、自分の運命を定めていく、その姿がこの現代化された『カルメン』の中でより明確に示されていくであろうと期待しています。よくあるような19世紀に根差した演出、保守的な演出ではない、が故に、我々の時代に直接語りかけるカルメン像であり、2幕の最後に歌われるカルメンと合唱が歌い上げる「リベルテ(自由)」という言葉――この言葉が短いビゼーの人生の中でも最大のテーマだった訳ですが――この言葉を追及することを、アレックス・オリエさんの演出は目指していると考えています。

私も間もなく隔離が明けますので、すぐに音楽稽古を始めたいと思っています。今、私たちのカルメン、ステファニー・ドゥストラックさん、エスカミーリョのアレクサンドル・ドゥハメルさんもYouTubeでこの画面を見て、一緒にアレックス・オリエさんの説明を聞いていまして、11日からリハーサルに参加することになっています。この『カルメン』においても、安全を第一に、ディスタンスのことなどにもよく気を配りながら、一方で合唱の皆さんの動きでもたらされるひとつの渦のようなものが、どのくらい実現化されるか、これからの練習の中で皆さんと共に考えていきたいと思っています。それではアレックスの方にバトンを渡して、コンセプトをお聞きしたいと思います。



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アレックス・オリエ(左上)とクリエイティブ・スタッフ達

オリエ:まず初めに、大野さんへ感謝の念を表明したいと思います。私たちを信頼し、チャンスを与えてくれ、こうして再び日本にいることを大変うれしく思います。皆さんの頭の中ではまだ『トゥーランドット』はフレッシュでしょうか。今はパンデミックという条件下ですが、今回もあのように大きく素晴らしいプロダクションを目指したいと思っています。


スペイン人女性カルメンは一つの伝説です。この伝説は、メリメが1845年に同名の小説を発表し、ビゼーがオペラ座で1875年にオペラを初演して以来、国内外で高い地位を保ち続けています。カルメンの伝説は演劇、映画、舞踊、絵画、文芸あらゆる芸術の中で生き続けているのです。そこで、私の中で一つの問いが生まれました。なぜカルメンという女性は、創造されてから175年も経った今日でも、私たちを魅了し続けているのでしょうか。カルメンは力であり、勇気、反骨心、そして一番重要なのは自由の象徴なのです。皆さんには『カルメン』と言うと闘牛やフラメンコ、パーティーといったイメージがあると思います。しかし私たちの主眼はスペインを前面に出すのではなく、"女性"に焦点を当てていきたいと思います。世界のどこにでもある、女性についての物語に集中したいと思います。


もちろんカルメンはスペイン人であり、フラメンコダンサーであって、エスカミーリョは闘牛士である、それは物語のベースにはありますが、今回の私たちのプロダクションでは、日本という中でスペインのイベントを紹介したいと思います。闘牛、ダンス、コンサート、様々なイベントがある中でカルメンとエスカミーリョが出会うという設定です。今回は日本を舞台としますが、日本かもしれないし、次に上演する国にしてもよいくらい、世界中どこででも起こり得る女性についてのストーリーにしたいと考えました。19世紀に書かれたストーリーであっても、今日の皆さんが理解できる話にしたいと思っています。


カルメンは強い女性、自分の手で自分の運命を考えられる女性、自分の意志がある女性と考えています。時代を超えた普遍的な物語と設定しています。カルメンは現代を生きる女性なのです。人生経験は沢山あり、世界中を自由気ままに往来する女性でもあります。人生経験豊富ですが、それでも避けられなかったのが、間違った相手と恋に落ちてしまうことでした。それはドン・ホセという独占欲の強い男性です。今日であればカルメンの悲劇は、嫉妬から来る女性に対する暴力のひとつの例としてニュースに取り上げられる出来事だと思います。

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『カルメン』セットプラン

メリメの作品では、『カルメン』に登場するのはたばこ工場の労働者、ジプシーと闘牛士です。アンダルシア地方のボヘミアンのフラメンコ芸術の環境です。ビゼーのオペラではたばこ工場の女工として登場しますが、本来彼女の世界は工場の外であり、そこでは、彼女はフラメンコ歌手、カンタオラとしてふるまうのです。リリャス・パスティアの居酒屋、そして隊長スニガの前でも、彼女はアーティストとしてふるまいます。スニガも「君に期待しているのは歌ではない」と言い残します。その歌と居酒屋の世界こそ、私たちをこの舞台に導くものでした。カルメンは大きなステージで歌う歌手にもなりえますし、小さな店で歌う歌手にもなり得ます。公演の世界は、旅、人々、ドラッグ、パーティー、不特定多数との性的関係などの世界とも隣り合わせです。これらすべてがカルメンが属する世界にふさわしいと私は考えました。この比喩により、カルメンの物語が現代の視点で理解できるよう、現代の観客向けに『カルメン』を演出するということが可能になりました。

そして私たちにとってエイミー・ワインハウスというアイディアが生まれました。彼女こそカルメンに一番近い。私たちにはエイミー・ワインハウスは実在する、名の知れた、親近感を感じることができる理解できる人物として、カルメンを理解するためのモデルとなり、観客にも共感できると思っています。エイミーを知らない人へもこの物語は伝わると思います。舞台のプランはこのようなアイディアを融合させ生まれました。リュックもアルフォンスもいろいろアイディアを出してくれましたが、ロックコンサートで使われるような鉄パイプ構造で表現したいと考えました。エイミー・ワインハウス風のカルメン、警官、ファンの人々、コンサートのスタッフ達が登場します。ディスタンスの関係でできないことも沢山あるので、どういう風に見せるか考えている最中です。早く皆さんの顔を生で見て、一緒にリハーサルがしたいと思っています。



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コンセプト説明の様子

オリエ氏のコンセプト説明の後、大野和士芸術監督がキャスト変更で急遽本公演に出演することとなったドン・ホセ役の村上敏明さんを紹介すると、オリエ氏も「『トゥーランドット』のポンも素晴らしかった村上さんがホセをやってくれることを本当にうれしく思っています。『トゥーランドット』で共演した素晴らしい皆さんと再び仕事ができてうれしいです」と応じていました。

演出コンセプト説明には、アルベール・エスタニー(演出助手)、アルフォンス・フローレス(美術)、リュック・カステーイス(衣裳)、マルコ・フィリベック(照明)、クロエ・キャンベル(衣裳助手)もリモートで参加しました。皆来日し、新国立劇場で創造活動を行うことを心待ちにしています。また、感染対策のため、全出演者が集まっての盛大なキックオフとはいかなかったものの、立稽古に参加したキャストと合唱のみが稽古場に集まり、他の皆さんはリモートでの見学となりました。




『カルメン』は4週間のリハーサルを経て、7月3日(土)に新国立劇場で開幕、次いで高校生のためのオペラ鑑賞教室が7月9日(金)に、びわ湖ホールでは7月31日(土)・8月1日(日)に上演されます。

現代の私たちへ問いかける新しい『カルメン』、世界が注目するワールドプレミエにどうぞご期待ください。



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コンセプト説明に参加したソリスト 山下 牧子(カルメン役カヴァー)、森谷 真理、妻屋 秀和、砂川 涼子、金子 美香、村上 敏明、吉川 健一
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新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブルの音楽稽古
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オリエ氏が隔離中の立稽古はリモート演出で
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画面:アレックス・オリエ(左上)とアルベール・エスタニー(演出助手)




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