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『夜鳴きうぐいす/イオランタ』オペラ研修所修了若手歌手インタビュー

『夜鳴きうぐいす/イオランタ』で、新国立劇場オペラ研修所を修了した3人の若いオペラ歌手が新国立劇場デビューを飾りました。

大舞台に立った伊藤達人、濱松孝行、井上大聞にデビューの感想を突撃取材しました。

伊藤達人(『夜鳴きうぐいす』漁師役/テノール/オペラ研修所第14期修了)

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――2014年に研修所を修了して、他団体では出演を重ねられていますが、7年の後についに新国立劇場オペラデビューとなりましたね。漁師役は幕開けと共に一人で登場する大役ですが、オペラパレスの舞台に立った感想をお聞かせください。

初日はもう、緊張で終わりました。研修所の3年間ここで沢山オペラを見せてもらい、海外から来たプリモ、プリマを次々に見た、その憧れの舞台に立てたので。2日目はちょっと楽しめたかなという思いはあります。今日(3回目の公演)はもっと楽しみたいです。毎回、もっと声を磨かなければ、演出家の要望に応えられているんだろうか、といった不安も抱いているので。



――演出のコッコスさんの要望というのはどんなものだったのですか?

漁師はストーリーテラーで、哲学者なのかもしれない、ということでした。ずっと自然の風景について歌っていて、会話というものがほとんどない。うぐいすの歌に対して「なんて美しいんだ」という一言があるだけです。最後だけは「聞いてごらん」という命令形なんですが、それはお客さんに投げるのかなと思っていたら、コッコスさんによると、自分の中の対話なんだそうです。自分の中で自問自答しているだけのことを、どうやってお客さんへ向けて表現したらよいのか、まだ模索しています。難しい役ですね。

――稽古中はどんなことを感じましたか?

素晴らしいキャストの皆さんで、歌っている人たちの声が気持ちいいなと感じながらいつも稽古していました。アルメリック役のカヴァーとして『イオランタ』の稽古も見ていたので、妻屋秀和さんや大隅智佳子さんが歌うのを聞いて、あんな声を出したいなと思っていました。聞いていると歌いたくなってしまうんです。山下牧子さんの死神役、あんな役はやってみたいですね。チャーミングで素敵な役ですよね。

――次は『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ですね。

2020年の『マイスタージンガー』が新国立劇場デビューの予定だったのですが、キャンセルになってしまって今回のデビューが先になったのです。ベルリンに留学した経験もあって、ドイツ物をやりたいという気持ちはあるんです。いつかローエングリン役をやりたいです。フォークトの『ローエングリン』はここで2回、ベルリンでも聞きましたけど、素晴らしいですね。あとはフランス物の『ファウスト』とか。日生劇場で出演した『ヘンゼルとグレーテル』の魔女役も面白かったです。ヒロイックな役もキャラクターも歌えるテノールでいたいです!

濱松孝行(『夜鳴きうぐいす』日本の使者1/テノール/第20期修了)

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――濱松さんは昨年オペラ研修所を修了して、1年後のデビューとなりました。

昨年の修了後、本当はすぐに演奏会があるはずだったのですが、それがコロナ禍で中止になって、その後は、普通の仕事をしながら歌の練習もする生活をしばらくしていました。11月頃から少しずつ演奏会がぽつぽつ入り始めて、この4月を迎えました。このような大きな機会をいただけて本当に光栄です。

――今回が新国立劇場オペラ出演は初めて、そしてプロとしてオペラの現場に入るのも初めてですよね。稽古の現場に入った時の気持ちはいかがでしたか?

研修生として稽古場を使わせていただいたことはあったのですが、本公演の1キャストとしてここに来て、「あ、ここが稽古場なんだな」と改めて思いを嚙み締めました。今回は『イオランタ』のヴォデモン伯爵のカヴァーも務めていて、『夜鳴きうぐいす』でなく『イオランタ』の稽古に先に参加しました。その時に「こういう風に作品を創っていくんだな」と感じました。研修所でも同じ演目をやったのですが、創り方にしても、周りの皆さんの取り組み方にしても、違いをひしひしと感じました。

――公演初日、舞台に立った時の気持ちは?

何しろ最初に登場した時には「ああ、これがオペラパレスなんだ」とうれしく感じました。研修生の時にもこの舞台には立ち、もちろん今回の舞台稽古でもこの舞台には立っているんですが、本番はとにかく違う。「ああ、これだ」という感慨がありました。

――『夜鳴きうぐいす』の使者役はいかがですか?

音楽を勉強していた時点で、オリエンタルな感じの役であることは感じていたのですが、まさか自分の衣裳があそこまでデフォルメされて、強調されているとは予想できなくて。演出家の意図が細部まで反映されて、こういう衣裳を着るのだと実感しました。

――今回はゲネプロで、『イオランタ』ヴォデモンのカヴァーとしても急遽歌唱をしました。

カヴァー歌手のリハーサルもありましたし、ヴォデモンはオペラ研修所で経験していた(※大野和士芸術監督の発案により、本公演に先駆け、2019年にオペラ研修所と連携し、『イオランタ』を研修所試演会で上演した)役でしたが、高関健さんの指揮で歌うのはあの場が初めてでした。自分がやってきたことを必死で、一演者としてただただ出し続けた感じです。カヴァー歌手ですので、出番がないのが一番なのですが、心の中ではいつでも行けるよう準備していたつもりが、いざ来たら、とにかく必死でした。

――プロの歌手になったという実感はありますか?

海外のサイトでOperabaseというデータベースがあって、世界中の歌手の出演情報が出ているんですよね。この前試しに自分の名前を入れてみたら、ちゃんと出てきたんです。この職業は免許や資格がある訳ではないのですが、オペラ歌手として認めてもらえたという感慨がひとしおでした!

井上大聞(『イオランタ』ロベルト役/バリトン/第21期修了)

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――『イオランタ』ロベルトは一曲で場をさらう大役ですね。

研修所を出たばかりでこんな大役を歌えるとは思えなかったのですが、ただの幸運にならず、役に見合った歌い手であると思っていただけるようにと、誠心誠意準備してきました。

――実際に出演が決まったのは2月上旬ですよね。

もともとカヴァー歌手には決まっていたのですが、出演の連絡を受けたのは2月で、研修所の修了公演の稽古中でした。何とも複雑な気持ちでした。外国人の入国ができないというニュースは見ていたので、もしかしたら自分にチャンスが来るかもしれないという期待と、そんな役を務められるのかという不安を持っていたのですが、実際に話が来た時には「ついに来たか」という気持ちでした。現役の研修生でしたので、修了公演との両立の不安もありました。研修所の先生方から「良かったじゃないか」と送り出していただいた感じです。

――『夜鳴きうぐいす/イオランタ』の稽古初日が、オペラ研修所修了公演の千秋楽でしたね。

修了公演出演後に稽古場に駆けつけて、コッコスさんのコンセプト説明を聞きました。第一線で活躍されている歌手の方々が座っていて、自分は遅れて着席するような形だったのですが、そこに入ってから「ここが稽古場なんだな」と気づきました。リハーサルが始まってみると、研修所とはまた全然違い、第一線の歌手の皆さんが一回一回のリハーサルに大変な集中力を持って臨んでいるということに刺激を受けました。ただ幸運なことに、研修所試演会の『イオランタ』でコッコスさん、演出補の三浦安浩さんと作品を創った経験がありましたので、その点では安心して稽古に臨むことができました。

――試演会のリハーサルでのコッコスさんはいかがでしたか。

海外から来られる演出家の方に会うのも初めて、世界的に活躍されている方も初めてでした。始めはオペラの演技を創るのではなくて、『イオランタ』の音楽にあわせて少し動いてみよう、というインプロヴィゼーションのようなことから始めました。日本の方々とは少し違う視点で作品を創られるのだなと感じました。特にこのロベルトは、アリアをピアノにもたれて歌うという衝撃的な演出でした。それまでピアノを隠していたカーテンをそこでさっと開けて、そのためだけにピアノに照明を当てて、ロベルトが歌う特設ステージが出現するような演出でした。あの曲だけは全く別物のショーのようにしたいんだなと感じました。

――ロベルト役はお好きですか?

今までやってきた中で、一番、自分の今の声を活かせる役だと思っています。年齢的にも今の自分自身を等身大で表現できる役です。この役に巡り会えたことが運命的だと感じているんです。オペラ研修所に入らなければ出会えなかった役ですし、ましてやその役に出会ったおかげでこのような機会をいただけたので。研修公演(2019年の試演会『イオランタ』の同役)で歌ったとは言え、公演本番の舞台袖では、いきなり比べ物にならないプレッシャーが降りかかってきました。それでも歌い終わってお客様の拍手を受ける経験も、研修所時代とは全く違う、計り知れないものがありました。今の自分で出せるものは出し切っていると思います!


新国立劇場オペラ研修所修了生達のますますの活躍に、どうぞご期待ください。

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