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『夏の夜の夢』オーベロン役 藤木大地 インタビュー


2020/2021シーズンの開幕を飾る『夏の夜の夢』で妖精の王オーベロンを歌うのは、カウンターテナーの藤木大地。

新国立劇場オペラ研修所を修了後、2013年ボローニャ歌劇場でヨーロッパ・デビュー、2017年ウィーン国立歌劇場に東洋人初のカウンターテナーとしてデビューし、いまヨーロッパの歌劇場で大活躍中の彼が、17年ぶりに新国立劇場の舞台に立つ。

「カウンターテナーにとって最も重要な役」と藤木が言うオーベロン、そして『夏の夜の夢』について語る。

クラブ・ジ・アトレ会報誌5月号より(抜粋)


オペラ歌手になるために必要なことは
オペラ研修所で学んだ


藤木大地

――新国立劇場オペラ研修所OBで、今、世界で大活躍の藤木さん。新国立劇場へは久しぶりの登場ですね。

藤木 2002年から05年までオペラ研修所で学び、2003年『フィガロの結婚』ドン・クルツィオ役で初めて新国立劇場のシーズン公演に出演しました。今回、新国立劇場に「出演」するのは17年ぶりです。新国立劇場では主役は外国人歌手しか歌えないと思っていましたから、主役オーベロンを僕に任せてくれたのは感慨深いです。



――オペラ研修所、『フィガロの結婚』のときはテノールでしたが、その後カウンターテナーに転向なさいました。2010年、ウィーン留学中に風邪をひいて裏声で歌ったことがきっかけだったとか。転向は難なくできましたか?

藤木 テノールもカウンターテナーも、声楽の基本という意味では、発声や筋肉の使い方は同じです。ただ、カウンターテナーになって新たに学ぶ必要があったのが、コロラトゥーラのテクニックと、低音域で裏声から地声へスムーズに変えること、この二点です。声楽のレッスンは時間が掛かるものですが、早く結果を出さねばなりませんでした。というのは当時すでに31歳。生活のために仕事を早く再開しないといけなかったので、無我夢中で頑張りました。



――カウンターテナーの勉強はヨーロッパで、ということですが、オペラ研修所で学んだことで印象深いことはありますか。

藤木 オペラ歌手になるためのことは、オペラ研修所でほとんど学びました。オペラのゲネプロや本番はもちろん、バレエや演劇も見せてもらい、劇場とはどういうものなのかを知ることができました。また、外国からたくさんのコーチが来ていて、インターナショナルな教育をしてもらえました。僕は大学生の頃は舞台で演じることが苦手でしたが、コーチの指導で、舞台上の人物の立場に立って動けばいいと分かったんです。演技で「ふり」をするのではなく、舞台上の人物として、たとえばチーズバーガーを食べてすごくおいしかったからおいしい顔をするのだと。このことは外国の劇場でも通用しました。



――ご自身の転機となった舞台は?

藤木 オペラ研修所時代から外国で歌う夢を持ち続けていたので、それが実現した2013年、初めてボローニャ歌劇場で歌った時です。グルック『クレーリアの勝利』とバッティステッリ『イタリア式離婚狂想曲』でしたが、日本人の自分がイタリアの名門歌劇場の舞台に立ち、イタリア語で歌って、現地の皆さんは受け入れてくれた。この舞台のおかげで「外国でも歌える」と自信になりました。2017年、ウィーン国立歌劇場のライマン『メデア』ではドイツ語で歌いましたが、カーテンコールで熱狂的に迎えてくれ、良い批評もいただきました。日本人にとっては、日本語のオペラ以外すべての演目は外国語です。海外でキャリアを築くにはこれが一番高いハードルなんですが、しっかり作品に向き合い、準備したものをアウトプットすれば、イタリアでもウィーンでも伝わるんだと分かりました。





魔法にかかりに
劇場に来てください

『夏の夜の夢』リハーサル風景

――『夏の夜の夢』で歌うオーベロンは、藤木さんにとってはどんな役でしょうか。

藤木 オーベロンはカウンターテナーにとって最も重要な役なんです。オペラのあらゆる役の中で、僕にとっては新国立劇場からオファーをいただいて一番嬉しい役かもしれません。

 カストラートが禁止されて以降、裏声で歌う男声歌手はオペラの舞台にはいませんでした。そこにベンジャミン・ブリテンがアルフレッド・デラーというカウンターテナーのために『夏の夜の夢』(1960年)のオーベロン役を作曲しました。オーベロンは、音楽史上、初めてカウンターテナーのために書かれた役なのです。

 また、僕にとっては、オーベロンのアリア「I know a bank where the wild thyme blows」は、いつもオーディションで一曲目に歌ってきた曲。僕の特性を表すのに良い曲なんです。声質や音域が合っていますし、妖精という人間ではないニュアンスを表現するのも自分に向いています。あと、英語で歌うのも好きなんですよ。外国の劇場のオーディションやコンクールでの勝負曲でした。オーベロンのアリアは自分のキャリアを切り拓いてきた曲でもあるのです。



――作品全体についてどのような魅力を感じていますか。

藤木 とてもハッピーなオペラですよね。誰も死なないし。文字通り「夏」「夜」「夢」の作品であり、「魔法」「妖精」「恋」「劇」などをキーワードに、とても温かい気分になるオペラです。ベンジャミン・ブリテンという名を聞くと、20世紀の作曲家だし難しそうだな......と思う人がいるかもしれません。もちろん「簡単な音楽」とは言いませんが、魔法をかけるような音楽なんですよ。オーベロンが登場する妖精の世界の音楽で使われる楽器もとても象徴的です。



――今後の目標はありますか。

藤木 数年前にウィーン国立歌劇場にデビューしてからの次の目標は、メトロポリタン歌劇場とミラノ・スカラ座に出演することです。



――近い将来実現することを私たちも楽しみに待っています。最後に、読者にメッセージをお願いします。

藤木 『夏の夜の夢』を生で観たことのある人はそんなに多くないかもしれませんが、世界中で親しまれているとても魅力的な作品です。魔法にかかりにお越しください。劇場でお会いしましょう!




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