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『ラ・ボエーム』ミミ役 ニーノ・マチャイゼ インタビュー


クリスマス、カルチェ・ラタンの屋根裏部屋で出会った、詩人ロドルフォとお針子ミミの恋。

そして成功を夢見る若き芸術家たちの物語を、プッチーニの甘美な音楽で描く『ラ・ボエーム』。

ヒロインのミミを演じるのは、ニーノ・マチャイゼだ。

2008年ザルツブルク音楽祭に初登場して大きな話題を集め、

以来、世界の名門歌劇場を席巻しているスター歌手の初の日本公演を前に、

これまでのキャリアについて、そして「私の心に触れる役」と語るミミについてうかがった。




歌手は、歌う役を
冷静に判断しなければなりません


ニーノ・マチャイゼ

――マチャイゼさんは来年一月の『ラ・ボエーム』で新国立劇場に初登場なさいますが、日本を訪れるのも初めてでしょうか。

マチャイゼ そうなんです!ずっと行きたいと思っていた国なので、とても嬉しいです!



――ジョージアのご出身だそうですね。

マチャイゼ 今はイタリアに住んでいますが、ジョージア出身です。人口390万人というとても小さな国ですが、独自の言語を持っています。旧ソ連のあの地域には、16種の民族言語があるんですよ。ジョージア語はそのひとつ。それぞれが固有の文化を持っている地域なんです。そして私たちの生活には、音楽や芸能がとても深く根付いています。たとえば私は8歳からオペラの勉強をしました。そんな年齢からきちんと教育する学校がジョージアにはあるんです。6歳のときにまずピアノを習いましたが、歌う方が好きだったので、8歳で歌に変えたのです。



――子どもからお年寄りまで、国民みんなが音楽好きなのですか?

マチャイゼ ええ。生活の中に音楽は常にあるものです。毎晩、夕食のときに家族でギターを弾いて伝統歌謡を歌いますよ!南イタリアの人たちが普段から「オー・ソレ・ミオ」を口ずさむのと同じです。



――基礎の勉強は母国で修め、その後イタリアへ?

マチャイゼ 16歳でトビリシの劇場のソリストになりました。デビューは『ドン・ジョヴァンニ』のツェルリーナ。その後、いろいろな役を歌いました。なので、次のステップとしてイタリアを目指しました。2005年のことです。ミラノ・スカラ座で歌う歌手になりたかったんです。ミラノ・スカラ座アカデミーの試験は400人の応募者のうち9人しか合格できない狭き門でしたが、9人の中に入りました。そこで学び、活動している間に劇場での仕事もするようになって今に至ります。プロ歌手として活動して20年が経過しようとしています。



――今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのマチャイゼさんですが、世界的に知られるようになったのは、2008年のザルツブルク音楽祭でアンナ・ネトレプコの代役をなさった時かと。その経緯は?

マチャイゼ 彼女は妊娠6か月で、稽古して舞台に立つのは無理ということになり、そのときスカラ座で歌っていた私のところに音楽祭の責任者がやってきて、代役のオファーをいただいたのです。グノーの『ロメオとジュリエット』でした。「僕らの新しいジュリエットが見つかったぞ!」と言ってくださったのですが、オファーをいただいた時点でまだ歌ったことがない役だったんです。急いでお店に走って楽譜を買いましたが、すぐに「大丈夫、私の喉にぴったりの役だ」と分かって奮い立ちましたね。2週間ほどの稽古で全力で仕上げました。充実した経験でした。



――代役というだけでもプレッシャーなのに、ロールデビューでもあったのですね。

マチャイゼ 大変な状況でもありましたが、怖くはありませんでした。オファーに返事をするときは、いつもしっかり考えます。私は用心深いんですよ。自分にこなせる役かどうか、じっくり考えてから引き受ければ、「できないはずがない」という信念で頑張れます。



――知的な判断ですね。

マチャイゼ はい。歌手の仕事は、舞台で歌うだけでなく、何を歌うべきで何を歌ってはならないか、冷静に判断することが必要です。気をつけないと、声のすべてを失うことにもなりかねません。たとえば私の場合、『トスカ』は避けています。以前もお話があったんですが、お断りしました。今はまだトスカを歌える声ではないからです。



――でも将来的には?

マチャイゼ あと5~6年たてば大丈夫だろうと思っています。体は変化しますからね。私は出産前はコロラトゥーラ・ソプラノでしたが、今はソプラノ・レッジェーロです。歌う役も変わってきます。



――お子さんがいらっしゃるのですね。

マチャイゼ 6歳になる息子がいます。彼もとてもいい声で、耳もいいみたい。大歌手になるかもしれませんよ(笑)。





ミミは「詩」そのもの
そこにロドルフォは惹かれたのです

『ラ・ボエーム』リハーサル風景

――新年に新国立劇場で『ラ・ボエーム』のミミ役を歌ってくださいます。

マチャイゼ ティーンエイジャーの頃から舞台に立ち、まず『ルチア』『清教徒』『夢遊病の女』などのベルカント・オペラを歌い、出産を経て『椿姫』『ルイザ・ミラー』、そして『ラ・ボエーム』が主要レパートリーです。ミミは今の私の役にまさにぴったりの役です。そしてミミは本当に素敵な女性で、可愛く、優しく、素直な心で愛と幸せを求める人です。感受性もとても強いのです。



――演出家の粟國淳氏は、「私の名はミミ」の "でも雪解けの季節に~"で始まるミミの表現の美しさにロドルフォはとても惹かれるだろうとの解釈をされています。

マチャイゼ まったく同感です。ミミはとても詩情豊かな女性です。プッチーニの音楽も素晴らしいですよね。私の大好きな作曲家です。『ラ・ボエーム』は、数年前に、まずムゼッタをスカラ座、ザルツブルクで歌いました。やがてミミも歌い始めました。最初に歌ったのは3年前、ロサンゼルスでした。その後、ジュネーヴ、ソウル......今ミミを歌う機会が増えています。私の心に触れる役。歌いながら、思わず泣きそうになってしまう役です。ミミが語る言葉、歌うメロディ、ラストシーンなどは特に感動します。彼女は「詩」そのもの。ロドルフォはミミの中に詩情を見つけ、そこにとても強い魅力を感じたのでしょうね。



――では、ミミ役の難しさは何でしょう?

マチャイゼ 歌の技術的な話はさておき、一番難しいのは、高揚する感情に押し流されず、舞台上で冷静でいることです。これが実はなかなかできないことなんですよ。物語の流れに身を任せてしまうと、心が自然に反応してしまうので、表現者としての存在が保てなくなります。もうひとつの冷静な目を持ち続けて歌うことは、とても大変なんです。



――舞台に立つ人ならではの苦労ですね。そのような冷静さでは、どうやって身につけるのですか?

マチャイゼ これは自分で経験を積んで身につけるしかありません。最初はなかなかうまくいかず、失敗したこともあります。そこから学んで、回数を重ねて分かってくることです。でも、自己のコントロールを身につける前に、歌唱技術そのものがしっかり身についていなければなりません。すべてはそこから始まるのです。



――最後に、観客の皆さんにメッセージをお願いします。

マチャイゼ 日本はまだ行ったことがないのですが、大好きな国になるだろうと確信しています。日本食の大ファンですし(笑)、皆さんの前で歌うのが本当に待ち遠しいです。海外で私の舞台を見てくださっている日本の方々は、とても優しく温かで、ありがたく感じます。新国立劇場で初めて皆さんにお目にかかれる機会を、心から楽しみにしています!




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