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「ドン・ジョヴァンニ」ドン・オッターヴィオ役 パオロ・ファナーレ インタビュー

10月に上演するモーツァルトの名作「ドン・ジョヴンニ」では歌手たちに期待!
タイトルロールはもちろんだが、特に注目したいのがドン・オッターヴィオ役のパオロ・ファナーレだ。
新国立劇場で昨年「コジ・ファン・トゥッテ」フェルランド役に代役として急遽登場し、素晴らしい歌唱で話題をさらった彼は、ただ今上り調子。若手イタリア人テノールの星が、オペラパレスでどのようにさらなる進化を遂げるか、聴き逃せない。 


<下記インタビューはジ・アトレ6月号掲載>

 

  

「ドン・ジョヴァンニ」というオペラは
私に"歌うこと"そのものを教えてくれます

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     2013年「コジ・ファン・トゥッテ」より
  ©三枝近志

――昨年「コジ・ファン・トゥッテ」の素晴らしいフェルランド役で新国立劇場でデビューなさったファナーレさん。日本でのお仕事はいかがでしたか? 

ファナーレ(以下F) 日本の観客のみなさんの姿は、数十年前のイタリアの観客の姿と同じだと感じました。それは、舞台を本当に愛する観客の姿です。歌手は、自分の歌が皆さんに喜びを与えたと確信できなければいけません。それを知らせてくれる日本の皆さんのさまざまな態度、終演後まで続く感動は大好きです。以前はミラノ・スカラ座でもそうでしたが、イタリアと同じ豊かな感性が今日本に生きていると思うと、嬉しいです。日本は私にとって"未来"を感じさせてくれます。そして再び日本で歌えるということは、信じられないぐらい大きな幸せなんですよ。

――改めて、ご自身のキャリアについて教えてください。

F 音楽の勉強は、まず生まれ故郷パレルモの音楽院でピアノを習い始めました。6歳のときですが、ピアノが仲の良い友達みたいでした。それから有名なカンツォーネなどを自然に弾き語りをしたりして、その後に声楽も勉強するようになりました。20歳ごろでしたか、ジュゼッペ・ディ・ステーファノ声楽コンクールに挑戦しました。自分が歌手として通用するか試したかったんですよ。おかげさまで良い結果が出て、すぐに劇場から声がかかり、オーディションを受け、2007年にパドヴァで「ドン・ジョヴァンニ」に出演しました。これがオペラ・デビューです。でも、コンサート・デビューはその前に果たしていて、ボローニャ歌劇場でクルト・ヴァイル「七つの大罪」で、ウテ・レンパーと共演したんですよ! パドヴァでの「ドン・ジョヴァンニ」はとても好評で、その後はさまざまな劇場で歌いました。バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、パリのバスティーユ・オペラなどの舞台に立ててとても幸運でした。

――オペラ・デビュー作品「ドン・ジョヴァンニ」で10月に新国立劇場に再登場してくださるのですね。ドン・オッターヴィオ役はかなり歌い込んでいらっしゃると思いますが、ずばり、歌いやすいですか、それとも、難しいですか。

F モーツァルトのオペラはとにかく難しいです。と同時に、歌いやすいです。「モーツァルト・テイスト」といえばわかるでしょうか。美しく、優雅な音とその空気。私は著名なマエストロたちの指揮でも「ドン・ジョヴァンニ」を歌ってきましたが、そのモーツァルト・テイストを存分に表現しうる歌手が歌うと、舞台は素晴らしい仕上がりになります。ドン・オッターヴィオのアリア「彼女の心の安らぎこそが」などは、優雅に、イントネーションを正確に、パッセージも上手に歌いこなさなければなりませんから、それはそれは難しいですよ。でも、うっとりしてしまう曲でしょう? あんな曲が歌えるのですからドン・オッターヴィオを歌うのは大好きです。「ドン・ジョヴァンニ」というオペラ、そしてモーツァルトは、私に"歌うこと"そのものを教えてくれるのです。


観客の皆さんとの素晴らしいやりとりを
楽しみにしています

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「ドン・ジョヴァンニ」稽古風景

――ドン・オッターヴィオをどのような男だとファナーレさんは解釈されていますか。

F 女性の目には、とても自己に厳しい、真面目で、禁欲的な男性に映ると思います。あえて欠点を挙げるとすれば「成熟しすぎ」。それがドンナ・アンナには退屈でもある。これは私の解釈ですが、ドンナ・アンナはドン・ジョヴァンニに襲われかけたとき、実は少し嬉しかったのではないかと思いますね。
 ストーリーを追うとわかりますが、みんなが驚いたり動揺したりする箇所でも、ドン・オッターヴィオは少しも乱れません。ドン・ジョヴァンニをはじめとする人物は、リアクションからその人の性格が見えるのですが、驚かないドン・オッターヴィオには性格を判断する材料がないのです。ですから謎めいた人物でもあります。ドンナ・アンナとの婚約関係も「愛を誓った」とは言うけれども、それは「この先長く一緒にいましょう」という冷静な約束の状態であって、彼らが熱愛中には見えませんよね。自由を謳歌するタイプとは対極にある、つかみどころのない男です。あ、でも、女性にとっては、とても安心できる相手ですよ、それは確かです。

――演出家グリシャ・アサガロフ氏の考えにより、ドン・オッターヴィオのアリアは二曲とも歌われます。通常は、プラハ初演時に歌われた第二幕のアリア、もしくはその後のウィーン初演時に追加された第一幕のアリアのどちらか一曲を歌う場合が多いですが。

F アサガロフ氏の見解に大賛成です、二曲とも歌うべきですよ。「テノールだからたくさん歌いたいんでしょう?」と言われそうですが、そうではありません。一曲カットしてしまうのは、哲学的に考えておかしいと思います。一曲目はとても甘く洗練された歌で、ドン・オッターヴィオの心の優しさが表れています。一方、二曲目は、彼の意外なエネルギッシュな面がわかります。ドン・オッターヴィオが一流の騎士として周囲の人々の心を引き込み、つなげる歌で、意味の深いアリアですから、カットする理由が見あたりません。もしアリアを一曲しか歌わないと、彼の気高さ、彼の人格が壊れてしまいます。アサガロフ氏がそこを理解なさっているのは嬉しいです。

――東京での自由時間に計画していることはありますか。

F 前回行った秋葉原に、また行きたいですね。私は日本のアニメが大好きなんですよ。日本のアニメを観て育ったので。「ドラゴンボール」に「機動戦士ガンダム」に......兄弟や従兄弟も同じように育ったので、私が日本に行くと決まったとき、親戚一同「いいな~!!」の大合唱でした(笑)。今回は妻と息子を連れて行きます。息子は一歳で、私の仕事に一緒に来るのは初めてです。家族を同行させるなら絶対に東京がいいと思っていましたから。移住したいぐらい東京が好きなんですよ。

――では来日をお待ちしております。

F 昨年は、日本のオペラ通の方々は私の前評判を聞き、私の実力を信じて劇場に来てくださいました。その後私はメトロポリタン歌劇場などでさらに研鑚を積み、いま上り調子です。そんな私をぜひまた確認しに来てください。同時に、日本滞在中に私がさらにどのくらい研鑚を積むか、それも逃さず聴いてください。「前より上手くなった」と感じていただけたなら、それは皆さんからエネルギーをいただいたからです。そんなやりとりがあるのは素晴らしいです。そして、私以外のあらゆる要素も逃さずご覧ください。歌手、オーケストラ、そして会場に集う観客のみなさんを含めて、ひとつの舞台となるのですから。一緒に魔法の夜を作りましょう!


 

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