スペシャル・トーク
レポート


「東京裁判三部作」新国立スペシャル・トーク
─ 井上ひさしの現場 ─


第二回
2010年5月12日(水)小劇場
出席者:熊倉一雄
聞き手:大笹吉雄

芸術監督:鵜山 仁 挨拶

今日は舞台でいろいろご不便をおかけしてすいませんでした。この劇場の演劇芸術監督の鵜山です。予定通りスペシャル・トークを行いたいと思いますが、終演時間がずいぶん遅くなりましたので、多少時間を短縮してお届けします。今日のゲストは熊倉一雄さんです。僕が井上さんの舞台を初めて観たのは熊倉さんが出演されたテアトル・エコーの舞台でした。その大先達の熊倉さんと、聞き手は演劇評論家の大笹吉雄さんです。ではお二人にご登場いただきましょう。どうぞ。(拍手)

井上さんとの出会いとラジオ時代

大笹●私も初めてのアクシデントの経験で、ちょっとびっくりして、みなさんもお疲れじゃないかと思うのですが、1時間の予定を少し短くさせていただきます。熊倉一雄さんです。(拍手)
熊倉●テアトル・エコーという小さい劇団をやっております、というか、いま一応劇団代表の熊倉一雄でございます。どうぞよろしく。
大笹●早速ですが、この『夢の泪』のなかの歌が、『ブンとフン』をおやりになった時の……。
熊倉●ずいぶん前の、昭和40年ぐらいだったと思いますが、井上くんがNHKラジオのドラマに書いた『ブンとフン』がございまして、そこでブンとフンが歌う歌でして、私と黒柳徹子さんがデュエットした曲です。
大笹●劇中で「ただ捨てられた ただそれだけのことなのさ」って、在日の健ちゃんが歌う曲がありましたね、それが『ブンとフン』に使われた宇野(誠一郎)さんがつくられた曲だそうです。
熊倉●こちらのほうが早いんです。(笑)芝居のちょうどいいところに使われて、僕は懐かしくて懐かしくて、とても嬉しかったです。
大笹●きょう、私は熊倉さんと隣の席でしたが、あの歌が舞台で流れてくると熊倉さんが小さな声で歌ってらっしゃるので何でご存じなんだろうと思ったら、つまりラジオ時代の井上さん作詞の歌だったそうです。
熊倉●やっぱり宇野先生の曲でございまして、僕が歌ったときには『愛の歌』、いろんな人がいろいろ言うけど、結局は、♪ただ好きなのさ ただそれだけのことなのさ〜(歌う、拍手)という。
大笹●いや、熊倉さんがいらっしゃらなければ、そういうこともわからなかったわけですが。たぶんみなさんもご存じないでしょ、それが『ブンとフン』の歌だって。たまたまいまラジオの話が出たわけですけれども、もちろん熊倉さんはテレビの『ひょっこりひょうたん島』にも出てらしたし、それ以前のラジオの時代もあるんですよね。
熊倉●はい、ラジオ漫画というので、『ひょっこりひょうたん島』の1年前に、僕と黒柳くんと、それから藤村有弘くん、もう亡くなりましたが、なかなか達者な人で、この3人がレギュラーで、僕が大作家で、黒柳くんが新聞社の記者で、藤村くんはナレーターでしたが、その番組が井上くんと宇野先生の初めての出会いというか、いっぱい歌があって、そこでお2人は意気投合して、いろんなお勉強をなさったんだと思います。そのすぐ次の年に『ひょっこりひょうたん島』が始まって、井上くんと宇野先生のコンビでなかなかおもしろい曲がいっぱいあって、井上くんはそのころ、どんな番組でも歌を書いちゃうという評判で、なんかとんでもない人だったんですけど。『ひょっこりひょうたん島』は人形劇ではありますけれど、ミュージカルの要素が強くて、人形劇ミュージカルとでもいえた。
大笹●そうですね、宇野さんとのコンビは、この「夢シリーズ」もそうですけど、必ず宇野さんが作曲されるというコンビを何十年と続けていらしたわけですね。さっきのラジオのタイトルは何というんですか?
熊倉●『モグッチョ チビッチョ、こんにちは』(1963)っていうんです。ネズミの世界の話で、僕も黒柳くんもネズミなんです。ネズミがあちこちでいろんな冒険をする奇想天外な物語でした。
大笹●それが熊倉さんと井上さんの初対面ですか?
熊倉●ええ、ほとんど。その前、1回だけ『われら十代』という、どなたも覚えていらっしゃらないでしょうけど、テレビの、いえば教養番組がございまして、彼は音楽をいれて、それをネタにして、討論するという番組でした。どういうわけか、私にエノケン(榎本健一)さんが歌った、♪おーれは町中でいちばん〜というのをやれというわけです。しょうがないから一生懸命勉強して、リハーサル室におりまして、いつまでたっても誰も来ないんです。「構成の井上さんはどうなさったんですか?」とアシスタントの人に聞いたら、学生みたいな人がふらっと入って来て、この人が井上さんかと思い、歌の一番ぐらいを歌いましたら、「結構です」と言って行っちゃって、もう本番も来ないんです。(笑)なんだか、まあほんの短い間の初めての出会いです。