シアター・トーク
[特別編]レポート


シリーズ・同時代【海外編】スペシャルイベント
シアター・トーク[特別編] 「シュート・ザ・クロウ」


4月11日(土)新国立劇場小劇場
出席 オーウェン・マカファーティー(『シュート・ザ・クロウ』作者)
    田村孝裕(『シュート・ザ・クロウ』演出)
    浦辺千鶴(『シュート・ザ・クロウ』翻訳)
    小田島恒志(『シュート・ザ・クロウ』翻訳)
    鵜山 仁(演劇芸術監督)
    平川大作(イギリス演劇・現代戯曲研究会メンバー)<司会進行>
    (通訳:近藤聡子)

“笑い”に関する日本と外国の違いはすごく感じました。<浦辺>

平川●翻訳の立場から、浦辺さんは今回、稽古場のほうに行かれましたか?
鵜山 仁 浦辺●上演翻訳をしたのが初めてなので、稽古場では「へぇー」って思うことばかりでした。台本がどんどんお芝居になっていくのが面白かったですね。上演台本を作っていくにあたって、田村さんと打ち合わせさせていただいたのですが、日本語として違和感のないようにとカットしたところもあります。
平川●稽古場に入って机の上で翻訳したものが変化していくということがあったのですね。机の上だけで見えなかったことが稽古場で見える。上手くいくかいかないかの調整があって上演に至る。翻訳劇ならではのエキサイティングなものだと思いますが、そのあたり小田島さんいかがでしょうか?
小田島●翻訳劇って向こうで上演している芝居をもってきて上演すると思われがちなんですが、違うんですね。こういうのがありますよって紹介した段階で翻訳してみる。それが演出の田村さんに渡る。その段階で3人で、「ここは直さないと意味がわからないね」と言いながら直していきました。さらに稽古を通じても直していきました。一番大きいのは、本を受け取った田村さんのイマジネーションでどんどん芝居は作られていきます。ロンドン公演との大きな違いは、2人ずつが組みになっている様子をこのように並べて見せるのではなく、回り舞台の表裏で見せていたことです。この場合、見えている部屋の2人と裏の見えていない2人になって、裏の2人は休めるんです。(笑)しかも、裏にいる間にスタッフがタイルを張っています。それを今回は、田村さんは全部役者さんが張るんだと決めたので、舞台上で倍働いています。(笑)この点はギャラを考えてあげたほうがいい。(笑)
鵜山●それも考えなきゃいけないんですが、アイルランドというと、僕たちはどうしても『ゴドーを待ちながら』を書いたサミュエル・ベケットという劇作家のことを考えてしまう。『シュート・ザ・クロウ』を見ても『ゴドーを待ちながら』が頭の中をかすめる。昨日、オーウェンさんに「“ゴドー”を初めて読んだのはいつですか?」とうかがったら、大学に入ってからとのことでした。ベケットの時代の演劇とオーウェンさんが作っている演劇には、どういう違いがあるんだろう。
ステージPhoto O.M●簡単なことからお答えしましょう。(笑)まず、ベケットはもう亡くなっていて、私はまだ生きている。(笑)大きな違いで言えば、かつて抽象的だったものが具体的になっていると思います。“ゴドー”のお話が出ましたが、今回の4人も起こりえないことが起こったらいいなあと思っています。そのような思いが実際の人生に織り込まれていく点は違うと思います。私自身は、人生のカラフルな側面に興味があります。ベケットは、人生のモノトーンな側面に着目したのではないでしょうか。ベケットが“ゴドー”を書いたのは大戦直後、それと現代の状況は違います。大戦の前後は、世界が終わってしまうのではないかという不安感があったと思いますが、私たちは違うと思います。
鵜山●「仕事」は重荷であると同時に、人生のリズム、日々の糧にもなっている。車の両輪のように、「仕事」と「仕事後」と両方がないと生きていけないという実感は、確かに伝わってきますね。