シアター・トーク
[特別編]レポート


シリーズ・同時代【海外編】スペシャルイベント
シアター・トーク[特別編] 「シュート・ザ・クロウ」


4月11日(土)新国立劇場小劇場
出席 オーウェン・マカファーティー(『シュート・ザ・クロウ』作者)
    田村孝裕(『シュート・ザ・クロウ』演出)
    浦辺千鶴(『シュート・ザ・クロウ』翻訳)
    小田島恒志(『シュート・ザ・クロウ』翻訳)
    鵜山 仁(演劇芸術監督)
    平川大作(イギリス演劇・現代戯曲研究会メンバー)<司会進行>
    (通訳:近藤聡子)

一つひとつパズルを当てはめていくように読み解くような……<浦辺>
言葉遊びと本来の意味を両方訳した<小田島>

平川●オーウェンさんの『シーンズ・フロム・ザ・ビッグ・ピクチャー』では、同じ1日のベルファストの町を描いている。いろいろな種類の人が出てきます。これを読むと、詩的な表現というのは、腑に落ちる気がします。労働者以外の人たちもいろいろなことを喋っています。それぞれがセリフとしてしっかり書かれているのがわかります。今回の翻訳のご苦労について、浦辺さん、いかがでしょうか?
浦辺●最初に戯曲を見た時は、本当に何もわからなくて、英語は英語っぽいんですが、「えっー?!」という感じで。(笑)1回ざっと読んだ後、この言葉はこういう意味で使っているのかなとか、一つひとつパズルを当てはめていくように読み解くような状況でした。北アイルランドの表現でありつつ、さらにワーカー風にアレンジしたようなものもあり、辞書を引いても出ていない。北アイルランドの方はユーモア好きだと聞いたことがありますが、ポケットを表わすのに“sky rocket”って言ったりとか。奥さんを“fork and knife”と呼んだり。口に出して読んでみると“wife”のライミング(音を当てはめる俗語)だった。それがわかるまで時間がかかりましたね。それを日本語に訳すのはどうしたらいいのか悩みましたね。
平川●ライミングとは、広い意味の言葉遊びですね。
小田島恒志 小田島●今の浦辺さんの紹介を聞いていると、上品なおしゃれな本だなと思う人もいるでしょう。ひとつわかりやすい例を出すと、“ジョー90”と“サンダーバード”のことでピッツィとソクラテスがケンカする場面があります。“ジョー90”は、9歳の男の子が特別なメガネをかけると脳に優れた人の脳が映って世界を救う話です。今回のセリフの中で、「ジョーが身につけていたテスティクルズ(testicles)」と言うんですね。テスティクルズとは、男性だけが持っている2つぶらさがっている丸いものの意味です。ここは、眼鏡のスペクタクルズ(spectacles)のことを言っています。上演台本では、「キンタマメガネ」と訳しました。言葉遊びと本来の意味を両方訳したんですね。これを稽古場で平田満さんにお話したら、「あ、そういえばわれわれも、“そうはイカのキンタマ”とか言いますよね」と言われて。(笑)日本語の勉強している外国人が辞書を引いてイカを引いてもキンタマを引いても、“そうはイカのキンタマ”はきっと出てこない。(笑)そういうノリを翻訳でも伝えたいなという思いがありました。もうひとつ喋っていい?(笑)オーウェンさんがベルファストで上演していないとおっしゃっていましたが、4年前に僕がロンドンに行った時、日本で英語を教えたことのある女性と出会いまして、私のブラザーが芝居をやるから観てと言われ軽いノリで行きました。このブラザーとは、コンリース・ヒルという前年にオリヴィエ賞の助演男優賞をとった名優でした。同じ舞台でディン・ディンを演じたジム・ノートンは翌年にオリヴィエ賞の主演男優賞をとることになります。ソクラテス役のジェームズ・ネスビットは、イギリスのテレビで見ない日はないくらい、お茶の間の顔です。これはすごい芝居だと思って観ていたら、何を言っているか全然わからなかった。すごくショックを受けました。そこで戯曲を読んでみたのが、『シュート・ザ・クロウ』との出会いでした。この上演までたどり着くには、ものすごくたいへんでした。
ステージPhoto 平川●わからないというのは、地域の問題がありますよね。ロンドンがあって、北アイルランドがあってという。階層の問題もあると思います。オーウェンさんに確認の意味でおたずねしたいのですが、私たちが英語で読むとなかなか理解が難しいのですが、イギリスであればどこで上演してもみんなわかる表現なのでしょうか?
O.M●うーん、わからないでしょうね。(笑)彼らにとっては日本語のように聞こえるかもしれません。言葉に関しては2つのことがあって、異なるバージョンなのです。仕事に関わることで言えば、退屈の中から出てくる言葉なのです。あまりに退屈だから、面白いことを言おうとして出てくる言葉じゃないかなと思います。書き手としては、私が書いたものをみんなが理解できなくても……。(笑)