バレエ&ダンス公演関連ニュース

【インタビュー】『マノン』主役デビュー/柴山紗帆

1.jpg

神学生デ・グリューと出会い、恋に落ちた少女マノン。一方、マノンの兄レスコーは、愛人としてマノンを望む老富豪と取り引きし、大金を手に入れた。愛か金か。可憐なマノンに魅せられた男たち。そしてマノンの運命は.........
アベ・プレヴォーの小説をもとにケネス・マクミランが振付した『マノン』。英国バレエの最高峰といわれるドラマティック・バレエを六年ぶりに上演する。タイトルロールを演じるのは三人のダンサー。その中で初役なのが柴山紗帆だ。マノン役への思いと、公演への意気込みをうかがった。

インタビュアー:守山実花(バレエ評論家)

「ジ・アトレ」2026年3月号より



1.jpg
『不思議の国のアリス』ハートの女王
Alice's Adventures in Wonderland© by Christopher WHEELDON
撮影:鹿摩隆司


少女の無垢さと現実に流される弱さ マノンの感情の揺らぎをどう描くか

――マクミラン振付の大作『マノン』に主演されます。

柴山 配役を知ったときは、新人の頃に初めて大きな役を任されたときと同じくらいの驚きと喜びがありました。『マノン』が今シーズンのラインアップに入っているのを見た際には、主要な役が限られている作品だという意識も強かったので、まさか自分がマノンそのものを踊らせていただけるとは想像もしていませんでした。とはいえ、いつか踊ることができたら、という憧れの役のひとつでしたから、本当に胸がいっぱいです。

――作品や役柄に対してどのようなイメージを持っていらっしゃいますか?

柴山 思い浮かんだのは、一人の女性の人生を描く物語だということです。少女の純粋無垢さから始まり、出会いや様々な経験を通じて、彼女の内側に深い感情が芽生え、育っていきます。誘惑や欲望、愛、そして破滅......生身の人間としての感情が、この作品ではとても重要になってきます。振付の一つひとつが言葉となって感情を語り出すように作られていて、すべての動きに意味が宿っている役だと感じています。
 『ジゼル』は繊細な心の動きを自然に表現するという意味でとても学びの多い作品でしたが、『マノン』ではさらに生の感情や、より演劇的な要素が求められますので、これまで経験してきた役とはまったく違うのだろうと想像しています。

――リハーサルが始まるといろいろな発見や経験をされるで しょうね。

柴山 はい、そうなると思います。今回はロバート・テューズリーさんが指導に来日されます。以前『シンデレラ』で見ていただいたことがあるのですが、どの役に対しても説得力があり、存在感のあるダンサーという印象が強い方です。その表現力の豊かさを間近で学べるのはとても貴重で今から緊張感もありますが、何より楽しみですし、すべてを学び取るつもりで臨みます。

――柴山さんはこの数年間で様々な役を演じられ、役柄や表現の幅が大きく広がったように感じます。ご自身で大きな変化を感じた役はありますか? 

柴山 『不思議の国のアリス』のハートの女王は、大きな転機になりました。あの役は大胆な思い切りのよさが求められ、普段の舞台では抑えている感情を一気に解放するような感覚がありました。目線の使い方や動きの大きさなど、普段の自分からは出てこない表現までもさらけ出す必要があり、最初は「舞台の上でここまでやっていいのか」と戸惑いもありました。でも挑戦を続けるうちにどんどん楽しくなっていき、まるで新しい自分に出会うような経験でした。
 一方でマノンは、自分の中にまったくない部分をも作り上げていく作業になると思います。ここが大きな違いであり、難しさでもあると感じています。 

――『マノン』の時代背景や娼婦という設定が、演じる上でとても難しいという声をダンサーの皆さんから聞きます。

柴山 よくわかります。前回の『マノン』では五人の娼婦の一人を演じましたが、それこそ「娼婦ってどういう風に振る舞うのだろう」から始まり、試行錯誤を続けました。当時のフランスの時代背景を考えた上で表現する必要がありますし、娼婦の中にも階級があり、ほかの娼婦たちとは違う独特の佇まいも求められました。
 『ホフマン物語』のジュリエッタを踊ったときにも感じたのですが、役に求められる女性としての在り方をどう捉えればいいのか、という点での戸惑いや難しさがあります。ジュリエッタ役でもどう表現すればいいのか悩みました。ただジュリエッタは登場した瞬間から最高級の娼婦であり、彼女自身には迷いがありません。一方、マノンは初めから娼婦だったわけではなく、そこに至るまでの過程が重要です。少女の無垢さがどこかに残る瞬間もあれば、現実に流されていく弱さもある。ただ娼婦であるというだけでなく、その内面には様々な感情の揺らぎがあり、デ・グリューへの愛が消えてしまったわけではないので、そういった揺らぎをどう描くのかが重要であり、難しさだと思います。


舞台上でマノンの人生を生き抜きたい

1.jpg
『ジゼル』ロンドン公演より
© Photo by Foteini Christofilopoulou

――特に楽しみにしている場面はありますか?

柴山 第一幕寝室のパ・ド・ドゥは、音楽も動きも美しく大好きです。第二幕、自分以外の時間が止まるような演出の中でマノンが一人で踊る瞬間は、内面の揺れが一気に表に出るような場面なので、今から緊張と期待が入り混じっています。最後の悲劇的なシーンも音楽が胸に迫り、観ている側でさえ涙が出そうになるので、踊る側としては覚悟が必要になると思います

――デ・グリューを演じる速水渉悟さんも初役ですね。

柴山 はい。お互いゼロから作り上げるので大変な部分もありますが、逆に言えば新しいペアとしての解釈をどんどん積み上げていける楽しさがあります。ペアが変わると作品の印象も変わると思うので、お客様にはそこも楽しみにご覧いただけると嬉しいです。

――『マノン』のあとには、クラシックの大作『ライモンダ』が控 えています。

柴山  『ライモンダ』は"ザ・クラシック"と呼ぶにふさわしい、存在感のある作品です。タイプの異なる作品ですが、『マノン』を経て再び『ライモンダ』に向き合うことで、自分の中にどんな変化が生まれるのか、今から楽しみにしています。
 前回の『ライモンダ』以降、私の中で大きな意識の変化がありました。吉田監督から「舞台に立ったら、自分が一番だと思って踊りなさい」とアドバイスをいただいたことで、舞台に向かう気持ちが大きく変化しました。もちろん不安がすべて消えるわけではありませんが、その言葉が心の支え になり、背中を押してくれています。
 とはいえ、全幕作品で最初に舞台に踏み出す瞬間は、どうしても緊張してしまいます。それでも、先日踊った『くるみ割り人形』では、自分の中で気持ちのコントロールができるようになったと感じることができました。『ライモンダ』でもそのマインドの感覚が生かせると思っています。
 技術的にも難しい作品で、ライモンダ役は舞台にほぼ出ずっぱり。ヴァリエーションの数も格段に多く、呼吸を整える暇もないような場面が続きます。体力面、精神面も万全に整えて、しっかりと臨みたいと思います。

――今後の抱負、そしてマノン役への意気込みを教えてください。

柴山 課題はまだまだありますが、いつか、イヴリン・ハートさんのように、踊りそのものが言葉になるような表現ができるダンサーになりたいと思っています。
 『マノン』は、一人の女性の人生そのものが流れていくような作品です。純粋さや迷い、欲望、愛、自分に向けられる目、現実の厳しさ......リハーサルが始まって自分の感情がどのように変化するかわからないのですが、舞台上でマノンの人生を生き抜きたいと思っています。



2025/2026シーズン『マノン』

2026年3月19日(木) ~ 3月22日(日) 全6回公演
新国立劇場 オペラパレス

公演情報