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【コラム】バレエ『マノン』はマスネの音楽カタログ
甘く淡いほのかな響きで運命的な恋を物語るバレエ「マノン」の音楽の作曲者は、ジュール・マスネ(1842~1912)。となれば、マスネの同名のオペラの音楽を使っていると考えるのが筋だが、実はオペラ「マノン」の音楽は一曲も使っていないのがミソである。構想の初期段階ではプッチーニのオペラ「マノン・レスコー」の音楽を考えていたらしいが、著作権が切れていなかったため費用がネックとなり却下。次に〝普通〟にマスネのオペラ「マノン」の音楽の使用を考えたが、最終的に、オペラ「マノン」以外のマスネのあらゆる曲から選んで構成された。曲の選択と編曲をしたのはレイトン・ルーカスである。作曲家で指揮者のルーカスは、かつてあのバレエ・リュスのダンサーでもあった人。音楽とバレエの両方を知り尽くした彼だからこそできた作業であろう。
宗教劇「聖母」の〝聖母の永眠〟で始まるバレエ「マノン」の音楽は、40曲ほどのマスネの曲で構成されている。マノンの純粋な無邪気さを表現するマノンのテーマは歌曲「たそがれ」。寝室のパ・ド・ドゥはオペラ「サンドリオン」の〝サンドリオンの眠り〟と歌曲「愛の詩」第3番〝君の青い目を開けて〟。そして最後は宗教劇「聖母」の〝聖母の法悦〟で沼地のパ・ド・ドゥが踊られて幕を閉じる。第2幕、マノンが紳士たちに次から次へと受け渡されていく場面ではオペラ「ナバーラの娘」の〝夜想曲〟が妖艶な雰囲気を醸し出し、第3幕第2場デ・グリューが看守を刺す場面や第3場の前奏曲で使われる聖秘劇「エヴァ」の〝呪い〟には「怒りの日」の旋律の引用があり、まさにマノンとデ・グリューの運命にとどめをさすかのよう。という具合に、物語と踊りに合った表情が音楽から聞こえてくる。
とはいえ、マクミランの振付作業とルーカスの編曲作業は別進行で行われていたため、物語と音楽に多少の齟齬がないこともない。そこでマーティン・イェーツが新オーケストレーションを施し、2011年、フィンランド国立バレエで初演した。今回はこの版で上演する。マスネの原曲に立ち返りながら、物語の展開、主人公の感情の起伏にさらに寄り添うよう、オーケストレーションの微細な修正がなされているとのこと。しかしフィンランドでの初演の際、バレエ評論家たちも違いに気づかなかったというほどの隠し味でもある。イェーツ自身が指揮する今回の上演では、音楽にもぜひご注目を。
【バレエ「マノン」で使われている主な音楽】
オペラ「ラオールの王」
オペラ「ル・シッド」
オペラ「エスクラルモンド」
オペラ「タイース」
オペラ「ナバーラの娘」
オペラ「サッフォー」
オペラ「サンドリオン(シンデレラ)」
オペラ「グリゼリディス」
オペラ「シェリバン」
オペラ「アリアンヌ」
オペラ「テレーズ」
オペラ「バッカス」
オペラ「ドン・キショット」
オペラ「クレオパトラ」
聖秘劇「エヴァ」
宗教劇「聖母」
歌曲「たそがれ」(田園詩より)
歌曲「もしきみが望むなら、かわいい人よ」
歌曲「悲歌(エレジー)」
歌曲「君の青い目を開けて」(愛の詩より)
歌曲「雨が降っていた」
歌曲「カプリの歌」
ピアノ曲「とても遅いワルツ」
管弦楽組曲第3番「劇的風景」
管弦楽組曲第4番「絵画的情景」
管弦楽組曲第7番「アルザスの情景」
文◎ 榊原律子
新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2012年3月号掲載
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【コラム】バレエ『マノン』はマスネの音楽カタログ