あらゆる者を魅了し破滅させる魔性の女・ルルの流転の人生を描いたベルクの傑作。新ウィーン楽派の作曲家ベルクの音楽は、十二音音列によるモチーフ、多様な形式の組み込まれた構成など複雑精緻な一方、調性感のある甘美で叙情的な響きで、謎めいたドラマを雄弁に伝えます。原作となった二部作の戯曲『地霊』『パンドラの箱』は、官能の化身として本能のままに生きるルルを通して道徳的な社会を痛烈に批判し、後者は廃棄命令、上演禁止の処分を受けた衝撃作。第一次大戦後の社会的危機と享楽の時代、表現主義美術、バウハウス運動、レビュー、キャバレーなどドイツで一斉に花開いた都市文化の上に生まれたオペラともいえます。
歌唱力に加え、容姿、演技力も要求されるソプラノの最難役ルルには、佐藤しのぶが挑みます。ルルと絡むゲシュヴィッツ伯爵令嬢には、日本を代表するメゾ・ソプラノ小山由美が登場。若手注目株の指揮者レックはベルクのエキスパートです。演出は、日本でも『蝶々夫人』初演版演出で話題を呼び、各地で常にセンセーションを巻き起こしている演出家デヴィッド・パウントニー。世界の注目が集まっています。『ルル』の美学を鮮やかに視覚化する表現的な美術、様々な素材や装飾をふんだんに使い、とりわけルルを次々と豪奢に彩る衣裳は大きな見どころとなるでしょう。
ものがたり
ルルの後見人シェーン博士はルルを別の男と結婚させるが、第1の夫は心臓発作、第2の夫は自殺と次々と命を落とす。博士はとうとうルルと結婚する。同性愛のゲシュヴィッツ伯爵令嬢ら信奉者に取り巻かれ自由奔放に振る舞うルルに、博士の息子アルヴァまでもが虜となる。耐えきれず自殺を迫った博士を誤って撃ち殺した時から、ルルの転落が始まる。ルルはゲシュヴィッツ伯爵令嬢の手引きで脱獄し、アルヴァとパリ、ロンドンへと逃げ、ついには売春の客として現れた殺人鬼・切り裂きジャックの手にかかり命を落とす。
|