“ミスター・ミュージカル”の異名を持つスティーブン・ソンドハイムによるミュージカル『パッション』がいよいよ新国立劇場に登場します。
1980年制作のイタリア映画『パッション・ダモーレ』をもとにミュージカル化され、94年にブロードウェイで初演、その年のトニー賞4部門(最優秀ミュージカル作品賞、主演女優賞、脚本賞、楽曲賞)に輝いた傑作を、昨年の『三文オペラ』に続き宮田慶子・島 健がタッグを組み、日本初演で上演します。
「ただ愛すること」が愛なのか?「ひたすらに愛されること」が愛なのか?
主人公ジョルジオを演じる井上芳雄をはじめ、和音美桜、シルビア・グラブ、そして福井貴一とミュージカル界きっての実力者たちを集め、ミラノを舞台にめくるめく男女の愛を描くソンドハイム・メロディにどうぞご期待ください。
ミュージカル『PASSION』のオリジナルはイタリア映画『Passione d’Amore〈パッション・ダモーレ〉』(監督:エットーレ・スコラ 1980年制作、日本公開84年)。80年ドナペッロ〈イタリア・アカデミー賞〉主演女優賞・助演女優賞、81年カンヌ映画祭特別表彰(エットーレ・スコラ)を受賞しています。
タイトルは、まさに“愛の情熱”。美男美女のめくるめく情熱の不倫愛の日々から一転、場所を変え、男の運命を変える別の女が登場、彼を闇の縁へと道連れに引き込む……。
監督のスコラは、64年に『もしお許し願えれば女について話しましょう』で監督デビュー。ネオレアリズモとイタリア喜劇の流れに社会性を盛り込んでいるのが特徴です。この『Passione d’Amore』では、19世紀イタリアの雰囲気をパステル調で表し、ロマンティックな教訓に満ちた映画に仕上げています。

『パッション』の舞台を彩るのは、主人公ジョルジオを演じる「ミュージカル界のプリンス」井上芳雄。ストレートプレイにも意欲的に取り組んでおり、新国立劇場での『負傷者16人 ─SIXTEEN WOUNDED─』(2012年)の熱演も記憶に新しいですが、今回は憧れだったというソンドハイム作品で新たな境地を目指します。2人のヒロインには、和音美桜とシルビア・グラブが競演します。新国立劇場初登場の和音は宝塚歌劇団時代には実力派の娘役として「宝塚きっての歌姫のひとり」と評されたほど。片やシルビアは『Into the Woods』のシンデレラ役でも高い評価を得て、多くのミュージカルの舞台で活躍しています。さらに、数々のミュージカルとともにストレートプレイでも魅力を発揮している福井貴一など、魅力的な面々が顔をそろえ、『三文オペラ』にも参加した島 健が音楽監督をつとめます。
新国立劇場では、これまでソンドハイムの作詞・作曲によるブロードウェイ・ミュージカルを2作、『太平洋序曲』(2000年10月/02年10月)と『Into the Woods』(04年6月/06年5〜6月)を上演、いずれも好評で再演を果たしています。
ソンドハイムの名を一躍有名にしたのは、1957年の『ウエスト・サイド物語』の作詞。やがて『ローマで起こった奇妙な出来事』(62年)から作詞・作曲も手がけ、トニー賞の作曲賞を6回(71年から73年まで3年連続)、グラミー賞、ピュリッツァー賞、アカデミー賞のほか、08年にはトニー賞特別賞も受賞するなど、まさに、ブロードウェイ・ミュージカルを代表するソングライターです。


19世紀のイタリア、ミラノ。騎兵隊の兵士ジョルジオは、美しいクララとの情熱的な逢瀬に夢中になっている。しかし、ほどなくして彼は、ミラノから辺鄙な田舎への転勤を命じられ、その地で上官リッチ大佐の従妹フォスカに出会う。病に冒されているフォスカは、ジョルジオを一目見て恋に落ち、執拗なまでに彼を追いかけるようになる。クララへの愛に忠誠を誓い、フォスカの愛を受け入れないばかりか、冷たくあしらうジョルジオだったが、やがて......。