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『カルメン』タイトルロール ジンジャー・コスタ=ジャクソン インタビュー

オペラの2018/2019シーズン第2作は、ビゼーの名作オペラ『カルメン』。

自由に恋し、自由に生きる情熱の女カルメンを歌うのは、ジンジャー・コスタ=ジャクソン。

メトロポリタン歌劇場で研鑽を積んだのち、ヨーロッパの名門歌劇場にデビューし今注目を集めている彼女が、最も得意としている役がカルメンだ。

「歌と同時に、エネルギーとカリスマ性のある演技をしなければ、説得力のあるカルメンにはならない」と語る彼女の描くカルメン像とは――。

ジ・アトレ6月号より



メトロポリタン歌劇場の舞台が、私にとって「最高の先生」でした

ジンジャー・コスタ=ジャクソン

――イタリア人とアメリカ人のご両親のもとシチリアで生まれ、その後アメリカに移ったそうですね。オペラへの情熱はご両親の影響ですか?

コスタ=ジャクソン(以下C)はい。両親ともに音楽が好きで、母は3大テノールのファンで、よくパヴァロッティなどを聴いていました。でも、私自身が歌うことに興味を持つようになったのは、末の妹ミリアムの影響です。小さい時からオペラが大好きだった妹は、8歳のときにはマリア・カラスに夢中で、カラスの録音に合わせて歌っていました。はじめは戸惑いすら感じていた私ですが、時間の経過とともに妹がとても上手になっていくのを聞くうち、私も歌ってみようかしら、と。私も歌うことが大好きだということに気づかされたのです。

――今では姉妹で共演もなさっているとか。

C 先日シアトル・オペラで、すぐ下の妹マリナと『コジ・ファン・トゥッテ』で共演しました。私は妹のドラベッラ役、妹は姉のフィオルディリージ役を歌ったのですが、まじめで仕切る典型的長女タイプの私に、奔放な妹役は難しいのではないか、と心配でした。でも、実際に舞台に立ってみたらとても楽しかったんですよ。そして今年の夏には、私がカルメンを演じる舞台に、末妹ミリアムがミカエラ役として出演します。今度は恋敵です(笑)。妹たちとの共演は好きですね。幼い時からずっと一緒に過ごしてきましたから、間や音を変えるタイミングがすぐ分かるので、純粋に楽しみながら演じることができるんですよ。

このほかにもチャイコフスキー・フェスティバルでは姉妹で歌ったり、3人で「ジャクソン・シスターズ」としてコンサートも行っています。プログラムは私たちのルーツである作品、つまり母の大好きなオペラの歌と父の好きな管弦楽曲とミュージカルから構成されています。小さい時に子供部屋で3人で歌いながらお芝居ごっこをしたのですが、ベッドの舞台から本物の舞台へ。不思議な感じですよね。

――本当に楽しそうですね。でもそのご家族とも声楽の勉強のために一時離れていらしたそうですね。

C ええ、16歳の時に、生まれ故郷のシチリアのベッリーニ音楽院に進学しました。経済的な理由もあり、国費で学べる音楽院に進んだのですが、ローマのコンクールがきっかけでメトロポリタン歌劇場のリンデマン・ヤングアーティスト・プログラムへの参加が決まり、3年でアメリカに戻りました。このプログラムは2年目から舞台に立てるのですが、私が初めて出演したのはマスネの『タイース』で、ルネ・フレミング、トーマス・ハンプソン、ミヒャエル・シャーデといった素晴らしいキャストの中でミルタール役を歌いました。これが私にとって全幕オペラ・デビューでした。このプログラムでは第一線で活躍する歌手と共にステージに立つことで、大舞台での立ち居振る舞い、公演に臨む姿勢、そして声がどのように歌劇場で響き、それが舞台上でどのように聞こえるか、という、音楽院では教わらないことを多く学びました。出演しない演目のリハーサルも、もちろん自由に見学できました。見ること、実際に歌うことを通して学ぶ、とても恵まれた環境です。4千席とオーケストラを前に歌う舞台そのものが、最高の先生だったのです。


心の自由を求める物語であるからこそ
『カルメン』は現代人の心もとらえるのです

新国立劇場「カルメン」リハーサル風景より

――メトロポリタン歌劇場に続いて、世界中の有名歌劇場でデビューを果たし、なかでも今回新国立劇場で歌う『カルメン』は当たり役となりました。「ダイナミックなカルメン」とも評されるあなたのカルメン像についてお話しください。

C ビゼーは素晴らしい音楽を書いていますが、歌と同時にエネルギーとカリスマ性のある演技をしなければ説得力のあるカルメンにはなりません。そしてそこがまたカルメンを演じることの魅力でもあります。

カルメンは非常に厳しい状況の中で、厳しい人生を歩んでいます。女性であるだけで差別を受けるような時代にあって、彼女はロマと呼ばれる大変な差別を受ける境遇に生まれました。職業の選択どころか、スリか娼婦のようなことをして生きるしかなかったのです。しかしそのような中にあって、彼女は精神的な自由を大切にしていました。「NO!」と拒絶することは、彼女にとってとても大切なことでした。ドン・ホセが彼女を殺すわけですが、命の危険を感じても、自分を曲げること、つまり自由を捨てることはできなかったのです。まさに命を懸けた「NO」なのです。

――死をも恐れない自由を求める心ですね。

C そうです。人間の歴史は常に自由を求める戦いだったと思います。独裁者に対して、体制に対して、そして時には身近な人間に対して、自らの自由を守るために人は闘ってきました。『カルメン』は心の自由を求める物語であるからこそ、現代においても人々の心をとらえて離さないのではないでしょうか。

彼女はドン・ホセの中に殺意の炎を見てもなお、自分の心の自由を守ることを選びます。人や社会に従うのではなく、自らの考えで自由を選ぶのは大変な勇気が必要だったでしょう。これはある意味で高貴な選択なのです。殺されて死を迎えたことを美化するつもりはありませんが、しかしそれは彼女の弱さを意味するものではなく、逆に強さを表していることは確かです。

――では第3幕の最後は見せ場ですね。

C ええ、ハイライトのひとつです。でも個人的には第2幕でドン・ホセに迫るところも好きです。メゾ・ソプラノがテノールに向かって偉そうにどなりつけるなんて、そうそうありませんからね(笑)。とにかくカルメンは激しい感情の持ち主ですから、やりがいはあるし、お客様にも十分楽しんでいただけると思います。

――現在(4月末)はロサンゼルス・オペラで『リゴレット』マッグダレーナを演じていらっしゃいますが、今後のご予定、そして歌いたい役について教えてください。

C 今年は新国立劇場の後、サンディエゴ、シアトルと続けてカルメンを歌うカルメン・イヤーになりそうです。ほかには『セビリアの理髪師』のロジーナや『コジ・ファン・トゥッテ』のドラベッラといった役が決まっています。でも、もしも自分で役を選べるとしたら『フィガロの結婚』のケルビーノが歌いたいですね。カルメンは大好きな役ですし、とても大切な役ですが、時には悪女から抜け出して少年となってあどけない恋の歌が歌いたいのです。それから『チェネレントラ』のアンジェリーナも!

――最後に新国立劇場の公演へ向けてひとことお願いします。

C 初めての日本で、初めての新国立劇場への出演となりますが、日本の素晴らしさ、新国立劇場の素晴らしさ、そしてオペラを愛する素晴らしい聴衆の皆さんについて多くの人から聞いています。とても身の引き締まる思いと、とても楽しみな思いで、今からワクワクしています。あと私はヴィーガン(純粋菜食主義)なのですが、日本には素晴らしい果物が多くあると聞いているので、いろいろと食べたいなと思っています。

でも、なんといっても、11月に皆様と劇場でお目にかかるのを一番楽しみにしています!


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