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新シーズン開幕:飯守泰次郎オペラ芸術監督に聞く

2014/2015シーズンが開幕しました。 

オペラ部門では飯守泰次郎芸術監督が、舞踊部門でも大原永子芸術監督が新しく就任、

演劇部門の宮田慶子芸術監督は2期目を迎えます。

新体制となったこれからの4年間を展望した、芸術監督インタビューをご紹介します。



――新国立劇場オペラ芸術監督としてのヴィジョンを教えてください 飯守DSC_9097-001.jpg


 私の信念は、あるひとつの文化あるいはスタイルに偏らない、ということ。私が活動した場所の大部分は古いドイツの伝統を保っているところでしたが、その中でフランス人であるブーレーズの改革も経験しており、事象を相対的にみることを重んじる価値観を身に着けたつもりです。全ての音楽家は、自分の過去の経験から未来を予測し、最善を尽くすしかありませんが、私は幅広くヴァリエーション豊かな蓄積を備えることができたので、どのような事態にも対応できる柔軟性を持っていると思っています。

 私が今まで大事にしてきたことは、作品の根源にある作曲家の意図を聴衆に伝えたい、聴衆と分かち合いたい、ということ。新国立劇場でもそういったことに努力を傾けていきたいと思っています。具体的にはレパートリーであり、また、指揮者、演出家、そして歌手の選び方です。キャスティングは、声のキャラクターにこだわりたい。いわゆるファッハ(声のタイプ)を重視します。たとえば、ドン・ジョヴァンニとレポレッロの両方を歌える歌手がたくさんいますが、私に言わせれば、ドン・ジョヴァンニの声はキャラクター・バリトンにリリック・バリトンの要素が入り、さらに貴族的なカヴァリエ・バリトンという性格も備えていなければなりません。一方、レポレッロはバッソ・ブッショであり、全く違うタイプなのです。歌手のカリスマ性や任期という理由だけで選ぶのでなく、作曲家の意図した役柄本来の声に近い人で、かつ役柄になりきってくれる歌手を選びたいです。

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――毎シーズンの十演目はどのようなお考えで選ばれますか

 国あるいは民族のバランスを考えたいと思っています。イタリア・オペラは当然多くなりますが、モーツァルトはできれば必ず、それからドイツの楽劇も入れたいと考えています。また、フランスやロシア、スラブなどの作品の中で、新国立劇場で未上演の主要作品や、滅多に演奏されないけれどぜひ紹介したい良い作品も選びたいと思います。さまざまな可能性を探りながら、非常に慎重に考えています。

 新制作は三本です。「パルジファル」は新国立劇場がワーグナーの主要作品の中で唯一取り上げていない作品ですから、ぜひ上演しよう、と決めました。今回の「パルジファル」のキーワードは〝ベテラン″。演出はドイツの国宝的存在のハリー・クプファーです。歌手も円熟の域にある素晴らしい人たちが揃います。そして「椿姫」のキーワードは〝若手″。演出家ヴァンサン・ブサールは演出家としては若いジェネレーションであり、歌手ラナ・コス、アントニオ・ポーリは今ヨーロッパで注目されている二十代。ブサールの演出はモダンで、色彩が美しく、実に絶妙な照明のセンスがあります。新しく美しい「椿姫」になると思います。「マノン・レスコー」は東日本大震災で中止になってからやっと初演が叶います。

 

――日本人の作品は今後どのように取り上げるのでしょう

 シーズンに一作品は上演したいと思っています。「沈黙」は、日本が世界に誇れる邦人作品です。今回は中劇場でなくオペラパレスで上演いたします。また、私の在任期間中に委嘱新作をできれば上演したいと思っております。

 

――劇場の使命のひとつに若い聴衆の育成があると思いますが、いかがお考えでしょうか

 オペラは人間の感情のあらゆる要素が描かれた、内容豊かなジャンルですから、多くの若者にぜひとも観ていただきたいです。そのために二つのアプローチがあると思います。ひとつはオーソドックスでわかりやすい演出での上演。例えば「蝶々夫人」を観た高校生が、蝶々さんが自害する前に子どもが抱きついてくる場面で泣いているのを見ました。物語どおり自然に描くオーソドックスな演出は、若者の心をとらえるのです。

 もうひとつのアプローチは、作品に新しい光を当てる、モダンな演出のほうが、若い人は興味を持つかも知れないということ。作品の内容に合った演出ならば、かなりの冒険もあって良いと思います。最終的には演出家の才能、センスにかかっています。伝統的な上演も大切ですが、新しい時代を切り拓くことも必要です。一番大切なのは、音楽と舞台が一体化して若い人たちの心に新鮮な感動を呼ぶことです。その意味でも、演出家と話し合って密接にコミュニケーションを取りたいと思っています。また若い人たちにリハーサルなども見学してもらい、創造の現場を体験してほしいと思っています。

(ジ・アトレ4月号より抜粋)


大原永子舞踊芸術監督インタビューはこちら

◆宮田慶子演劇芸術監督インタビューはこちら