ケベック州

文化政策を優先したケベック州

ケベック州は、北米大陸の北東部に位置し、人口は800万人、面積は日本の5倍にあたり、カナダ10州のなかで最大である。また、北米大陸のなかでフランス語系の州民が大半を占める唯一の州である。

17世紀から北米に住むケベックの人々は、自分たちのルーツの言語であるフランス語、伝統、文化、生き方や独特の創造性を大事に守り、継続していくという強い願望をよりどころとしている。

ケベック州のその強靭なアイデンティティの開花を促進するため、州政府は、文化政策を最優先事項の一つに掲げた。ケベック州は、1961年にはすでに現在の文化・コミュニケーション省の前身である文化省を創設しており、以来、その公的文化支援制度は北米レベルでも突出している。

例えば、州政府は総予算の1.1%を文化産業や文化機関、クリエーター、アーティストなどへの助成支援に充てている。この支援内容は大変幅広く、クリエーターらの制作活動を支援するもので、政策や法令、プログラム、施策などの形で活用されている。

この文化支援政策の効果は、ケベック州の2011年の州民総生産高の4.8%を文化産業が占めるという結果に繋がり、文化産業の発展に貢献している。

世界で活躍するケベックの演劇人

州最大の都市モンレアル(モントリオール市)から、州都ケベックを通り、北部の町や村々まで、州内全域には2500の文化施設があり、年間400を超えるイベントが開催されている。そのなかでも、有名なのはモンレアル国際ジャズフェスティバル、モンレアル世界映画祭、ケベック・サマー・フェスティバル、ジャスト・フォー・ラフ・フェスティバル、モンマニー・アコーディオン世界音楽祭などがある。

ケベック州は、また、伝統的、宗教的な文化遺産を多数保持しており、645の建築物が指定文化財として保存されている。ケベック州の文化遺産保護に関する新法では、さらに伝統的な専門知識や文化的景観、無形文化財などを含めた文化遺産の保存措置にも力をいれている。

さて、演劇は、ケベック州の歴史と文化において非常に重要な位置を占めている。フランス領であったヌーベル・フランスの時代から、北米大陸においては常に舞台芸術の筆頭格であった。その後、1960年代に入ると、演劇はケベック社会の近代化・国際化を表す重要、かつ不可欠な表現手段となった。この時期の牽引役は、劇作家ミシェル・トランブレであり、彼の作品『義姉妹』は、のちに30余りの言語に翻訳され、25カ国で上演された。日本でも1995年に舞台化され上演されている。

さらに、ケベックの演劇は、ケベック州内での公演にとどまらず、世界各地の様々な演劇フェスティバルなどにも頻繁に招聘され、喝采を浴びている。ミシェル‐マルク・ブシャール、ロベール・ルパージュ、ワジディ・ムアワドなどのクリエーターが、各々の創作でケベック発の演劇を世界にアピールしている。また、青少年演劇の分野でも極めてダイナミックに活躍を続けており、観客の知性・感性に訴えかけるアプローチで知られるケベックの演劇は、今や世界中で上演されている。

クオリティの高い文化施設

ケベックでは、演劇は劇場のみならず、上演可能なあらゆるスペースで上演されている。一般の劇場は言うに及ばず、学校内の劇場(ほとんどの高等教育施設内にはプロが上演できる劇場を備えている)、興行施設、劇作家や演出家、職人らのアトリエなど、場所の特性を生かした形で上演されている。

現在も、ケベック州政府は、演劇界への支援政策を精力的に進めている。たとえば、大規模なイベント開催、文化交流促進、国際共同制作、劇団やプロデューサーへの制作助成、ケベック州内外の公演ツアー実現、などに対する様々な助成支援制度がある。

この演劇産業界(劇場など)への州政府の公的支援は、1994年から拡大の一途にある。具体的な支援額は、1994~1995年度には1280万カナダドルであったが、2010年度には2280万カナダドル、と78%も増加している。劇団やアーティストへの助成金を比較しても、1994~1995年度には292300 カナダドルに対して2010年度には503411 カナダドルと72%もの伸びを示している。

また、質の高い設備を備えた劇場、文化施設の保存維持も州政府の使命のひとつである。

ケベック州を代表する文化施設としては、そのスケールから2つ挙げられる。州都ケベック市にあるグラン・テアトル・ドゥ・ケベックは、2つの多機能的ホールを有し、計2380人を収容できる。2010年度には、延べ293370人の観客が来場、コンサート、ミュージカル、クラシック、リサイタル、演劇、ダンス、オペラ、コメディ、映画シンポジウムなど、多彩なジャンルにわたる計375回の公演を堪能した。

一方、モンレアル市のプラス・デ・ザール・ドゥ・モンレアルは、カナダ国内屈指の重要な舞台芸術マルチ施設として知られている。また、文化国際都市開発計画の「スペクタクル地区」の中心に位置し、新設されたメゾン・サンフォニックを含む5つのホールや美術館、博物館、スタジオから構成され、6000席の総客席数を誇る。

このスペクタクル地区の約1㎞四方内には劇場、コンサートホール、美術館、博物館、映画館などの80余りの文化発信施設がある。

1893年から今日まで活用され続けているケベック州最古の劇場、モニュモン・ナショナルもこの地区にある。さらには、1歳から17歳までの幼・青少年を観客対象とした演目を上演するための劇場、メゾン・テアトルなど、合わせて30の劇場・ホールが存在する。

ケベックの演劇界は、劇場などの文化設備のクオリティに支えられ、その多様な異分野を融合させた表現形態などによってオリジナリティーに富んだハイクオリティの作品を生み続けている。

ケベックの人々はケベックのアイデンティティを示すものとして、このクリエーターたちの作品、活躍を誇りに思っている。

ケベック州政府
文化・コミュニケーション省
ルイ・ヴァレ政務次官補
(地域・社会基盤施策担当)

<2012.10.29発行『るつぼ』公演プログラムより>