2013年2月19日
オペラ研修所公演「カルディヤック」
演出:三浦安浩が、観どころ、聴きどころをご紹介します
本邦初演!“決してほかでは観られない”今回の演目を何にするか、木村所長と2年ほど前から検討してきましたが、実は、いの一番に所長があげたのが『カルディヤック』でした。所長ご自身が歌手として活躍されたドイツのデュッセルドルフの劇場でヒンデミットはかつてヴィオラ奏者だったため、そうした思い入れもあったのかもしれません。早速、ウィーン国立歌劇場やパリのシャトレ座の上演記録などを取り寄せたところ、この『カルディヤック』は、とても奥深く、1920年代という時代と確実に向き合った観どころ満載の名作であると確信しました。
ホフマンの幻想性とモノクロームの犯罪性そうはいっても、決してマニアックな作品ではありません。『カルディヤック』は金管や打楽器のリズムを強調するような、刺激的でとてもいい音楽です。一方で、原作のホフマンの味も舞台で表現できたらと思っています。幻想小説を得意としたホフマンのことですから、ファンタジックな部分も取りいれながら、1920年代のモノクロームの犯罪映画をイメージした演出を考えています。きっとわくわくして観ていただけると思いますので、お楽しみに。
オペラ研修所基礎演技試演会より
カルディヤック:村松恒矢(Bar.)
娘:吉田和夏(Sop.)
謎だらけの登場人物が織りなすドラマカルディヤックの周りを囲むのは、その娘と恋人の士官、それに貴婦人や金商人、衛兵隊長、騎士などですが、注目してほしいのは、カルディヤック以外の登場人物には名前がつけられていないこと。生い立ちも出会いの経緯も謎のまま。唯一名前のついた「カルディヤック」も、金細工職人と父親(妻は不在)、そして殺人鬼という多重人格者で、固有名詞というよりは伝説化したブランド名のようなもので、名前だけが一人歩きしているような感じです。こうした匿名性は、人間性を突き放して、それこそチェスの駒のように動かし、即物的に人間をみているように思えます。
現在、オペラ研修所には、ソプラノ8名、メゾソプラノ1名、テノール4名、バリトン1名が在籍しており、各々の持ち味が発揮できるよう、全力で稽古に励んでいます。また今回の合唱は栗友会の皆様にお願いしました。一幕、三幕ではダイナミックに群衆場面を担い、そして主人公を裁くクライマックスの場面では大胆に動いていただく場面も構想しています。その動きがカルディヤックの存在そのものの理由に迫る重要なシーンにもなります。ぜひ合唱にもご注目ください。
モーツァルトやヴェルディももちろんいいのですが、『カルディヤック』で“オペラデビュー”というのもいいかもしれません。オペラってこういうものなのかと思ったり、なんかこの音楽って変じゃない、と思ったらしめたもの。次はどんなオペラを観ようかという興味につながったら幸いです。皆さん、劇場でお待ちしています。