2012年10月12日
オペラ「ピーター・グライムズ」 いよいよ14日(日)に楽日を迎えます
公演評、お客様アンケートなどで大絶賛のオペラ「ピーター・グライムズ」はいよいよ14日(日)に楽日を迎えます。(2:00開演)どうぞお見逃しなく。
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10月9日(火)の読売新聞夕刊に掲載された公演評をご紹介します。
徒弟殺しの嫌疑をかけられた漁師ピーターは、村人たちの憎悪の標的となり、自死に追いやられる。新国立劇場の今シーズン幕開けは同オペラ劇場では初の英国オペラ、ブリテン「ピーター・グライムズ」(1945)。簡素な舞台をたくみに使い、息づまる心理劇にまとめた演出(ウィリー・デッカー)が秀逸だ。
舞台は強く傾斜しているうえ奥行きが浅いため、かなり圧迫感がある。そして狭く暗い空間で人々がひしめきあい、気に入らぬ者をはじき出すさまは、まさに村社会の縮図。特に終幕、ピーターのもとで2人目の徒弟が死んだと聞きつけた群衆が「人殺しの償いをさせてやる」と叫び、十字架をかかげて意気揚々と行進する姿にはぞっとした。
一方、人々が排他的であるほど、疎外された人物は健気にうつる。とりわけ女教師エレン役(スーザン・グリットン)が凛とした声で「罪なき者から石もて打て」とピーターをかばう場面は胸に響いたし、題名役(スチュワート・スケルトン)は弱音に難があるものの、馬力のある声と茫洋たる演技ゆえに、不器用にして不運な男の風情を醸す。
さらに管弦楽(リチャード・アームストロング指揮の東京フィルハーモニー交響楽団)も人心の闇をあぶり出す。とくに合唱を支えるえげつないまでの低音は、暴走する群集心理を裏付けるが如くだった。
ピーター亡き後、エレンは次なる標的になるのを恐れ、心ならずも村人達に付和雷同する。初演時同様、いじめや差別が今なお切実な問題であるという思いに胸塞がれる幕切れだった。
(2012年10月9日 読売新聞(音楽評論家 松平あかね))
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