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2012年7月5日

−「アイーダ」にはヴェルディの“死への親近感”が描かれています−
オペラ「アイーダ」(コンサート形式) 合唱指揮・三澤洋史氏に訊く

いよいよ今月末に迫った新国立劇場と中国・国家大劇院の共同制作による「アイーダ」(コンサート形式)。新国立劇場合唱指揮者の三澤洋史氏に、今回の公演への抱負・期待、「アイーダ」の音楽について伺いました。スペクタクル・オペラと捉えられがちな「アイーダ」の隠れた魅力とは?三澤氏ならではの視点がユニークです。

 
――「アイーダ」の稽古はどこまで進まれていますか?
これまで5回ほど合唱音楽稽古をしました。鑑賞教室「ラ・ボエーム」公演が終わってから、新国立劇場合唱団だけであと2回稽古をして、その後、国家大劇院合唱団と合同稽古、マエストロ稽古と進んでいく予定です。

――今回は、ソリスト、合唱ともに中国・国家大劇院との合同での演奏となります。
新国立劇場合唱団と国家大劇院合唱団のはじめての合同稽古は私が指揮する予定になっています。新国立劇場合唱団がこれまでに培ってきたものと、中国でつくってきたものが、どういう風に出会うか予想できずとても楽しみですね。中国人の歌手の方は、これまでヨーロッパなどで何回か聴きましたが、皆さん圧倒的に素晴らしい声なんです。大陸的というか、ブリリアント、声に輝きがありますね。

――日本公演の指揮者は広上淳一氏です。
広上氏の音楽はとても情熱的です。新国立劇場で昨年「椿姫」を指揮されましたが、広上氏は情熱的な一方でフレキシブルな部分もあって、歌手の個性を尊重しながら、その上でパッションを持ってひとつの作品へ仕上げていくというのが素晴らしいと思いました。期待しています。

――今回の公演はコンサート形式です。「アイーダ」というと、凱旋の場に代表されるようなスペクタクルをイメージしますが、この作品の音楽的魅力は?
私は一般的に言われるのとは違う風に「アイーダ」をとらえていて、「レクイエム」と似ていると感じています。その前の「ドン・カルロ」もそうですが、死への親近感というものを作品に感じるんですね。「アイーダ」を書いた時のヴェルディは、もう自分が長くないと思っていたんじゃないでしょうか。終幕の二重唱では−合唱がソロにデリケートに絡んでいます−、アイーダとラダメスが二人地下で静かに死んでいくわけですが、このような終わり方はヴェルディはそれまでほとんどしたことがなくて、このシーンにヴェルディは自分の人生の終焉を重ね合わせていたような気がします。前奏曲のアイーダの悲劇的なテーマから、諦念というものを感じますね。もうひとつ、「アイーダ」はヴェルディが書いた最後の番号オペラですけど、重唱がとても充実しています。音楽的には保守的といわれていますが、よく見るときめ細かな表現がされています。「アイーダ」でヴェルディの人生が終わりになったとしても、ヴェルディの名声は揺るがなかったと思いますね。その後、「オテロ」と「ファルスタッフ」という若々しい、ヴァイタリティに溢れた作品をヴェルディは書きました。「ファルスタッフ」が最後の作品だったというのもとても象徴的なんですが、そこに至る途中の「ドン・カルロ」「アイーダ」「レクイエム」あたりの音楽世界を今回味わっていただけるチャンスですね。ヴェルディはスペクタクルでお客さんを楽しませる一方で、複雑でデリケートな表現をやっていた。その両方の意味でヴェルディは円熟していたんですね。今回のコンサート形式での上演は、後者の面を味わっていただくよい機会だと思います。

――ずばり聴かせどころは?
今申し上げたラストシーンと、凱旋の場の後半のコンチェルタートですね。このコンチェルタートの中ではいろんな事件が起き、ドラマの展開の複線が多重構造で描かれています。ラダメスが捕虜の解放を願い、その捕虜の中にアモナズロがいる、そして国王はアムネリスをラダメスに与えると言い、アイーダは絶望するといった具合です。登場人物それぞれの心のひだというのが繊細に表現されていますね。合唱においても捕虜の合唱に対して、敵対する祭司の合唱があり人間関係が描かれている。こういうところに注目して聴いていただくと、「アイーダ」の隠れた面というか、真実が見えてくると思います。

――日本公演の後、北京の国家大劇院で公演です。
新国立劇場オペラ部門初の海外公演がアジアだというのは、今後の日本人のひとつの在り方を表していると思います。これまでは海外公演というと、ヨーロッパという感じでしたから。中国と半々で合同で演奏するというのは画期的だと思います。公演を成功させて良い関係を築いていきたいですね。また、これを機会に新国立劇場から海外に発信していけるとよいと思います。


 
 
日中国交正常化40周年記念
2012「日中国民交流友好年」認定行事
オペラ「アイーダ」(コンサート形式)
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