新国立劇場について メニュー

2012年6月8日

6/9(土)一般発売開始!オペラ「アイーダ」(コンサート形式)
中国が生んだ世界の《アイーダ》〜和慧(ヘー・ホイ)への期待

加藤浩子(音楽評論家)

 
2012年3月シカゴ・リリック・オペラ「アイーダ」より(右)ヘー・ホイ
ⓒDan Rest/Lyric Opera of Chicago
オペラファンならご承知のように、今や欧米のオペラハウスは、アジアやロシア・東欧出身の歌手なしでは成り立たない。オペラの母国イタリアが(目下経済危機にあるとはいえ)戦後の経済成長で豊かになり、かつてのように歌手が憧れの職業でなくなったこともあって、ハングリーでパワフルなアジアやロシア・東欧の歌手たちが才能を競っている。ヴェルディの故郷ブッセートで開催され、半世紀の歴史を誇る「ヴェルディの声」コンクールでも、90年代以降、東欧圏やアジアの歌手が優勝するケースが目立って増えた。
とはいえ「ヴェルディの声」の勝者になっても、それだけで世界的な活躍が約束されるわけではむろんない。2002年にこのコンクールを制覇したヘー・ホイは、覇者のなかでも飛び切りの大型ソプラノとして、世界の有名歌劇場でひっぱりだこの逸材である。蝶々さん、アイーダ、アメーリア(《仮面舞踏会》)といったイタリア・オペラのリリコ・スピント系の役柄で、大歌劇場のプログラムに彼女の名前を目にしないシーズンはない。スカラ座の蝶々さんも、ヴェローナのアイーダも、ヘー・ホイの名前が出ると現地のオペラファンは納得してうなずくのだ。「彼女なら、間違いない」と。
先日、待望の映像が出た。2011年に収録されたばかりの、フィレンツェ歌劇場の《アイーダ》。視聴して驚嘆した。音楽監督メータの指揮下、ベルティ、マエストリ、ディンティーノ、プレスティアらイタリア出身のトップクラスの歌手たちを揃えた公演で、飛び抜けて輝いていたのがヘー・ホイだったのだ。その実力は、カーテンコールでの大喝采に正直に反映されていた。引く手あまたになるのも、もっともである。
 
ⓒDan Rest/Lyric Opera of Chicago
歌のうまさは言うまでもない。抜群の安定感。声の完璧なコントロール。アイーダ役に必須の中声域がたっぷりしていて、高音も危なげなく、安心して「声」の魅力に浸れる。
その「声」自体の魅力がまた素晴らしい。豊かで張りがあり、ソプラノらしい、女らしい声なのだ。表情に富んでいる上に、湿り気があるというか、色っぽい。
感服してまったのが、舞台人としての才能である。声に感じた多彩な表情や色気が、実際の表情やしぐさにもにじみ出ていて、しかもそれが役作りに直結しているのだ。アモナズロに脅されて屈服した瞬間の絶望のため息の深さも、ラダメスをかき口説く時に覗かせる女としての魔性も、こちらの心を揺さぶりかけてくる。アイーダという役柄は、敵役のアムネリスに比べてとかく単純にとらえられがちなのだが、ヘー・ホイの演唱するアイーダは、祖国の運命とともに苦難の道を強いられ、「国」を盾にした男たちの都合によって苛酷な葛藤に苦しむひとりの女性の心のひだを、共感を持って伝えてくれるのである。
このたびの日中の共同制作による《アイーダ》のタイトルロールに、中国が生んだ世界のアイーダ、ヘー・ホイほど、ふさわしい歌手はいないだろう。

 
和慧(ヘー・ホイ He Hui)プロフィール
世界的に活躍する数少ないリリコ・スピント・ソプラノのひとり。00年プラシド・ドミンゴ国際オペラ・コンクール第2位、02年“ヴェルディの声”コンクールで優勝し、欧米で一躍脚光を浴びる。レパートリーには「アイーダ」「蝶々夫人」「トスカ」タイトルロール、「仮面舞踏会」アメーリアなどがあり、中でもアイーダ役は、ウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ヴェローナ野外劇場など世界各地でこれまでに97回歌っている当たり役である。今後の予定には、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、ヴェローナ野外劇場で「アイーダ」タイトルロール、バイエルン州立歌劇場で「蝶々夫人」タイトルロールなどがある。新国立劇場初登場。

 

一般発売   6/9(土)10:00〜
ボックスオフィス 03−5352−9999
ぴあ、イープラス、ローソンチケット、CNプレイガイドほか

日中国交正常化40周年記念
2012「日中国民交流友好年」認定行事
オペラ「アイーダ」(コンサート形式)
公演情報は、こちらから