新国立劇場について メニュー

2010年10月20日

2010/2011シーズン開幕にあたって  <遠山敦子理事長ご挨拶>

三部門に新しい芸術監督をお迎えして
新国立劇場…これまでの軌跡と新時代の幕開け

財団法人新国立劇場運営財団 理事長 遠山敦子
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開場以来十三年の実績と使命

 三部門の新しい芸術監督を迎えて、新国立劇場の2010/ 2011シーズンが開幕しました。ご存知のように、新国立劇場は現代舞台芸術に関する唯一の国立の劇場で、オペラ、バレエ、現代舞踊、そして演劇を、自ら企画・制作し、上演しています。1997年10月の開場からわずか13年経ったばかりですが、これまでの全ての関係者の努力や観客の皆様の支えによって、どの分野も、国の内外から大変高く評価されるようになったことは、とても有難いことだと思います。

 オペラでは、「ニーベルングの指環」をはじめとする多くの名作や上演が難しいとされる20世紀オペラにも挑戦してまいりましたが、世界の多くの主要なオペラハウスから、短期間に創造性を備えた質の高いパートナーとなったのは称賛に値すると評されております。ここで出演した世界的な歌い手や指揮者の皆さんから、この劇場のオペラ制作や技術部門の専門性の高さや、優れた合唱団の存在を称賛していただけるのはうれしい限りです。

 バレエは、牧阿佐美前芸術監督のご尽力で、新国立劇場バレエ団という劇場付きのバレエ団をもち、古典バレエから現代の振付家の作品まで多岐にわたる舞台を上演しています。ソリストの力量や作品全体の完成度の高さはいうまでもなく、ことにコール・ド・バレエ(群舞)の美しさ・質の高さは国際的にも高水準と云われております。また、コンテンポラリーダンスでも意義あるプロダクションを数多く世に送り出してまいりました。

 演劇では、長年の実績が観客の皆様から大いに受け入れられてきました。昨年の大型企画「ヘンリー六世」三部作が演劇賞を多数受賞するなど、新国立劇場の総合力が高く評価され、日本の演劇界をリードする劇場としての地位を固めつつあります。

 来場者数は年間約20万人にのぼり、ますますにぎわいを増してきております。

 新国立劇場の使命の第一は、常に高い水準の公演を実施し続けることでしょう。ときにチャレンジングな試みも新たな創造に向けて大切です。これまでに得た高い評価に誇りをもって、さらに一層充実した内容を目指したいと思います。

 第二は、広く国民の皆様に愛され親しまれる劇場となることです。このところ主催公演に関連したさまざまなイベントも実施され歓迎されています。これからもご来場の方々への心のこもった接遇をし、サービスの向上に努めてまいります。

 第三は、日本の重要な芸術文化の拠点として、海外にも文化発信していくことです。すでに公演の共同制作や海外での上演を通じて大きな成果をあげつつありますが、さらなる芸術的交流の促進と日本の文化力の発信に向けて力を尽くしてまいりたく思います。

 劇場では、次世代のアーティスト育成のための研修事業や高校生・こどものための鑑賞教室も重視しています。厳しい予算削減に直面してはいますが、できるだけ工夫をこらし、これまで築いてきたこの劇場の活動の質と規模を維持することはもとより、さらに発展させて皆様のご期待に応えたいと思います。

 今シーズンは、三人の新しい芸術監督を迎え、この劇場も新たな時代に入りました。きっと国立の劇場にふさわしい芸術性をさらに極め、より一層高い成果を生み出すようご活躍くださるものと確信いたします。劇場としても万全のバックアップ体制を敷く所存です。

 尾高忠明オペラ芸術監督は、世界で活躍中の優れた指揮者であり、オペラを愛し、海外の劇場に詳しく、国際的にも数々の経験をお持ちです。この劇場をさらに世界の一流歌劇場へと成長させるべく情熱をもって取り組んでくださっています。今シーズンは、「より広く、より深く、より楽しく」という明確なコンセプトのもとに、充実したラインアップを組んでくださいました。オペラ制作に伴う様々な課題に常に的確なリードをいただいております。加えてオペラトークの充実やリハーサル状況のホームページでの発信など、さまざまな工夫もこらしてまいります。シーズンの開幕を飾った「アラベッラ」は華麗にして充実した舞台で、森英恵先生デザインの衣裳も注目を集め、皆様にお楽しみいただきました。

 デヴィッド・ビントレー舞踊芸術監督は、優れたダンサーとしてのご経験のあと、振付家として次々に話題の作品を創作されています。バーミンガム・ロイヤルバレエの芸術監督として十五年の経験もあり、世界に通じる才能をお持ちです。すでに新国立劇場において、「カルミナ・ブラーナ」と新国立劇場バレエ団のための新作「アラジン」で、大きな話題を呼びました。
 「A New Direction」という新たなテーマのもと、牧前監督が築きあげた新国立劇場の舞踊部門をさらに国際性豊かなものに向上してくださると期待しています。新制作バレエのリハーサル室での稽古を観客に公開する新たな試みも始まりました。第一作目の「ペンギン・カフェ」は監督の意欲と技が光り、わが劇場バレエの新たな境地をひらいてくれることでしょう。

 宮田慶子演劇芸術監督は、小劇場から商業劇場と活動範囲が多方面にわたり、演出作品も日本の近現代戯曲や海外の戯曲、ミュージカルと、大変幅広く、新国立劇場では以前から演出や研修所講師として関わってくださいました。
 今シーズンは「JAPAN MEETS…−現代劇の系譜をひもとく−」をテーマに、日本の現代劇に大きな影響を与えた名作4作品を新訳上演するなど意欲的なラインアップが組まれました。その成果はオープニングを飾った「ヘッダ・ガーブレル」の舞台に見事に結実いたしました。また劇場が広く愛されるための試み、マンスリー・プロジェクトなどを精力的に進めていただいており、新国立劇場らしい演劇の確立に向けてご活躍いただけると期待しております。

世界に類のない総合劇場、新国立劇場の芸術監督の役割
 
 新国立劇場は、オペラ、舞踊に加え、演劇という三つの部門を持つ、世界に類のない総合劇場として発足しました。その運営責任は新国立劇場運営財団が担っていますが、公演の芸術面は、オペラ、舞踊、演劇の三人の芸術監督が各部門の最高責任者として芸術上の責任を負っています。新芸術監督を選考するにあたっては、選考委員会、理事会での審議を経て、最適な方にご就任いただいております。
 新国立劇場が主催する公演は、高い芸術性を創造するとともに、国民の皆様からのご支援と共感を得なければなりません。この二つの難しい課題を果たすために、芸術監督の役割は大きく、国立の劇場としてふさわしい演目かどうかを考慮したシーズンごとのラインアップの決定をはじめ、各公演の成果にも目を配り、力を注いでくださっています。
 こうした役割を担い、存分に力を発揮していただくため、芸術監督の任期、選考方法などについて、将来に向けて検討する委員会を十月に発足いたします。

結びに
 
 舞台芸術の魅力は、舞台上の芸術家の渾身の芸術表現を通して、人びとが直接的に感動し、喜びや悲しみを共感して、生きる手ごたえを得るところにあるのではないでしょうか。本劇場がそうした人生の歓びを常に提供できるよう、これからも三人の新芸術監督と役職員一同、一丸となって努力を続けてまいります。どうか、これからの新しい時代の到来にご期待いただき、ご支援を賜るようお願いいたします。