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2009年4月17日

『ムツェンスク郡のマクベス夫人』
指揮:ミハエル・シンケヴィチ インタビュー!

 

――日本ははじめてですか? 新国立劇場の印象はいかがですか?

今回がはじめての来日です。新国立劇場で素晴らしいと思ったのは、スタッフが皆プロフェッショナルだということです。チームとして協力的に気持よく働いており、感銘を受けました。このような劇場を他にみたことはありません。また、ここ日本にきて、日本の歌手陣が大変よく準備できていたことに嬉しい驚きがありました。音楽面、テキストの面ですべて理解しており、今はそれをより良いものにするために稽古しています。歌手の声も大変素晴らしいです。コーラスも才能に溢れ、とても素晴らしいです。このような日本の歌手陣と仕事できるのはエキサイティングです。二人の女性ピアニストもとても優秀で、ハイレベルの技術で、このパワフルな作品を弾きこなしています。私にとって強力なサポートとなっていますね。

――マリインスキー劇場の音楽監督代理として活躍されています。普段はマリインスキー劇場での指揮活動が多いのですか? ゲルギエフ氏から影響を受けたりされていますか?

私は2000年にゲルギエフに指揮者として招かれました。マリインスキー劇場では、毎日のように公演が行われており、私は公演の指揮はもちろん、芸術監督のゲルギエフ氏のもとで、キャスティング、歌手との音楽稽古、専属歌手の新しいレパートリーの構築、稽古なども行っています。このようにオペラに関わることで、多くの経験を積むことができましたね。ゲルギエフ氏は、とても個性的でカリスマがあり、精神力が強く、影響力がありますね。我々からみると彼は1日24時間働いている人です。パワフルで情熱に満ちており、それは彼の音楽からも、普段の活動からも感じられます。彼のような芸術監督のもとで仕事できるのは大変名誉なことです。

――最初に『ムツェンスクのマクベス夫人』を指揮されたのはいつですか?

2000年の12月です。マリインスキー劇場で仕事をはじめて半年たった頃でした。『さまよえるオランダ人』『運命の力』『蝶々夫人』など新しいレパートリーを指揮した後、ゲルギエフ氏がこの難しい『ムツェンスク郡のマクベス夫人』を指揮しないか、と言ったのです。大変興奮しましたね。

 

――この作品ははじめて新国立劇場で上演されるわけですが、この作品の魅力は何でしょう? 音楽をどう思われますか?

『ムツェンスク郡のマクベス夫人』の音楽は、20世紀の天才作曲家がいかに作曲するかという良い例です。ワーグナー、ヴェルディなど、オペラのレパートリーの中心は19世紀で、その後はオペラを作曲することは難しくなりました。ショスタコーヴィチは、新しい音楽言語(作曲技法)でオペラを作曲する良い例を示しています。現代作曲家のショスタコーヴィチは−彼は今ではそれほどモダンではありませんが20世紀の作曲家です−、多くの美しいメロディーを書いています。メロディーは決して死なない、とショスタコーヴィチは言っています。私は、メロディーがあると思える音楽が好きですね。人間の魂は歌を求め、歌はメロディーなのです。もちろん、シャープで荒々しい音楽、多くの不協和音などの他の要素もこの作品にはあります。
ショスタコーヴィチにとって、個人的に最も重要だったことは、登場人物を造形することだったと思います。カテリーナは、とても強い女性で、愛のためには何でもします。忘れてはならないのですが、このオペラは『椿姫』のように愛のオペラなのです。このオペラには、スターリン、社会体制、当時のロシアの雰囲気など様々な文脈を見ることができますが、人間にとって最も大事なのは感情です。ヴェルディの『アイーダ』は古代エジプトの物語ですが、我々は親近感を持てます。それは人間の情熱の物語だからなのです。『ムツェンスク郡のマクベス夫人』は、愛、裏切りなど、様々な人間の感情に満ちた作品です。私は音楽的にこれを表現したいと思っています。歴史的な文脈は大変興味深いですが、プログラムで読むこともできます。音楽を聴くときは、情熱を感じたいと思うはずです。ショスタコーヴィチが天才なのは、彼の魂が表現されており、人を感動させるからです。

――カテリーナはファム・ファタール(魔性の女)なのでしょうか?

もちろん、彼女は良い人ではありません。犯罪を犯しているわけですから。レスコフの原作では3人殺していますが、オペラでは2人殺しています。幼い甥を殺すシーンをショスタコーヴィチはカットしました。別の印象をこの作品に加えたかったからです。カテリーナはファム・ファタールではありませんね。この作品は、ある女性が、とある状況でいかに愛のために強くなれるか、ということを表現しています。カテリーナは愛のためにこうするしかなかったのです。状況が違えば、彼女は違うことをしていたでしょう。これは愛の力の物語なのです。ショスタコーヴィチは彼女を表現するのに、抒情的でドラマティック、そしてカンタービレなメロディーを書いています。別の登場人物には、シャープな音楽、不協和音を与えています。

――ショスタコーヴィチはこの作品を改訂していますが、『カテリーナ・イズマイロヴァ』を指揮されたことはありますか?

ありません。この作品は今やどこでも、ロシアにおいてさえも、初版が上演されることが多いです。改訂版のほうが面白い、という人もいます。しかし、これは好みの問題です。両方ともとても良いオペラ作品ですから。指揮者、演出家の好みで、どちらを上演しても良いのです。初版はとても荒々しく、これが皆初版を好む理由です。当時の社会の雰囲気が出ていますしね。

――このリチャード・ジョーンズのプロダクションをどう思われますか?

大変面白いです。正直言って外国人の演出家が、この作品における状況、人間関係をこれほどうまく表現できるとは思っていませんでした。シーンによって、人間関係、感情が変わってとても複雑なのですが、それをはっきり表現していると思います。この素晴らしいチーム、特に再演演出家のエレイン・キッドと仕事ができて大変嬉しく思っています。彼らはプロフェッショナルで優秀です。

――歌手はいかがですか?

ステファニー・フリーデさんは大変素晴らしいです。自分の持ち味をこの役にいかしており、彼女と仕事できて嬉しく思っています。毎日色々話し合いながら、新しいアイデアを試しています。人間的にも素敵な方ですね。二人のロシア人歌手は、この役を何度も歌っており、良いキャスティングだと思います。ワレリー・アレクセイエフは今回3役を歌っていますが、彼は世界的にも有名な歌手で、ドラマティックな役者でもあります。多くのレパートリーを持っており、録音も多いですね。ルトシュクもこの役ははまり役です。彼もロシアの作品だけでなく、ワーグナーも歌っています。日本でマリインスキー劇場が、リングを上演した時も参加してますね。