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2009年3月30日

『シュート・ザ・クロウ』出演 板尾創路インタビュー


シリーズ・同時代【海外編】第二弾は、今回の上演で初めて日本に紹介される
北アイルランドの劇作家オーウェン・マカファーティーの『シュート・ザ・クロウ』
「早く仕事を終わらせようぜ」を意味するタイトルの作品は、四人のタイル職人の
ユルいおしゃべりを連ねながら、仕事、家族、そして生きることについて考えさせる、
ひとひねりあるコメディだ。演出の田村孝裕がキャスティングを熱望した
板尾創路に、演じること、そして舞台の魅力について聞いた。

インタビュアー:徳永京子(演劇ライター)
会報誌The Atre 2月号掲載

 

ウケる量を問われるお笑い
ウケる種類を問われる舞台


――テレビのバラエティやお笑い番組を中心にご活躍の板尾さんですが、役者としてのキャリアも豊富にお持ちですね。

 演じることは基本的に好きなんです。特に舞台はわりと好きですね。今回(のオファー)は翻訳ものですし、最初に脚本を読んだときは、実はコメディなのかシリアスなのかもよくわからなかったんですよ。でも男4人のタイル職人の、1日の中で繰り広げられていく話が淡々と描かれていて、それを演出家さんや翻訳家さんがどういうふうにおもしろくしてくのか、そこにすごく興味を持ったというか。その過程を近くで見たらおもしろそうやな、と思いました。

――舞台のどんなところがお好きですか。
 
 やっぱり、お客さんがそこにいることですかね。当たり前のことですけど、反応が目の前にあるっていうのは、一番わかりやすいじゃないですか。それと幕が開いて本番が始まったら、戻れないし止められないというのも、なんというか、潔い感じがして好きです。同じ台詞を言ってても毎回感じる空気は違って、その回のその雰囲気は、そこにいた人たちだけのものという“やりきり感”みたいなものもいいですよね。

――観客がすぐ目の前にいるという点では同じですが、お笑いのライブと演劇では、反応の出方がきっと違いますよね。

 お笑いは、その場でどれだけウケるかなんですよ。でも演劇には、クスッと笑う笑いもあるし、帰る途中で「ああ、そうか」って笑うこともあるし、声にこそならなくてもワクワクしながら観るとか、いろんなおもしろがり方があると思うんでね。(目的が)大きな笑いを取るためだけじゃない。ひとつの話、物語としての展開の中で、シリアスな場面もつくれれば、笑いを取ることもできる。1時間とか2時間とか、笑いっぱなしになれるお笑いも好きですけど、演劇はそうやって楽しんでもらえるのがいいと思います。

――「シュート・ザ・クロウ」はまさに、爆笑もクスクス笑いも、また、笑ったあとで不思議な気持ちになってしまうユーモアも含まれています。観る人によって、あるいはつくり手の意識によって、とても大きな幅が出そうな作品ですね。

 ホントにやりようだと思います。稽古はこれからですが、演出でどうにでもなりそうだし、役者さんそれぞれの意見もあるかもしれないし。そこはみんなと一緒につくって行けるところなので、その作業の楽しさは今から感じてますね。

――全体的には4人の男達のグダグダ感がユーモアにつながると思うんですが、アイルランドの労働者や社会環境がベースになっている話なので、日本人にはわかりにくい笑いもありそうです。

 そうですよね。もしギャグが入っていたとしても、日本人じゃ絶対にわからないギャグもありますからね。日本語でやるわけですし、役者さんそれぞれの個性もありますから。ただ、全体の流れとしては“何かに向かっていく”というはっきりした感じではなくて、同じような愚痴だとか夢だとかを繰り返し話している話なんで。そのグダグダした様子をお客さんには楽しんでもらえればいいのかな、と。まだ稽古前なのではっきりしたことは言えませんが、そういう見てもらい方になるんじゃないかと思います。

 

浮世離れしたソクラテス
わかると言えばわかります


――出演者の皆さんがそうですが、台詞量が多いですよね。しかも、特に大きな事件が起きるわけではなく、同じような愚痴を繰り返すので、逆に覚えづらいのではないかと思います。板尾さんは台詞覚えはお得意ですか。

 いえいえ、もう全然です(笑)。だけど頑張って覚えるしかないですから。毎回そうですけど、ひたすら(脚本を)読んで。

――板尾さんが演じるソクラテスという男性は、自分の頭に浮かんだことはすぐ人に聞いてほしいのに、人の話はあまり聞きません。共感できそうな部分はありますか。

 浮世離れした感じがすごくする人ですよね。ある意味、ギリギリだと思います(笑)。僕もまぁ、普通じゃないといえば普通じゃないので、なんとなくわかると言えばわかります。

――板尾さんにとって役者としての仕事はどういうものなのでしょう?

 そんなに大したことは考えてないんですけどね。すごい役づくりしてどうこう……ということではないし。「もし自分だったらこんな感じかな」っていう感じでいつもやらせてもらってるだけなんです。だからいつも無理はしてない。……まったく無理してないってことないですけど(笑)、僕の場合、いただく役が普段の自分と大きく変わるケースがまだないので、そんなに違和感なくお芝居をさせてもらってます。だから楽しめてると思いますね。あの、こういう言い方は良くないのかもしれませんけど、あんまり頑張って出来たとしても、それはプロじゃないんじゃないかなと思うんです。もともと熱演とかが好きじゃないんですね、僕。それもあって、あんまりいっぱいいっぱいなところを見せて応援されるのも、どうかなぁと思いますね。演技に限らずですけど、何事もお客さんに安心して観てもらうぐらいの余裕を持ってやりたいです。

――この作品は上演中、役者さんに本当にタイル貼りをしてもらいながら進んでいくそうですが、タイル貼りのご経験は?

 ないです。そういう稽古もせなあかんてことですね。

――長台詞を言いながらスムーズにタイルを貼れるように。本番が終わる頃には、すっかりタイル貼りの達人になられているかもしれません。

 どんな稽古になるのか想像がつきませんけど、頑張ります。