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2008年8月20日

近代能楽集「綾の鼓」「弱法師」出演 木村了インタビュー

三島由紀夫の傑作「近代能楽集」の中の二編を同時上演する今企画。
空襲の炎で失明した青年・俊徳の親権裁判を舞台にした『弱法師』では、
テレビドラマや映画で活躍中の19歳、木村了が俊徳役に挑む。
以前、この作品を観て強い印象を受けたという彼に、
舞台への意気込み、演じることへの思いを聞いた。

インタビュアー:山村由美香(演劇ライター)
会報誌The Atre 8月号掲載

 

いろんな感情が詰まっている舞台


――舞台は二作目になりますが、今回の出演が決まったときのご感想は?

 初めて聞いたときは唖然としてしまって、「嘘だろう?」と思いました。最初にやった舞台はミュージカルだったので、こういう本格的なお芝居は、もうちょっと自分の中で覚悟が固まってからと思っていたんです。しかも『弱法師』という作品は、事務所の先輩の藤原竜也さんがされたのを観ていて、すごく印象に残っていたので、なおさらびっくりしました。

――自分が演じるという意識で台本を読んで、如何でしたか?

 想像していたより、はるかに難しくて深い役で、すごい緊張が押し寄せてきました。上演時間は45分くらいですけれど、いろんな感情が入り乱れて、詰まり過ぎているくらい詰まっている舞台だと思うんですね。それに三島由紀夫さんが自分自身を描いた作品だから、ほんとになりきらないといけないだろうなと。これまでやってきたテレビの仕事とかと同じようなつもりではできないだろうから、常に台本を持ち歩くことから始めようと思っています。

――藤原竜也さんとは、舞台について何かお話しされましたか?

 しました。「あれは難しいよ」っていわれて、けっこうプレッシャーをいただいたんですけれど(笑)。でも、藤原さんも苦労してやり遂げたこととか、この舞台をやって人間としても大きく変わったというお話を聞いて、「木村君は勘がいいから大丈夫だよ」といってくれた、その一言がすごく嬉しかった。藤原さんとは僕のデビュー作の映画(『ムーンライト・ジェリーフィッシュ』)で一緒だったんで、なおさら励まされたというか、そうか大丈夫だ、やるしかないし前に進むしかないんだ、と思いました。

 

俊徳になりきって舞台に立ちたい


――デビューされて6年。俳優としてお仕事の幅がどんどん広がっていますが、木村さんにとって演じる楽しさとは?

 絡みのシーンとかで、相手の役者さんが考えていることを読みとったりするのが、すごく楽しいんです。一人で台本を読んでいるときから、“このシーンでは相手はどういうふうに思っているんだろう”とか考えて、自分なりに答えを出すじゃないですか。で、本番になってやってみたら、すごく波長が合っていたり、きれいなワンシーンになっていたりすると、すごく嬉しい。あと、最近、自分で役作りをしていく作業がどんどん面白くなっていて、そのために資料を見たり、原作の小説を読んだりする時間も楽しいですね。そうやっているうちに、自分の中で何となく役の像ができあがっていくのが面白いんです。

――逆に、演技の経験が増えてきた今だから感じる難しさはありますか?

 バランスが難しいですね。役作りをするにあたって、考えすぎるのもいけないのかなって。考えすぎるとファースト・インプレッションがだんだん潰されていってしまう気がするんです。第一印象を保ちつつ、自分の中で練っていく作業って難しいし、それを表に出す作業はもっと簡単ではない。ワンカット、ワンカット、常に考えてはやるんですけれど、自分で納得いかないときのほうが今は大半です。そういうときは監督と話し合って、自分の芯を通しつつ人の意見も聞いて考えてっていう作業をしていくしかないと思っているんですけれど。

――ご自分では役作りとしてどんなことをしようと思っていますか?

 まず、とにかく台本を読み込んで、台詞の流れは何となく頭に入れておこうと。ただ、どういう言い回しがいいのかは自分で読むだけじゃまったく分からないので、それは稽古に入ってからにしようと思っています。あと戦争のこともある程度は調べるつもり。それから、俊徳が炎を見て美しいと感じたことを語るシーンがあって、そこは、お客さんに情景を想像させなきゃいけない大事なところだと思うんです。三島由紀夫さんの小説が原作の『金閣寺』という映画に、金閣寺を好きすぎて燃やしてしまう僧が、その炎を見てうっとりするシーンがあるので、それを何回も観て感性を引き出そうかなと思ってます。

――改めて、公演への意気込みをお聞かせください。

自分の中でも、この作品は一つの勝負だろうと思っているんです。勝負というか、自分がステップアップするうえで、この舞台をやって何を得られるかがすごく大事だろうなと。いってしまえば、これが僕にとって舞台デビューですから、成功させたいという気持ちは誰よりも強いです。それだけに不安なことも多々あるんですけれど。今は『弱法師』といえば藤原竜也さんのイメージが強いでしょうし、僕自身も役者として藤原さんが大好きなんですね。でもだからこそ、後を追うんじゃなく、木村了の『弱法師』と呼ばれるくらいの舞台にしたい。それが簡単じゃないことは十分承知の上で、俊徳になりきって舞台に立ちたいと思ってます。