2007年8月6日
「フィガロの結婚」の上演から「ばらの騎士」の上演まで、その歳月は100年余りです。しかし、その一世紀は音楽世界の変化の時となりました。モーツアルトがその時代のドアを開き、その軌跡は辿られて、世界中に素晴らしいオペラをもたらしました。
「フィガロの結婚」で芸術監督として船出をしたのは4年前、その航海を私は「ばらの騎士」で終えました。就任前の騒然たる2年の準備期間には、従来の伝統的なオペラ制作のしきたりと新しいオペラ制作のアイディアが対立し、いくつかの大きな議論が起こりましたが、その議論を経て、「フィガロの結婚」の初演では新しい世界が開かれたのです。
観客の皆様は、オペラ鑑賞が感性を養う糧と考え、作品を評価し積極的に関わり、作品に対して強い要求と好奇心を持っています。そのことを、アーティストも私も最初の演目から感じていました。また、観客の誇るべき劇場とアーティストが、世界の優れたオペラ劇場と同等のクオリティを持つ作品を上演することを渇望していることも理解していました。それゆえに、劇場の職員をはじめ、合唱団、オーケストラ、ソリスト、もちろん私も、この望みを実現するために全力を尽くしてきたのです。
「フィガロの結婚」で成功の道を開いた後は、前進あるのみでしたが、バイエルン国立歌劇場のような歌劇場と競い合うほどの国際的な認識を得るには、二年を要しました。「ニュルンベルグのマイスタージンガー」は、新国立劇場の真の価値を確信させ、そのしかるべき場所として、世界の12の歌劇場に選ばれるまでに至りました。日本のアーティストとスタッフは海外のアーティストと一緒になり、優れた劇場を築きあげ、新しい流行の発信さえ可能であることを証明したのです。今となっては、この劇場の作品も歌手も世界へと舞台を広げています。
この夢の実現に向けて大変にご尽力くださいました、日本と海外の全てのアーティスト、合唱団、東京フィルハーモニー交響楽団と東京交響楽団、技術部、その他劇場スタッフの方々全てに深く感謝いたします。新国立劇場は、世界中の一流のアーティストが出演を切望し、その舞台が必要とされる、誇るべき一流のオペラ劇場へと成長し、まもなく開場10周年を迎えます。そして、更なる発展を遂げる力が劇場に備わったと確信しています。さらに重要なのは、劇場を愛しアーティストを掻き立てる観客の存在です。この大義のために芸術監督を務められたことを、大変名誉に思います。
これからも、劇場やアーティスト、スタッフ、そして観客の方々は私の心にいつも在り続けるでしょう。そして、将来も新国立劇場の発展を目にすることは、最上の喜びとなるでしょう。
トーマス・ノヴォラツスキー
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