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2007年7月20日

開場10周年記念フェスティバル公演
2007/2008シーズン演劇オープニング
「三つの悲劇−ギリシャから」制作発表を行いました

7月2日、2007/2008シーズンオープニングを飾る「三つの悲劇」三部作(『アルゴス坂の白い家』『たとえば野に咲く花のように』『異人の唄』)の制作発表記者会見を行いました。
当日は劇場ホワイエの会場に23社50人を超える取材陣が集まり、3作品の出演者、スタッフが意気込みを語りました。10周年記念の大規模公演とあって、会見に臨んだのは3作品の作家、演出家、そして主な出演者が並び、総勢13名。新シーズンにふさわしく新国立劇場初登場となる出演者も多く、緊張も感じられた会見の後には、出演者を囲んだ懇談も行われ、なごやかなムードで言葉を交わす姿があちこちで見られました。
会見での、みなさんのコメントをご紹介します。


鵜山仁次期芸術監督:
これから3年間、いろんな形でアバンチュールを仕掛けていきたいと思っています。世の中非常に効率ばやりで、効率がいいことを最大の価値とする風潮がありますけど、ライブの芝居というのは、むしろ効率的でない部分、余剰な部分、プラスアルファの部分、無駄な部分、それをいかにエンジョイできるかということが勝負になる。道草を食う楽しさ、道草をいかに楽しむか、そのもっとも代表的な例というのが、ライブのアートの魅力なのではないかと。そういう志で、3年に渡っていろんな道草を楽しんでいきたいと思っています。
ギリシャ悲劇の伝統というのは、今からおよそ2500年前から、ディオニソス演劇祭としてアテネを中心にして始まりました。“カタルシス”という言葉は“浄化”とも訳されますが、“排泄”という意味もあります。ギリシャ悲劇は、非常に残酷で呵責のない世界を描いているけれども、おそらく2500年前のアテネの人々の心の中にあった様々な部分を晴らす機能があって、市民の“下剤”として健康増進に役立っていたのではないかと思えるわけです。願わくば、21世紀の日本の刺激的な“お薬”として、心身の健康増進に役立てたいという志であります。
新作3本並べ打ちですが、リスクとサスペンス込みで、一緒の船に乗って、こうやってアドベンチャーに旅立とうという仲間ともどもごあいさつということで、みなさんの前に立っております。楽しみにしていただいて、ぜひいろんな方に観ていただきたいと思います。

「アルゴス坂の白い家」
左より鵜山仁、佐久間良子、川村毅、小島聖、磯部勉

 

川村毅さん(「アルゴス坂の白い家」作):
ギリシャ悲劇を現代化するということは、ギリシャ悲劇を解いて、その答えが日本だということだと思っています。これはいずれやらなきゃいけないことだ、いつやろうかと思っていたところ、鵜山さんから絶好の場をいただいて、非常にうれしく思っています。ギリシャ悲劇という方程式の解き方を、今までになかったような解き方をして、日本という答えをだすという風に考えています。今までにないギリシャ悲劇の現代化および日本化。この国に住んでいる人たちがリアリティーを感じるようなギリシャ悲劇で、おもしろいものにします。よろしくお願いします。

佐久間良子さん:
これまで数々の舞台を踏ませていただきましたが、こちらの新国立劇場は初めてでございます。そして新しく芸術監督に就任なさる鵜山さんとご一緒させていただくことになったことは、大変光栄に思っています。
今の日本の社会、日常生活の中において、複雑な家庭の問題、母が子を殺し、子が母を殺す、いろんな問題が起こっております。現代社会でもそういうものが起こっていますし、古代ギリシャにおいてはもっともっとすごい、近親相姦とか復讐とか、戦争による悲劇なんていうものが起こっています。「アルゴス坂の白い家」は、古代ギリシャと日本の家庭、二重構造になるのではないのかと思いますが、私がやらせていただくことになるクリュテムネストラという女性は、大変、“情念”の強い女だと思っています。そういう女を、鵜山さんがどう調理してくださるか、私にとっても私自身にとっても新しい挑戦の仕事だと思っています。

小島聖さん:
鵜山さんに久しぶりに声をかけていただいて、その場所がこんな光栄な席ということで、とても楽しみにしております。これから時間をかけて、頭を使って身体をつかって理解をして、私なりに楽しんでいきたいと思っています。

磯部勉さん:
僕らの作品は配役が書いてなくて、どういう形になっていくかわからないんですが、今、鵜山さんがおっしゃったように、いい冒険ができればなあという期待感で、今のところはいっぱいでございます。

「たとえば野に咲く花のように」
左より永島敏行、七瀬なつみ、鐘下辰男、田畑智子

「異人の唄」
左より土居裕子、鐘下辰男、木場勝己、純名りさ

 

鈴木裕美さん(「たとえば野に咲く花のように」演出):
ウォルポールという人の言葉に、「この世は、考えるものにとっては喜劇であって、感じるものにとっては悲劇である」という言葉があって、そのとおりだなあと思うんです。“恋”などしていると、本人にとっては“感じる”ものなので、非常に悲劇的に世の中をとらえがちですが、恋をして、ふだんはやらないようなことをやらかしたり、言わないようなことを言ってしまっているさまを傍目から見ると、それは喜劇である。「アンドロマケ」は恋の話だと私は思っているので、本人たちにとっては悲劇だが、傍から見ると喜劇である、というふうに考えています。そういう風に一緒に読んでくれそうだなと思って、以前からファンだった鄭義信さんに本をお願いして、だよね、だよね、と言いながら、これやっぱりこの人たち愉快だよねと言いながら本を進めています。俳優さんたちも、そのへんのところをよく理解してくれて、そして、演技や俳優であるということに対して誠実だと思う方たちにお集まりいただけたので、とても楽しみに稽古ができるなと思っています。

七瀬なつみさん:
私事ですが、昨年の10月に男の子を出産して母親になりまして、劇的な日常生活の変化のまっただなかでございます。そんな中で、またこうして舞台に立てることに非常に喜びを感じています。こちらの10周年の作品に出られることも非常にうれしく思います。ギリシャ悲劇、ドロドロとした恋愛の物語ですが、“大爆笑の大悲劇”という、とても気になる言葉が書いてありまして、そういうこっけいな、恋をする人たちを面白おかしく、切なく、心に響くように演じたいと思います。

田畑智子さん:
男女の恋をテーマにした題材は初めてです。すごくドロドロとした男女の関係だと思うんですけれども、人が恋して落ちるところまで落ちるとどういうふうになるのか、すごく興味があるので、それを愉快に演じたいと思います。また鈴木裕美さんとご一緒できて、すごくうれしいので、一生懸命がんばりたいと思います。

永島敏行さん:
あらすじを読みましたら、ちょうど、僕の父と母が、戦後の混乱期の中で青春を送ってきた時代でした。その時代を僕自身が演じることができるというので、とても楽しみです。母も父も水商売でした。母は遊郭の地に育って、いろんな人間模様を見てきたのを僕にもいろいろ話してくれたんですけども、今思えば、もっともっとその時代の男と女の話を聞いておけばよかったなと後悔しています。その意味では、一番熱い時代を生きた男と女を、楽しく演じられればなと思います。


鐘下辰男さん(「異人の唄」演出):
この新国立劇場とは、オープニングの当初からちょこちょこと関わらせていただいて、それが10周年になったというときに、またこういう風にお呼びいただいて、感謝をしております。
私自身、近頃の日本の現代演劇界、演劇から、どんどん非日常的というか祝祭性というのが失われているんじゃないかと危惧しているところがありまして、なにかここで、うまくギリシャ悲劇という素材を借りて、非日常性を現出できればと思っています。アンティゴネといえばオイディプスの娘で、そういう世界を現出していくにはどういう作家がいいだろうとずっと悩んでいました。土田世紀さんという漫画家の方、僕自身前からファンだったんですけれども、この人しかいないだろうと思いまして、土田さんに本を頼んで、書いていただけることになりました。今、土田さんから第一稿が上がっておりまして、今からこれを直していこうというところです。

土居裕子さん:
私もこの劇場が産声を上げてすぐに、「ブッダ」という作品に出演させていただきました。10年目にまたこちらで、しかもギリシャ悲劇という題材でこんなに大きなプロジェクトに参加させていただくことに、非常に光栄な思いを感じております。ギリシャ悲劇のもつ、人間ひとりひとりの悲劇、個人の悲劇というか、人間のもっている根本的な悲劇というのを、少しでも表現できたらいいなと思っています。

純名りささん:
私も新国立劇場に出させていただくのは初めてで、それも10周年という素晴らしい機会に出させていただくことになって、とてもありがたく思っています。芸術監督の鵜山さん、そして演出の鐘下さんとも初めてなんですけれども、お二方ともお話しするとどこかユーモアを感じる方なので、お稽古場が楽しみです。すばらしい出演者の方々、そして、何を隠そう私は土居裕子さんの大ファンで、もうこんなうれしい機会をいただけてとてもうれしいです。

木場勝己さん:
私はシェイクスピアの作品もチェーホフも何本かやりました。ギリシャ悲劇は、これが初めてです。私は不勉強な俳優で、出た作品しか読んでいません。ギリシャ悲劇が初めてだということは、読んでないわけです。よくわかりません。ただ俳優は、不遜な言い方ですけれど作家の書いたものをただしゃべるだけなので、責任もとることはないだろうと思ってるわけですけども、舞台の上で稽古が進んでいくと、何かあるものとしか言いようのないものを見てるときがあるんです。そのときに舞台の上で起こっていること、あるいはその先のこと、あるいは全然関係ないことを考えたりする時間がふっと現れたりすることがあって、そういうとき俳優はわりかしいい気持ちなんですね。そのときに俳優の目を通して、あるいはその身体を通してお客さんがその先を見てくれると、おもしろいなあ、うれしいなと思うことがよくあります。舞台で繰り広げられている物語とか語られている言葉の向こう側まで行っていただけたり、こちらも行けたらいいなと思います。


「アルゴス坂の白い家」は9月20日、「たとえば野に咲く花のように」は10月17日、「異人の唄」は11月14日の初日に向け、制作が進行中です。人間存在の本質と、それを語り伝える“ドラマ”の根幹に分け入っていく連続上演に、どうぞご期待ください。
「アルゴス坂の白い家」のチケット及び3作品特別割引通し券は、7月21日(土)10:00より発売いたします。