<海外公演評抜粋1> ――2002年4月ジュネーヴ, バティマン・デ・フォルス・モトリス 執筆・ブレンダン・マッカーシー ナチョ・ドゥアトのスペイン国立ダンス・カンパニー(CND)は、ステップス国際ダンスフェスティバルに出演し、そこでスイス公演を完了した。(中略)ドゥアトの作品には独特の音楽性がある。ダンサーには、そのスタイルを習得する時間が必要だ。(中略)「ポル・ヴォス・ムエロ」は、その振付やデザインが16〜17世紀の世俗的および神聖なスペイン音楽と相俟って現代的な光沢をもたらす、「タイム・トラベル」のようなバレエである。音楽には、詩人ガルシラソ・デ・ラ・ベガによるソネット「ポル・ヴォス・ムエロ」のうち、白眉といえる詩の一篇の朗読が挿入される。振付は現代的ではあるが、スペインの民俗舞踊や同時代の絵画や彫刻からとったジェスチャーをも引用している。このバレエでは照明はほの暗い。これには、たいへん熟慮されたドゥアトの美学が発揮されている。ドゥアトの形象は、未修復の油絵のように影がかかっており、修道院の影から抜け出てきたかのごとく、またたく間に息づき始める。 これで筆者が「ポル・ヴォス・ムエロ」を観たのは3回目。(中略)CNDのダンサーはまさしくカソリックの聖体降福式にも似た印象を与えた。最後の場面は、深く感動的だった。時代的衣裳の女性が影に戻っていく前に現代の形象とちょっとの間踊り、彼女自身の時代から来たパートナーが抱擁するうちに、照明が暗くなって緞帳がおりていく。観客は拍手喝采して熱狂した。(中略)多くの人はドゥアトにキリアンの痕跡をみるが、しかし、ドゥアトには彼自身の独特の言語があり、彼はとくにステップに気を使っている。この気遣いは、ドゥアト自身のダンサーがドゥアトの作品を上演するとき、最も明白に述べられる。(中略)CNDのドゥアトの前任者はマヤ・プリセツカヤであり、彼女はそれがもともと備わっていないところから芸術的モデル、それはスペインには合わなかったのだが、を課すことを試み続けて批評家たちから非難されたのだ。ドゥアトはカンパニーのために、強い現代的なスペインのアイデンティティを創造すると決断し、事実そのようにした。(後略) |