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2010年 11月 24日

第3回  演出家、新たな敵を殴り倒す!

 水曜ワイルダー約1000字劇場、広報担当の水谷です。先週の続きで・・・ええっと、『わが町』で、ワイルダーはお客さんの一部だけでなく、思わぬ人たちを敵に回してしまいました。誰だと思います? 舞台の大道具などを動かす裏方さんたちなんですね。

 『わが町』が装置を使わないことは前回お話しました。お芝居は、何もない舞台の上に舞台監督(これは本当の舞台監督ではなくて、「舞台監督」という役名です)が何気なく出てきて、後にギブズ家やウェッブ家で使うテーブルや椅子をそれぞれの場所にセットすることから始まります。これが問題になりました。

 アメリカには舞台の裏側で様々な舞台機構の操作をしたり、舞台上の道具を動かすいわゆる裏方さん(stagehands)の組合があり、雇用の場がちゃんと確保されるように公演ごとに舞台係を何人使うか、プロデューサーとか劇場側と交渉して契約しますが、『わが町』の場合、その時点で考えちゃいますよね。幕は開いたままだし、照明もほとんど変らず、道具もすべてではありませんが、役者が動かしますから。

 初演のときのプロデューサー、演出家だったジェド・ハリスは、舞台係を雇わないと組合から抗議が来そうだったので、4人雇っていました、うち2人は特にやることがないにもかかわらず。さらに劇場付きの舞台係も4人いて、彼らもやることがない。ところが、初日の開幕数時間前に舞台係の組合から「オタクの今日の芝居、俳優が道具を動かしてるらしいね? あと2人、雇いなさいよ。でないと、劇場の明かり、つけさせませんよ。真っ暗な劇場に客を入れるのは消防法違反ですから」と、脅迫めいた電話がかかってきた。

 ハリスも負けじと一生懸命「この芝居は普通の芝居じゃないんだ」と説明したんですが、開演1時間ほど前に彼が舞台ソデを通ると、新顔の舞台係が、舞台監督役フランク・クレイヴンが運ぶはずの椅子を持って早くもスタンバイしているではありませんか。ハリスが問いただすと、椅子を舞台に運ぶように組合から指示されて来たと言うので、ハリスは噛んで含めるように「いいか、その椅子をおとなしく置いて、地下に行け。そして役者の邪魔にならないように隅っこにすわってろ。仕事をするな! そうすれば賃金は払ってやる」と言ったのですが、この男がなかなか聞き入れず、最後は(噂によると)ハリスがこの男を殴り倒して、すったもんだのあげく、なんとか台本通りに初日の幕を開けたんですね、あ、幕は最初から開いてるんでした。

Jed Harris (Billy Rose Theatre Collection )©New York Public Library

「全裸」舞台といい、道具を動かすところを見せたりと、ワイルダーは一体何を考えていたんでしょう。あら、もう1000字を越えてました。続きは来週。

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