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イベントレポート:「ブラジルでの三島由紀夫」 ブラジル大使館✕新国立劇場『白蟻の巣』

駐日ブラジル大使
アンドレ・アラーニャ・
コヘーア・ド・ラーゴ氏

去る1月27日(金)、南青山にある駐日ブラジル大使館で、『白蟻の巣』の上演記念として、「ブラジルでの三島由紀夫」と題した講演会とレセプションが開かれました。

プレゼンターとして三島由紀夫文学館館長の松本徹氏、サンパウロ大学教授の二宮正人氏、そして演劇芸術監督の宮田慶子が登壇し、アトレ会員の皆さまや関係の方々とともに、華やかな一夜を過ごしました。



三島由紀夫は1950年代に、朝日新聞の特派員として世界を旅しており、1952年の1月に1週間ほどブラジルに滞在しました。旅行の様子は『アポロの杯』という随筆に詳しく描かれていますが、その経験に影響を受けて三島が書き下ろした戯曲が、3月に上演する『白蟻の巣』でした。『白蟻の巣』では、舞台でもある日系人が経営するコーヒー農園の生活や、カーニバルの様子などが生き生きと表現されています。

サンパウロ大学教授
二宮正人氏
移民の歴史や当時の風俗に明るく、実際にブラジルに居住されている二宮教授は語ります。
「当時はテープレコーダーなんて持って歩けませんでしたから、メモをたくさん取られていたのだと思います。たった一週間の滞在だったのに非常に詳しく描写されていて、当時のリンスあたりの農園の日本人社会が、とてもよく描かれています。」

また、宮田が「この話は、"許し"の渦にみんなが巻き込まれていく物語」と解説すると、「ブラジルはカトリックの社会。何でも許すという風潮がある。カトリックでは、罪を犯しても悔い改めればそれでいいのです。」と二宮教授。作品の本質に根付くブラジルの価値観を説明してくださいました。

三島由紀夫文学館館長
松本徹氏
松本氏は、三島が当時のブラジルから受けた印象について解説。「三島は、リオに到着する時、午前1時に飛行機からの夜景を見て、『この夜景に墜落してもいい。自分は何故こうまでリオに憧れるのか。わからない。地球の裏側から絶えず私を牽引していた何物かがあるのだ』と語っています。リオという土地に対して、非常に激しい憧れを持っていたのです。」

これを聞いて、宮田からもブラジル訪問について言葉が加えられます。
「紀行文の『アポロの杯』。この中のブラジルのところを今回読み直したのですが、本当に素晴らしいです。全体の中でも南米の記述の部分は、特に生き生きとしている。三島は病弱な幼少時代を過ごしましたが、微熱を帯びながら暑い暑い夏の日に、一人でいろんな思索に耽っていた感覚を、ブラジルのむっとした熱さと湿気を感じて思い出したと言っています。ブラジルを訪れたことで、自分の原点やエネルギーを、思い起こすことができた、と。そうして書かれたのがこの『白蟻の巣』なわけです。」

新国立劇場演劇芸術監督
宮田慶子
また、戯曲が書かれた当時のことについても、宮田慶子ならではの接点が浮かび上がります。
「劇団青年座(※宮田は劇団青年座所属)は昭和29年に設立された劇団で、実はこの『白蟻の巣』は、昭和30年に青年座に書き下ろしていただいた戯曲です。山岡久乃、初井言榮、森塚敏といった創立メンバーが初演を演じています。勿論私は生まれる前で初演は見ていないんですが、とても思い入れの深い戯曲なんです。」

今から60年以上前に書かれた『白蟻の巣』。今回は、「かさなる視点-日本戯曲の力-」と題した3本立てのシリーズの第一弾として上演されます。この企画は、昭和30年代の日本の近代演劇の基礎を作ったともいえる戯曲に、30代の3人の演出家たちが取り組むというもの。若手の演出家たちが、戦後や高度経済成長といった今の日本の礎を作った時代をどう料理するか、という狙いだと宮田は語ります。

最後に松本氏が、宮田の企画意図を受け、「三島作品の現代化が我々の大きな課題です。」と、本公演に関する期待を語り、1時間を超える講義が締めくくられました。

講義終了後は、プレゼンターや大使、参加者が一体となって、ブラジルのワインや軽食を味わいながら、交流を深めました。


1950-60年代のリオデジャネイロの写真
なお、駐日ブラジル大使のアンドレ・アラーニャ・コヘーア・ド・ラーゴ氏からは、今回の上演期間中、新国立劇場小劇場のロビーで、1950-60年代のリオデジャネイロの風俗についての写真展が開催されることが発表されました。


実際に三島が見たカーニバルの様子や、当時のホテルやビーチの風景など、貴重な資料が新国立劇場のロビーに飾られます。

ぜひ公演期間中に劇場にお運びください。


講演会の様子(動画)はこちらからご覧ください。

『白蟻の巣』公演情報

公演日:2017年3月2日(木)~19日(日)

会場:新国立劇場 小劇場

料金:A席 6,480円 B席 3,240円

出演:安蘭けい 平田 満 村川絵梨 石田佳央 熊坂理恵子 半海一晃

詳細はこちらから