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『ピーター&ザ・スターキャッチャー』出演・入野自由、インタビュー

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ピーター・パンは、なぜ、子どもの心を失わず、ネバーランドに暮らし続けているのか─。ディズニー映画でも有名な「ピーター・パン」の前日譚にあたる小説を音楽劇に仕立てたブロードウェイのヒット作が、この年末、新国立劇場に登場する。主演のピーター役を担うのは、入野自由。英国滞在経験を経て、自らも大人と子どもが集う演劇空間づくりに関心を持つ彼が、この舞台を通じて描く希望、夢を語る。

インタビュアー:鈴木理映子 (演劇ライター)




ピーターがなぜ
あの「ピーター・パン」になったのか



─この作品は、孤児の少年が、あの「ピーター・パン」になるまでを描いた冒険活劇です。台本を読み、どんな印象を持たれましたか。これまで入野さんが持っていた「ピーター・パン」像と異なるところはあったでしょうか。

入野 ワクワクしながら読み始めたんですけど、一人が何役か演じる設定になっていますし、なにより「絵としてこう見せたい」というところが強い台本なので、文字で読むだけではうまくつかめないところもあり、最初は混乱もしました。その後、ブロードウェイで上演されたときの映像をみてイメージを掴み、さらに原作の小説を読んで、場面ごとの状況や登場人物たちの気持ちといったディテールに触れて、なんとなく形が見えてきました。

 そもそも僕、「ピーター・パン」に前日譚があるということも知らなかったんです。ディズニー映画のイメージが強かったので、原作を読んだときにも、最初はなかなか入り込めずにいました。でも、だんだんと自分がよく知っている物語につながっていくのが面白くなってきて、気がつけばあっという間に読み終わっていました。ピーターがなぜ、あの「ピーター・パン」になったのか、すごく納得もできました。ピーターは、好奇心旺盛で、前のめりで、ちょっと背伸びしてる感じとか、本当にかわいい、チャーミングなキャラクターだと思います。こういう気持ちをずっと持っていたいなと感じさせられますね。


─劇中では、ピーターをはじめとする子どもたちが大活躍しますが、演じるのは皆「大人」の俳優です。

入野 そこは正直「え?」とも思いましたが(笑)、でも、年齢の制約も飛び越えてしまえるのが演劇の面白さですよね。等身大の子どもたちが演じるのはある意味「普通」。それをしないでどう成立させるか。大人が演じるからこそ、滑稽さが際立ったり、怖いシーンはより怖く見せられる面もあると思います。そういった起伏は端から端まで表現していきたいし、そういう舞台になるはずです。


─海、山、ジャングルを股にかけた冒険を、ごくシンプルな舞台空間で見せていくお芝居になりそうです。

入野 自分たちの手でなにかを見せていく芝居が好きなので、さっき美術プランを見せていただき、より楽しみになりました。もちろん、そのぶんやることは多くなると思います。ある物を別の何かに見立てたり、時には場面転換を手伝ったり......一度舞台に出たら幕がおりるまで楽屋には帰れないでしょうね。ただ、そう考えると、あらためて「演劇、面白いよ」っていう要素がたくさん詰まった作品なんだなと思います。


─大人だけでなく子どもが客席にいるという状況について、不安や期待を抱くことはありますか。

入野 前にイギリスに半年滞在していたとき、すごく好きな劇場を見つけたんです。リトルエンジェルシアターという、親子向けの作品をやっている劇場です。劇場自体もこじんまりしていてかわいらしいんですけど、子どもたちがすごく楽しそうなんですよね。作品はどれもしっかり内容のあるもので、子どもたちの反応が正直で、それも楽しみのひとつでした。真剣に観ているシーンもあれば、時には飽きちゃったり、泣いちゃう子もいるんですけど、そういうことも含めて、すごくいい空間だなと思っていました。だから、今、こうして大人と子どもに向けた、この作品に関われることはすごく嬉しいんです。それこそ「ピーター・パン」のようによく知っているお話でも、表現の仕方はいろいろあります。あの劇場では「赤ずきん」を観たことがあるんですけど、主人公の女の子が夜眠れなくて起き出して、部屋にある人形を見つけるところからお話が始まるんです。家の中にある物や家具をつかって、キャラクターが生まれ、森もつくられていくのに、すごくワクワクして、楽しかった。そういう感覚、可能性はきっと、今回の作品からも生まれるはずです。


みんなで集まって何かをつくることが
シンプルに楽しい



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─演出のノゾエ征爾さんとは初めての顔合わせです。以前のインタビュー(ジ・アトレ2020年9月号)でノゾエさんは、できる限り物事を決めきらず、稽古の時間を大事にして進めたいとおっしゃっていました。

入野 「これがダメだったら、これ......」って、いろんなアイデアを出し、チャレンジできる自分をつくっていきたいです。自分では「ないな」って思うことも「いいね」ってなったりすることもよくありますし。僕、以前は、そこまで飛び込んでいけなかったんです。自分が「これだ」と決めたところに、直線ルートでしか行けない、みたいな。でも、ここ数年でいろんな作品に携わることができ、たくさんの役者さんや演出家の方と出会い、失敗もして、いろいろな道をみつけられるようになってきました。今回もそうありたいです。


─ミュージカル、お笑い、小劇場、そして蜷川幸雄さんのもとで活躍されたベテランの方々まで。とても個性的な顔ぶれのカンパニーですよね。

入野 ファンタジックなストーリーなので、かわいらしい顔ぶれになるかなと思いきや、骨太(笑)。このバランスがチャーミングに見える瞬間は絶対にあるはずです。それぞれの個性をどう出しながら、チームとしてひとつになるかが重要です。


─それだけに、稽古場でのコミュニケーション、試行錯誤が大切になりますね。

入野 そうですね。決まった期間とはいえ、毎日会って、信頼感をつくっていくのも重要だと思いますし......やっぱり、みんなで集まって何かをつくるって、シンプルに楽しいです。僕自身、「舞台の何が楽しいんだろう」「何が好きなんだろう」って自問自答しても、はっきり答えは出せなくて。それを知るために続けているところもあるんですけど、とにかく稽古場の雰囲気や、本番の舞台に立っているときの感覚が好きだっていう、それだけは確かなことなんです。


─本番は十二月。お客さまにも、このお芝居で楽しく、温かく、一年を締めくくっていただけるといいですね。

入野 楽しみです。イギリスでは、演劇やミュージカルの水準の高さと敷居の低さに驚きました。子どもも大人も関係なく、いろんな人が劇場に行き、時にはワークショップに参加したりもする。この作品も、そういう身近な存在のひとつになれたらいいなと思うし、だからこそ、普段劇場に通う人にはもちろん、そうでない人にもぜひ足を運んでいただきたいと思います。それこそ、子どもが泣いちゃったり、いつもとは違う雰囲気の劇場になっても面白いんじゃないかな。「ちゃんと座ってなくちゃ」じゃなくて、「わぁ、びっくりした!」とか素直な反応を引き出せたら。そのパワーこそが演劇の醍醐味で、僕らもまたエネルギーを引き出される。それが「一緒につくる」ってことなんだと思います。



新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 11月号掲載


<入野自由 いりの・みゆ>

1988年生まれ、東京都出身。2001年『千と千尋の神隠し』において「ハク」役に抜擢される。以後は順調に声優としての知名度と人気を獲得。また声優だけでなく、舞台活動や映画やドラマにも出演、歌手としてライブを行うなど、精力的に活動中。代表的な舞台出演作として『屋根の上のヴァイオリン弾き』『宝塚BOYS』『今度は愛妻家』『タイタニック』『グッドバイ』『Gang Showman』がある。声優としての主な出演作は『機動戦士ガンダム00』シリーズ 沙慈・クロスロード役、『深夜!天才バカボン』バカボン役、『おそ松さん』松野トド松役、『言の葉の庭』タカオ役、『聲の形』石田将也役、『さよならの朝に約束の花をかざろう』エリアル役などがある。



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『ピーター&ザ・スターキャッチャー』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2020年12月10日(木)~27日(日)

(プレビュー公演:2020年12月5日(土)・6日(日)


作:リック・エリス原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン音楽:ウェイン・バーカー翻訳:小宮山智津子演出:ノゾエ征爾出演:入野自由 豊原江理佳 宮崎吐夢 櫻井章喜 ほか

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