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『ピーター&ザ・スターキャッチャー』演出・ノゾエ征爾、インタビュー

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"ピーター・パンはなぜ、大人にならないのか。ディズニー映画でも知られる「ピーター・パン」の前日譚にあたる小説を舞台化し、2012年にブロードウェイで初演、トニー賞も受賞したヒット作が、新国立劇場で日本初演される。演出はノゾエ征爾。親子向けの舞台や高齢者が出演する舞台、多彩な出演者が集う野外劇など、多様な創造の場を体験してきた彼の柔軟で真摯なクリエイティビティが、大人と子どものためのかけがえのない時間を立ち上げる。

インタビュアー:鈴木理映子 (演劇ライター)

すべてのことがらを
身体で表現
俳優と演出家が試される作品


─本作は、「ピーター・パン」の前日譚として書かれた冒険小説を音楽劇にしたものです。ノゾエさんはブロードウェイ版をご覧になったことはないそうですが、台本を通してどんな印象を抱かれましたか。

ノゾエ 最初は、いったい何が起きているのか、さっぱりわからなくて。台本自体がすでに演劇的で、視覚的な効果を前提に書かれているので、読み物としてはなかなかわかりづらいんですよね。でも、舞台を想像し、補完しながら読んでいくと、だんだん世界観が理解でき、逆にするすると入ってくるような感じも受けました。もしかすると、最初に「わからない」と感じることも大事だったのかもしれないですね。何かバラバラに存在していたものが集約されてひとつの美しい形になっていくのを体験するような快感があり、それがまた、自分が知っていた「ピーター・パン」の物語につながっていく面白さも感じました。

─ 大規模なセットもない、シンプルな舞台で、十二人の俳優たちが、海、山、ジャングルなどを股にかけた大冒険を演じます。

ノゾエ すべてのことがらを俳優の身体で表現していくわけですから、これはもう本当に俳優と演出家が試される作品です。ストーリーや台詞だけでなく、目と耳で補完していく部分も大きいので、稽古の時間をできるだけ大事に過ごしたいですね。本読みを長くやるよりは、なるべく音を出し、身体を動かしてつくっていかないといけないなと思っているところです。

─声優としても活躍されている入野自由さん、ミュージカルの出演経験も豊富な豊原江理佳さんを筆頭に、お笑いや小劇場、さらには蜷川幸雄さんのもとで活躍されたベテラン俳優の方々と、かなりバラエティ豊かなキャストが集いましたね。

ノゾエ 作品自体がいろんな可能性を秘めていると思うので、あまりひとつの空気感に染まらない方がいいんじゃないかと考えました。いろんな方向へ、いかようにでも飛んでいけるように。それからやっぱり、一緒に模索を楽しんでくれそうな方、「こうだよね」じゃなくて「こういうことも、こういうこともありうるよね」というのを一緒にやっていただける、柔軟な方がいいなと。あとは、笑の要素、愛される、滑稽な部分を滲み出させるような人というのも大事なポイントのひとつになったと思います。

─出演者は男性を中心に、女性は一名のみ。加えて、一人が複数の役を兼ねることや、そのます。こうした決まり事に不自由は感じませんでしたか。

ノゾエ そうですね。制約は多い方だと思います。ただ、もともと演出的には可能性がありすぎる戯曲でもあるので、ある程度制約があった方が考えやすいところもあるし、自由にやれる部分の強度が強まる気もしています。

─親子向けの舞台、それも翻訳物ということで、特に意識して噛み砕いたり、見せ方を考えるようなところはありますか。

ノゾエ 日本人にはわからないかもしれないフレーズ、固有名詞はたくさんあって、それをどうするのか、翻訳の小宮山(智津子)さんもいつも以上に時間をかけて翻訳してくださったそうです。ただ、わからないものでも、子どもってそれなりに咀嚼して食べていくと思うんです。だから言葉に限らず、全部が全部、すぐに味がわからなくてもいいと思ってもいます。そこが大人と子どもが一緒に楽しむ作品をつくるときの難しさでもあり、面白さでもあって。以前やはり親子向けの『気づかいルーシー』(2015年初演/東京芸術劇場)をやったときに気づかされたんですけど、子どもって、狙ったようには絶対いかないし、狙っていないところで反応する。だったら、結局、ベストなのは、こっちが懸命に、信念を持ってつくったものを出すってことなんじゃないかなと。

─「子ども」という観客のありようを「こう」と決めてしまうのも、乱暴なことなのかもしれません。

ノゾエ それこそ舐めちゃいけないというか。大事なのは、頭でこねくり回さず、肌で作品と向き合うことだと思います。僕は、稽古場でも、直感やファーストタッチを大事にしていて。たとえば新しいアイデアを試すときにも、スタッフには先に伝えても、俳優たちには内緒にしてもらうんです。それで、自分から伝えたときの彼らの顔色、態度を見たいんです。俳優たちの反応はお客さんの反応とも通じると思います。

お客様が想像することで
完成する絵をつくりたい



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─登場人物の中でも紅一点の少女、モリーの活躍には、女性の社会進出問題が透けて見えますし、モリーとピーターが旅の途中で出会う海老とアサリの一族は西洋による植民地支配の犠牲者でもあります。明るい冒険譚の中にこうした骨太なテーマが見え隠れするのも、この戯曲の魅力となっています。

ノゾエ 確かに、多様な人々に響く強度のある本です。ブロードウェイでは、あらゆる人が観にくる可能性があるというのも影響しているんだと思います。もちろん僕も、作品をつくるうえでは、どんなお客さんがいらっしゃるのかイメージするんですが、それが、ある限られた層の人にならないように、という思いは常にあります。そのことを忘れないためにも、いろいろな場で、いろいろな人たちと創作することが、僕にとっては大事だなと感じています。

─美術や音楽に関してはどんなイメージを持って準備を進めていますか。

ノゾエ 美術に関しては、縦の動きも楽しめるような構造を考えています。それから、なるべくシンプルに。お客さんが想像することで絵が完成するように、あまりはっきりとした色や形を提示しないように心がけています。音楽の田中馨さんも、「こうだよね」ではなく「こうなのか?」を考えることからつくっている人で、いつも驚かせてくれるので、一緒にやっていて、とても楽しいです。疑い続けるってすごく大事なことで、ときには出演者の方からも「決めてほしい」って言われることもあるんですが、僕はそこで「なぜ?」と思ってしまうんです。「まだやりようがあるかもしれないのに」って。もちろん、準備をしていれば、僕の頭の中でも、どうしたって、できあがってきちゃうものはあります。ただ、なるべくそれを稽古場で更新していきたい。そっちの方が、作品が豊かになりますから。

─日本版の完成形のイメージも、まだノゾエさんご自身にも見えていないということですか。

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ノゾエ そうですね。だからお引き受けするときは怖かったです。自分がやれてるイメージが全然わかなかったので(笑)。でも、そんなときこそ「やっておこう」と思うんです。恐怖心からこそ生まれるエネルギーもあるし、それでこそ初演も盛り上がる気がします。だから、この先もずっと、この怖さからは逃げたくないと思います。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 9月号掲載

<ノゾエ征爾 のぞえ・せいじ>

脚本家・演出家・俳優。劇団「はえぎわ」主宰。1995年青山学院大学在学中に演劇を始める。1999年、劇団「はえぎわ」を始動。以降、全作品の作・演出を手掛ける。2012 年、第23回はえぎわ公演『○○トアル風景』で第56回岸田國士戯曲賞受賞。外部公演をはじめ、映画、ドラマにも、脚本家、演出家、俳優として多数参加。2016年にはさいたまスーパーアリーナで高齢者1600人出演の、1万人のゴールドシアター2016『金色交響曲~わたしのゆめ、きみのゆめ~』の脚本、演出を手掛けた。近年の演出作品に、東京芸術祭2019野外劇『吾輩は猫である』、音楽劇『トムとジェリー~夢よもう一度~』、パルコプロデュース『命売ります』、世界ゴールド祭2018GAC『病は気から』など。新国立劇場では、『ご臨終』を手がけている。舞台『ボクの穴、彼の穴。』(翻案・脚本・演出)が9月17日~23日、東京芸術劇場プレイハウスにて上演予定。



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『ピーター&ザ・スターキャッチャー』

会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2020年12月10日(木)~27日(日)

(プレビュー公演:2020年12月5日(土)・6日(日)


作:リック・エリス原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン音楽:ウェイン・バーカー翻訳:小宮山智津子演出:ノゾエ征爾出演:入野自由 豊原江理佳 宮崎吐夢 櫻井章喜 ほか

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