『願いがかなうぐつぐつカクテル』出演・北村有起哉 インタビュー

少しだけ日常の速度を落としたくなる、夏。新国立劇場の7月の演劇は、『モモ』や『はてしない物語』で知られるドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデによる『願いがかなうぐつぐつカクテル』だ。自作小説をエンデ自らが戯曲化し、本国では毎年のように上演されている人気作を、新国立劇場初登場の小山ゆうなが演出する。超個性的な俳優陣がそろうカンパニーの筆頭は、舞台から映像まで幅広い作品で存在感を発揮する北村有起哉。想像力をフル回転させる作品世界に、稽古前から募るワクワクを存分に語っていただいた。


インタビュアー:尾上そら (演劇ライター)



北村ゆきや

児童文学ながら

とてもシニカル

ラストに驚かされた



―魔法や奇跡などギミック満載の本作。チラシのイラストからしてインパクト抜群で、一観客として見てもワクワクする仕上がりでした。



北村 あのチラシは確かにスゴい僕が演じる枢密魔法顧問官イルヴィッツァーのビジュアルを見て、「これオレ」と思わず口走ったという(笑)。しかも戯曲のキャラクター説明の最後に「どこか信頼できない感じ」と書いてあって、思わず笑ってしまいました。

ただ戯曲に関しては、昨日も読み直してみたんですがゾッとする内容ですよね。環境破壊や疫病の流行、社会構造の破綻など「これもイルヴィッツァーの仕業か」と言いたくなるくらい、今、世界で起こっている現象に重なることが書いてある。童話というか、児童文学として書かれているにも関わらず、作家であるエンデの物言いも遠慮がなくて、とてもシニカル。自然を破壊する企業を名指しでこき下ろすところなど、「ここまで書いていいの」という感じですよね。



―社会や人間に対するシビアな警告が、ファンタジーの要素にくるまれつつも真っ直ぐ心に刺さる作品だと思います。



北村 確かに。しかもドイツでは定番というくらい上演されている作品だそうですが、魔法や変身のシーンはもちろん、キャラクターたちの極端なビジュアル含め、生身でどうやって表現しているんだろうというのが大きな謎で。アニメや特撮映画になっていても良さそうな内容じゃないですか。きっと演出の小山ゆうなさんの中には既に、いろいろなアイデアがあるのだと思いますが、僕自身もすごく楽しみにしているところです。



―仰る通り、映画になっていないのが不思議なくらいです。



北村 この作品に関してはティム・バートンのアニメーション作品に通じる世界観だと思いました。ビジュアルはキュートだけれど、全体を見るとおどろおどろしく、怖いところも多々ある。この「どうやるか・どうなるかわからない」というところが、俳優である自分にとっては作品の魅力の一部。「わからなさ」の中に創り・演じるモチベーションをいくつも探し、後悔のないよう座組一丸となって上演をめざす。小山さんとも初めてご一緒させていただきますし、僕にとっての「未知」の多さが創作のエネルギーになると思います。



―〞子どもと大人がともに楽しむ〞作品である、というのも公演の眼目です。



北村 以前、井上ひさしさんの戯曲『十一ぴきのネコ』(2012年初演、長塚圭史演出)を演じたことがあり、そこで僕は「子どもたちに向けて演じる面白さ」を味わってしまっているんです。内容的にもそこはさすがの井上作品で、単に子ども目線なだけでなく、社会の歪みや弱者を追い詰める無意識化の悪意などが織り込まれ、それを演出の長塚さんが存分に引き出して舞台に乗せていた。野良ネコなのかホームレスの男たちか、大人のお客様は観ているうちにわからなくなっていくような、ね。しかも舞台の再演はこの『十一ぴき〜』しか経験しておらず、そこに連なるような作品に今回また出会えたことに特別な縁を感じているし、非常に嬉しいです。



―なるほど井上戯曲のシニカルなファンタジーは、確かに今作に重なります。楽しみどころと考えどころ、子どもと大人それぞれにあると思いました。



北村 そう、例えば笑える場面もそれぞれにあるはずで、子どもと大人の笑い声がシーンごとに別々に湧き起こるくらいになれば良いですよね。そのためには相当カロリーを使わないといけないだろうな。

さっきも言った魔法などの仕掛けや凝った姿かたちのこしらえ、それに海外の戯曲は本当に言葉数が多いじゃないですか(苦笑)。毎回「なんでこんなに喋るの本当に議論が好きだよて、独り言がなぜこんなに長いのか、というほど延々としゃべり続けてますよねまぁ、精神的にかなり追い詰められた状況なので、無理もないのかもしれませんが。



―悪事を働く偉い魔法使いですら、契約した悪魔にノルマを課されてビクビクしている設定ですから。



北村 一瞬、ハッピーエンドかと思わせておいて、さらにその先があるシビアなラストには本当に驚かされました。大人にとっては、かなり余韻が残るのではないでしょうか。



親子で劇場に行くことが

気軽で当たり前になるための

一歩に


―北村さんご自身も、小さなお子さんがいらっしゃる父親の顔もお持ちです。本の読み聞かせなどされているのですか?



北村 毎晩やってます。読み聞かせは僕の担当なんですよ。ただ、あまり子ども目線の読み方はしていなくて、テイストとしてはドキュメンタリー番組のナレーション(笑)。ちゃんとト書き的な部分も読みます。読んでいるうちに、先に眠くなるのがだいたい僕のほうだというのが困ったところ。もはや条件反射ですね。普通の童話や絵本より、図鑑的な要素があるものが好きで、大豆と豆腐と納豆が「僕らは兄弟だ」とかいう食育の本がウチの子のお気に入り。僕にとっては穏やかで、とても好きなひと時ですし、今回の舞台を見せることも楽しみにしています。



―『十一ぴき〜』もご覧になっているのですか?



小北村 当時まだ二歳で、ゲネプロに入れてもらったんです。客席を使った芝居で、僕がサービスのつもりでテンション高く近寄ったら大泣きさせてしまい、慌てて退散しました。



―演出の小山さんは、ある程度芝居づくりが進んだ後には稽古場に子どもたちを招き、反応を見たいと仰っていました。



北村 おお、そうなんですか! 子どもの友達つながりでたくさん呼べますよ、僕。どんな反応か興味ありますね。あ、でも逆に振り回されるかもしれないなぁ。あまり反応が良くなかったら、「自信がなくなるのでもうやめませんか......」となっちゃうかも(笑)。 夏に子どものための企画が増えるのは、エンターテインメントもアートも同様ですが、「劇場に行く」ということは、まだまだ選択肢として知られていないじゃないですか。小さい子どもを育てている僕から見ても、情報自体少ないですし。親子で劇場に行くことが、もっと気軽で当たり前になるための一歩に、この作品がなればいいですね。



―それは、まさに企画の目指すところです。



北村 観て、感じて楽しめるところがたくさんあり、しかも後から考えるべき課題もしっかり書かれている戯曲ですから、演劇的な遊び心を持ちつつ、演技や表現はリアルかつ本気でなければ成立しない。そこは子ども向け、といっても甘えは許されない作品だと思っています。

日本の昔話も良いけれど、外国特有の文化や背景、エンデという作家性の強い人の作品に触れることは子どもにも大人にも知的刺激になるはず。演出の小山さんは長くドイツで暮らしていたそうなので、彼女の経験や知識に、僕がこれまでいろいろな演出家から学び、蓄えてきた僕流のカクテルを試飲してもらったうえで改良を加え、最終的にはお客様にもたっぷり味わっていただきたいと思います。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 5月号掲載



<きたむら ゆきや>

1974年生まれ。東京出身。1998年に舞台『春のめざめ』と映画『カンゾー先生』に出演しデビュー。ジャンルを問わない表現力で幅広く活動し、その独特の存在感で注目を集める。近年の作品は、舞台『風の又三郎』(2019年)、『大人のけんかが終わるまで』(2018年)、『豚小屋』(2017年)、映画『新聞記者』『町田くんの世界』『長いお別れ』、ドラマ『美食探偵 明智五郎』『パレートの誤算』『セミオトコ』『螢草』など。新国立劇場では、『やけたトタン屋根の上の猫』『CLEANSKINS/きれいな肌』(第7回朝日舞台芸術賞寺山修司賞、第15回読売演劇大賞優秀男優賞受賞)『浮標』『かもめ』に出演。



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『願いがかなうぐつぐつカクテル』


会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2020年7月9日(水)~26日(日)


原作・上演台本:ミヒャエル・エンデ

翻訳:高橋文子

演出:小山ゆうな

出演:北村有起哉  松尾 諭 森下能幸 林田航平 あめくみちこ 花王おさむ


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