『願いがかなうぐつぐつカクテル』演出・小山ゆうな インタビュー

年々厳しく︑過ごしにくくなっていく日本の夏に対抗すべく、新国立劇場では〝大人も子どもも一緒に楽しめる〞舞台作品を連続上演する。その第一弾が『願いがかなうぐつぐつカクテル』。ドイツを代表する世界的な児童文学作家ミヒャエル・エンデが、一九八九年に小説として書いたものを自ら戯曲化した作品で、本国では現在まで繰り返し上演されている人気作だ。演出は新国立劇場初登場で、古典から同時代までの海外戯曲を数多く手がけ、評価を得ている小山ゆうな。大晦日の夜、悪魔と契約した魔法使いと魔女、それを監視するネコとカラスの間で繰り広げられる奇妙な攻防戦の行方は......。


インタビュアー:尾上そら (演劇ライター)



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エンデとこどもたちを

ダイレクトにつなぐ方法を

探したい



―今作は魔法使いと魔女、喋る動物、神々などファンタジー要素満載ながら、鋭く現代社会を風刺する視点に貫かれた非常にユニークな内容です。まさに子どもと大人が、それぞれの感性で楽しめる戯曲だと一読して思いました。



小山 エンデの代表作である『モモ』(1962年)や『はてしない物語』(1979年)から、さらに時を経て書かれた作品ですが、エンデの作家として取り上げるテーマが、生涯にわたり大きくは変わっていないということがわかりますよね。エンデの父親はシュールレアリスムの画家で、退廃芸術家としてナチスの迫害を受けており、エンデ自身もナチスに対抗するレジスタンス組織で活動したことがあったり、環境問題にも早くから関心を寄せていた。表現は児童文学や童話の手法ですが、それらエンデの思想や関心がギュッと凝縮した状態で、この作品に織り込まれていると思います。



―自身で戯曲化したということも、興味深いところです。



小山 エンデは第二次大戦後、二十歳前くらいに演劇学校に入学しています。俳優志望で卒業後は舞台に立っていた時期もあるようですが、自分の才能に見切りをつけてやめたというエピソードがあるんです。


だからこの作品も、小説として書いたものの、子どもたちには生の舞台で観てほしいと思ったのかもしれません。私は戯曲の存在は知っていましたが、エンデ自身がそれを手掛けたことは今回初めて知りました。



―エンデの作品は大人になっても愛読する熱烈なファンが多いと聞いたことがありますが、小山さんもそのお一人なのですか?



小山 熱烈というほどではありませんが、映画『ネバーエンディングストーリー』(1984年)が公開された時に、原作である「はてしない物語」が赤と緑、二色の文字で刷られたきれいな表紙で新たに刊行されたことが話題になり、それが、私とエンデ作品の自覚的な出会いでした。宝物になり何度も読みました。



―小山さんはエンデの母国ドイツで暮らしていた時期がありますが、出会いは帰国後なのですね。



小山 個人的な印象ですが、エンデのファンはドイツよりむしろ、日本に熱心な方が多い気がします。もちろんドイツの重要な作家であることは確かで、この『願いがかなうぐつぐつカクテル』も『モモ』などと並び、ドイツで毎年出される上演劇場数・上演回数などの統計では、常に上位十位以内に入る人気作品です。



―なるほど、日本でのエンデ作品の発行部数は世界有数の多さだそうですし、普遍的な作家・作品なのは間違いないでしょう。



小山 実は、この企画のための作品選びで最初にエンデの名を挙げたのは芸術監督の小川絵梨子さんなんです。その時も「児童文学なのに決してわかりやすくはなく、少し怖い感じがして子どもの頃に夢中で読んだ」と仰っていました。それは私にとっても同じで、三十の短編で編まれた「鏡の中の鏡」がエンデの小説の中では一番好きなんですが、子どもの頃、内容も挿絵の意味もさっぱりわからなかったのに、繰り返し何度も読んだ記憶があります(笑)。大人になった今はきっと、意味を探したりわかろうとしてしまうと思うのですが、今回は既成の解釈に縛られず、エンデと子どもたちをダイレクトにつなぐ方法を探さなければ、と思っています。



―魔法はもちろん、ト書きにあるキャラクターのビジュアルもとんでもなく個性的で、舞台にどう立ち上がるのか期待が膨らみます。



小山 そこはもうスタッフ・キャストの皆さんのお力を借りて、ガンバるしかありません!映像であればCGでいかようにもできますが、演劇は観客の目前で、すべてがリアルタイムに起こり続ける。素敵な俳優の方々に集まっていただけましたので、私も一緒に、大いに汗をかくつもりです。



子どもたちと

劇場の出会いの機会を

つくれることがうれしい


―小山さんは、演出家として海外の作品を手掛けることが多いですが、文化や習俗の異なる戯曲を演出する際、心がけていることはありますか?



小山 海外作品は、つくり手の私たちとお客様が一緒に異なる文化や歴史、未知の世界に触れることができる。その豊かさを削ぐことなく、作品を立ち上げたいといつも思っています。ただ、今作のようにドイツならではの大晦日の習慣などは、そのままを表現・提示するだけでは伝えきれないこともあると思うので、日本の観客が理解しやすいものに置き換えるなど、いつも以上に見せ方に工夫がいると思います。  もう一つ、今作の場合は登場人物がみな"虐げられた人"たちだということが、大きい気がしているんです。魔法使いたちは悪魔の契約に縛られ、搾取されているし、動物たちもみすぼらしくくたびれた風情で、どちらも成功とは縁のない、日陰の場に生きざるを得ない存在というか。それは、エンデが戦争中に見ていた、ナチスが人々を迫害する様に重なるのかもしれませんし、そこに光を当てることの普遍性を、創作の初動では大切にしたいと思っています。



―そううかがうとラストの、残酷なまでのリアルさにも納得がいきます。



小山 ドイツの青少年のための演劇作品について、この機会に調べてみたのですが、哲学的かつ教訓めいたものが多く、あまり気軽に楽しめるようなものがなくて。今作は、そこまで教訓重視のものではありませんが、子どもたちにも当たり前のようにテーマ性の強い作品を提示する風土がドイツにはあり、その中でもエンデは重要な作家なのだと思います。



―子どもと大人、両者に向けた創作について、現段階ではどのように考えていますか?



小山 普段から私は創作の際に、「誰に見せたいか」を勝手に想定していることが多いんです。でも今回はその対象が両極端の存在なので、意識としてはやはり、子どもたちへ向けていくのかなぁと思っています。でもそれは「子ども向けに易しく」というようなことではなく、楽しんでもらうための演劇的な創意工夫をいつも以上に柔軟な思考で、存分に尽くすことではないか、と思っています。



―小山さん自身も初めて演劇を観る子どもたちの、自由な観方や反応に出会えそうですね。



小山 はい、劇場と子どもたちとの出会いの機会をつくれることが、個人的にとてもうれしいんです。なんなら稽古の段階から、小さなお客様を迎えて反応をうかがうような稽古をしてみたいくらい。彼らの正直な反応以上に、参考になるものはないはずですから。  私自身ドイツに住んでいた頃、近くの州立劇場へ行ったり、学校で観劇したりしたことがいまだに鮮やかに記憶に残っていて良い思い出になっています。劇場側としては若い世代を育成する意味合いもあったようですが、この夏出会う子どもたちが、また劇場に来たいと思ってもらえるよう、そしていつかは一人でも劇場に来てくれるような演劇の時間をつくれたらいいですね。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 4月号掲載



<こやま ゆうな>

ドイツ・ハンブルク生まれ。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。劇団NLT演出部を経て現在はフリー。アーティストユニット「雷ストレンジャーズ」主宰。最近の演出作に(以下、雷ストレンジャーズ作品)シュニッツラー『緑のオウム亭ー1幕のグロテスク劇』、イプセン『フォルケフィエンデー人民の敵』、ストリンドベリ『父』等。2017年世田谷パブリックシアター主催公演『チック』にて翻訳・演出を手がけ、2017年小田島雄志・翻訳戯曲賞、2018年読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。



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『願いがかなうぐつぐつカクテル』


会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2020年7月9日(水)~26日(日)


原作・上演台本:ミヒャエル・エンデ

翻訳:高橋文子

演出:小山ゆうな

出演:北村有起哉  松尾 諭 森下能幸 林田航平 あめくみちこ 花王おさむ


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