劇作家スペシャル対談 ~ロイヤルコート劇場✖新国立劇場 劇作家ワークショップ~


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2019年12月に実施された「ロイヤルコート劇場×新国立劇場 劇作家ワークショップ」のワークショップ第2フェーズでは、劇作家の前川知大氏がゲスト講師として招かれた。前川氏は2010年にロイヤルコート劇場がロンドンで行っているインターナショナル・レジデンシーに参加し劇作家ワークショップを経験している。今回、ファシリテーターとして来日中の劇作家、アリスター・マクドーウォル氏との対談が実現した。劇作家ワークショップを経て、その後の劇作にどのような変化があったのか日英の二大劇作家が語り合った。イギリス総選挙があった翌日の12月13日、SF戯曲を通して今の社会を浮かび上がらせる手法から、演劇の魅力まで幅広く話を訊いた。

インタヴュアー:今村麻子



ロイヤルコート劇場でのワークショップ


----前川知大さんは9年前にロイヤルコート劇場で開催されたインターナショナル・レジデンシーに参加されています。世界10カ国から若手劇作家を招き新作を作るというプログラムで、日本人としては初めて参加されました。どのような内容でしたか。


前川 ワークショップが始まる半年前に台本をロンドンに送って現地で英訳してもらい、その英語台本を元にロイヤルコート劇場のスタッフや俳優とともに1カ月間みっちりと台本を仕上げて行ったんです。僕が参加したときは、韓国、インド、トルコ、ウクライナ、チェコ、デンマーク、スペイン、メキシコ、日本の9カ国9人の劇作家が集まりました。ワークショップのほかに、講義を聴講したり現地の同世代の劇作家との交流会もあって盛りだくさんのプログラム。ものすごくいい経験になりました。


----その頃アリスターさんは?


アリスター 10年前の僕はまだ劇作家ではなくて、ギャラリーで働いていました。ポケットに入れた小さなノートに戯曲をメモしながら仕事をしていたんです(笑)。そして1年後、そのときに書いた戯曲で賞を獲ったので、ギャラリーの仕事を辞められた。ロイヤルコートのワークショップに参加して、スタッフや俳優、演出家と一緒に戯曲を膨らませていきました。


前川 ワークショップでは意見交換が活発ですよね。僕のときは演出家、翻訳家、スクリプトアドバイザー、劇作家というチームで台本をブラッシュアップしていきました。その台本を俳優たちにリーディングしてもらって、みんなで聞いてディスカッションをしていく。スタッフが交通整理をするだけで、活発な意見がたくさん出てきます。


----ロイヤルコートのワークショップの経験を経て、その後の前川さんの戯曲の書き方に変化はありましたか。


前川 作品についてみんなでディスカッションをし、フィードバックしていくやり方を僕は日本に帰ってきてから劇団に取り入れました。初稿を上げたら俳優たちと意見交換をするのが当たり前になったんです。


アリスター それは素晴らしい!



ロイヤルコート劇場×新国立劇場 劇作家ワークショップ第二段階の手応え


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----アリスターさんが日本でのロイヤルコートのワークショップのファシリテーターとして、参加することになった経緯は?


アリスター ロイヤルコートには様々な種類のワークショップがあって、しかも世界中でやっています。日本でワークショップを開催することになったら、ぜひ参加したいと希望を出していて、今回念願叶っての来日です。日本文学も大好きだし、日本の演劇文化にも興味があります。


----日本が好きになったきっかけの映画や本は?


アリスター 子どものときに映画『ゴジラ』に夢中になり、10代のときにアニメ『AKIRA』と『エヴァンゲリオン』を観たら面白くて! 小説は三島由紀夫と村上春樹も好き。小川洋子の小説はとても美しいと思う。映画は小津安二郎作品と黒澤明作品はすべて観ていますよ。新藤兼人監督の映画『鬼婆』も面白いですよね!


----今回、日本でのワークショップは他国と比較して特徴的なところはどこにありますか。


アリスター 日本の劇作家たちは、ヨーロッパや他の地域の参加者と交わしている会話の内容が全然違うんですよ。日本の劇作家は猜疑心がなくオープン・マインドで好奇心がある。その姿勢がいいですよね。5月のワークショップが終わって、参加者の全員が心を込めて戯曲を書いてくれたこと、それぞれが面白いことを考えていることに関心しました。また、「ディスカッションをする」というプロセスこそが、とても特別なことだと改めて感じました。


前川 確かに。ワークショップをみっちりすることで、今回の参加者同士の連帯感も生まれていると思うと、羨ましくもありますね。


----前川さんがロンドンで体験された9カ国の劇作家とのワークショップでも劇作家同士の繋がりは生まれましたか。


前川 共通言語の英語でコミュニケーションをとって1カ月間ほぼ毎日一緒にいるので、連帯感が生まれましたね。お互い国も文化も違うのに、劇作家という共通項でこれだけ繋がれるという経験がすごく嬉しかった。今でも繋がっている劇作家もいるんですよ。


----5月に行われた第一段階を終えて、アリスターさんご自身のファシリテーターとしての手応えはどこに感じますか。


アリスター 僕自身も日本のワークショップや劇作家から学びたいという気持ちがあって、今回は前川さんの作品も取り上げて勉強にもなったし、プラスになることしかないですね。参加者同士がお互いの戯曲について話し合っている姿は興味深いし僕自身の勉強にもなる。「劇作とは、こうあるべき」と一方的に教えるつもりはぜんぜんない。「これは役に立つよ」といったことは参考程度に伝えるけど。


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前川 劇作家同士が自分の手法を教え合うみたいな場所って、こういう劇作家ワークショップでもやらないかぎり、なかなかない。劇作家同士が集まれば、お互いにとってかなり有益ですよね。日本では、そういう機会はあまりないんですよ。イギリスで劇作家が集まったら、何を話題にすることが多いですか?


アリスター イギリスの劇作家は「演劇で世界は変えられるか」という話題についてよく話します。日本ではどうですか?


前川 話し合うことはあまりないかもしれませんが、問題意識は日本の劇作家も持っているし、具体的に作品にしている人もいます。観る側も「この作品は現政権を批判しているんだろうな」と感じてしまうぐらい今の政治への不満や不安が渦巻いて強くなってきている気がします。日本は作品の中でユーモアとして批判することが、あまり上手ではないという印象もありますね。



日英二大劇作家、SFから現代社会を浮かび上がらせる


----アリスターさんも前川さんもSFを題材にした作品を多数お書きになっています。アリスターさんは『X』、前川さんは『聖地X』という似たタイトルの戯曲があるなど、共通するものも見えてきます。劇作家としての原点はどこにありますか。


アリスター 僕は宇宙や怪獣が大好きだからです。前川さんはなぜ妖怪や宇宙人を作品に登場させるのですか?


前川 僕も子どものときから好きだったんです。


アリスター 一緒ですね。前川さんに親近感を感じます。


前川 妖怪や宇宙人は世の中に「ない」とされているもの、たとえば社会システムからこぼれ落ちてしまう人たちと重なってくる。大人になって社会を見渡すと、例えばそれは犯罪者や障害者などのマイノリティ全般と実は同じものということがわかってきて。僕は社会問題をそのまま書くというよりは、そういうものに託す方が好きなんです。


アリスター 演劇は現実と同じような世界を再現するのではなく、あくまでメタファーだと思うから。たとえば大切な人を失ってしまった人物の話を書くとしたら、宇宙に繋げてみたりね。前川さんの作品を読んで、同じようなプロセスをたどっていると感じました。


前川 とても共感できます。子どもから大人まで自分の居場所がない人はたくさんいて、自分はよそ者でエイリアンではないかという感覚に陥った時期が僕にもありました。


アリスター 僕もよそ者が出てくる戯曲を書きましたよ。子どもの頃に日本の小説や漫画、映画が好きだったのは、それらに登場するメタファーに共感できたからなのかもしれない。


前川 メタファーを出すとき、何がメタファーなのか意識して書くのか、それともファンタジー要素の面白さから作っていくと何らかのメタファーになっているのか、どちらでしょうか。


アリスター 設定やストーリーからメタファーが頭にパッと浮かび上がってきます。


前川 へぇ!


アリスター 『老人と海』の作者ヘミングウェイが「老人は何を指しているのか」という質問をされたとき、こう答えています。「最高の老人を書くことがすべてを代弁してくれる」と。つまり「具体的なもの」に宇宙が内在していることを意味するから、最初にキャラクターありきです。そうすると自ずと「無意識」に何かが浮かび上がってくる。


前川 僕も「無意識」をどう書くかをよく考えるんです。


アリスター ロンドンで劇作を教えるとき、劇作家に「まずはキャラクターとストーリーを熟考する」と伝えます。そこを抑えておけば、周りの世界は引き寄せられてくるように自然と生まれてきます。


前川 具体的にディティールを詰めていけばいくほど、社会という大きいものに引き寄せられてきて、無意識にキャッチしている社会の状況が浮かび上がってくるんですよね。僕はプロットをしっかり書くタイプでしたが、今は膨大な資料をリサーチし、ゆるいプロットで書くようになりました。


アリスター 僕と同じですね(笑)。



対談の様子が動画でご覧になれます。


すべてを描かずに余白を残す


----無意識を浮かび上がらせて、戯曲に昇華していく感覚とは。


アリスター 何かを書こうとしているのではなく、発見しながら書いている感覚です。


前川 そうそう。まったくその通り!


アリスター でもその「発見する」という状態になるのが難しい。僕の場合は散歩したり、音楽を聴いたりしますが、前川さんはどうですか?


前川 僕は走ります。あと、座禅を組んで瞑想をします(笑)。


アリスター 体を動かすと脳が活性しますよね。自然の作用で何か考えが浮かぶから、無理矢理できないから難しい。


前川 そうなんですよ! 走っている最中に「ポーン!」と浮かんだりする。


アリスター わかります! 身体を動かすことって大事。書くと頭に刺激が行くから僕は手書きに変えました。でも字が汚くて戯曲には見えない(笑)。パソコンで打つと体裁は戯曲に見えてしまうから、自分の判断を超えてしまう。手書きでゆっくりとしたペースで書いていくと発展していく余裕が生まれます。ただ、あまりにも手書きは遅筆になるからおすすめできません。


前川 僕もアイデアをまとめるときは手書きです。手を動かすことで、出てくる内容も違ってきますよね。


アリスター 手書きの方が作品に直結する感じがします。パソコンの画面で読むのはあまり好きではないですね。劇作家は平面に収まるのではなく三次元の立体的なものを書いているわけですから。前川さんは演劇以外の小説や映画のメディアを扱ったとき、演劇に還元されることはありますか?


前川 還元します。たとえば映像作品でも、どうやって演劇との溝を埋めるかの作業が、いい演出を生むと思うから。映画を観ていても、小説を読んでいるときも、舞台で上演するにはどうやったらできるかを常に考えちゃいますね。


アリスター わかります。ストーリーが思い浮かんだら、映画と小説のどちらが向いているか考えてしまう。小説として成り立っているのに、あえて舞台化しようとした場合、何が生まれるかとかね。


前川 作品によるけれど、小説は内面が描かれ、演劇は自分が言わない限り内面はわからない。そこはどうしていますか。


アリスター まさにわたしが演劇を好きなところはそこです! 演劇は言わないとわからない曖昧さ、つまり余白を残すところに魅力がある。演劇はストーリー、アクション、雰囲気などを通して、キャラクターが何を考えているのかを観客に想像させます。不確かなものでだからこそ演劇はエキサイティングです。


前川 その通りです(笑)!


アリスター 前川さんとは国籍や育ってきた文化も異なるのに、こんなにも共感できたり共通することがたくさんあって、びっくりしたし楽しかったです。ありがとうございました。


前川 劇作家同士、話し合う機会もなかなかない中、ざっくばらんに劇作について話し合える仲間と出会えるのが劇作家ワークショップです。まさに今、ワークショップに参加している彼らも「仲間」になって互いに劇作を高め合ってもらえるといいですね。今日はありがとうございました。





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