『骨と十字架』 ― 「信じる」を描く、野木萌葱という作家

7月11日に幕を開ける『骨と十字架』(プレビューは7月6日・7日)。

芸術監督の小川絵梨子が「ご一緒できるのは幸せの一言に尽きる」という、新国立劇場初登場となる野木萌葱はどのような作家なのだろうか。

そして、野木のこれまでの作品から新作『骨と十字架』に通底するものとは......。



「信じる」を描く、野木萌葱という作家

第42項『Nf3 Nf6』
PHOTO:WATANABE Ryuta
たとえば戦後、連合国側が日本の戦争指導者を糾弾した東京裁判での弁護士たち。あるいは戦中に存在した731部隊のその後。三億円事件の時効直前の捜査本部。日航機墜落事故の機長と弁護士。歴史上の事件や人物をもとに、ソリッドな会話劇を展開する。それが野木萌葱の書く作品のおおきな特徴。1998年にユニット「パラドックス定数」を旗揚げして以来、一貫して骨太な男たちの芝居を生み出し続けてきた。

題材だけ取り出して並べてみると、どれほど重く陰鬱な物語か、と思ってしまうかもしれない。しかし、野木作品はとにかくスリリングな面白さに満ちあふれている。会話の応酬、その一言ひとことに次の展開につながる意味がある。たった一言が相手の感情を揺さぶり、形勢が逆転し、と思えばまた盛り返し......。スポーツの名試合を観ているかのような緊迫感と爽快感があるのだ。ちなみに競馬を題材にとった『トロンプ・ルイユ』という作品では、実際のレースを見ているような興奮が呼び起こされる。実際の事件は全く関係ない完全創作の作品だが、これもまた面白い。

中学時代、母とケンカして『オペラ座の怪人』を観に行けなかったことが野木が演劇の道に進むきっかけだったという。学校で妄想の入り混じった『オペラ座の怪人』を作・演出。

高校時代も演劇部で活動し、日本大学芸術学部の劇作コースへ進学。そこで一般の観客も招いて作品を発表する課題の際、書いたのが今年春に22年ぶりの再演を果たした『Das Orchester』だった。

第45項『Das Orchester』
PHOTO:WATANABE Ryuta
この作品で取り扱ったのは、(作中で明示こそしていないものの)ナチス政権下でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者であったフルトヴェングラー。優秀な音楽家や女性秘書たちが、ユダヤ人というだけで宣伝省の役人によって排除されそうになる。それに抗うマエストロ。それぞれが、自分の正義を持っている。それがあまりにも違うから、交わらない。それでも、自分の正しいと思う方向へと行くように必死に言葉を交わす――。

19歳の時点ですでに彼女は、「自分の信じるもの」に殉じる人々を描いていた。そしていまもなお、その姿勢はぶれることなく貫かれている。

『骨と十字架』で彼女が選んだのは北京原人を発見したカトリック司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダン。信仰と、その根幹を揺るがす学者としての発見。まさに「信じる」という題材を真正面から扱うことになるこの作品で、男たちの信念がぶつかり合うさまを、一言ひとことの戦いを、ぜひ目撃してほしい。

釣木文恵(ライター)

公演情報




『骨と十字架』
2019年7月11日(木)~28日(日)
新国立劇場 小劇場
作:野木萌葱
演出:小川絵梨子
出演:神農直隆 小林 隆 伊達 暁 佐藤祐基 近藤芳正



<全国公演>
日時:7月31日(水)13:00
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
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