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『消えていくなら朝』主演、鈴木浩介紙面インタビュー

7月12日(木)に開幕する『消えていくなら朝』に主演する鈴木浩介さんの紙面インタビューです。家族をテーマとしたこの作品や演じる役のことや苦心しているところなど語ってくださっています。

(新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ7月号掲載)



芸術監督を8年間務めた宮田慶子がフィナーレとして選んだのが、蓬莱竜太の新作。その主人公として迎えられたのが、蓬莱とは同世代の鈴木浩介だ。テレビドラマでは常に気になる存在感を放つ鈴木だが、舞台ではまるで別の顔を見せてくれる。近年『密やかな結晶』(作・演出:鄭義信)では、物語の鍵となる真摯な役を好演。今回の『消えていくなら朝』では、蓬莱の分身とも言える劇作家の定男を演じる。久しぶりに実家に帰ったものの、家族との間に深い溝を抱え、葛藤し、乗り越えようとする定男を、きめ細やかに演じてくれるだろう。



インタビュアー◎沢 美也子(演劇ライター)



家族というものは
時にぶつかり、時に共感する
そんなことが
全部つまった戯曲

――蓬莱さんの作品はご覧になっていますか?

 モダンスイマーズが、まだ中野ポケットでやっているころに拝見しました。すごく面白くて、同世代の素晴らしい作・演出家の方がいらっしゃるんだなと思ったのを覚えています。僕は、その当時、劇団青年座に所属しながら、同じ劇団の仲間とユニットを組んでお芝居を2本くらいやらせてもらったんですね。最初の作品は『ハイライフ』で、それは宮田慶子さんに演出していただいて、いつか、このユニットで蓬莱さんに書いてもらいたかったのですが、とてつもなくお忙しくされていて、諦めました。今回蓬莱さんが書かれた言葉を役者として、演じられることがとても楽しみでした。今、このタイミングで出会えてよかったと嬉しく思っています。

――そして、宮田さんの演出も久しぶりですね。

 はい。僕、29歳で青年座を退団して、それ以来になりますので14年ぶりです。本当に久しぶりにご一緒させていただけることになって、しかも、芸術監督として最後の作品にこのようにお声をかけていただいて、俳優として責任重大だな、と身が引き締まる想いです。

――蓬莱さんのいまの印象はいかがですか?

 40代に入って、蓬莱さんがどんなことに直面されてるか、僕は想像がつかないのですが、同じ40代の男性として、この先、50歳までの人生のこと、僕だったら役者としての歩み方を考えたり、立ち止まる瞬間もあるだろうし、そして立ち止まった時には、自分がどういうふうに次の一歩を踏み出すのだろうかということを、蓬莱さんも同じようにリアルタイムで感じてるんじゃないかな、と。作品を読んだ時に、共感することがたくさんあったので、もしかしたら、同じようなことを考えているのかもしれない、という印象を受けました。

――戯曲をお読みになった感想は?

 まず、素晴らしい戯曲だと思いました。やっぱり、かなりの覚悟を持っていらっしゃるんだろうなと。自分の実人生や家族をテーマにして、それをさらけ出して書いていく蓬莱さんに、本当に大丈夫なの?って心配になる部分もありますけど(笑)、そのぐらい身を削って書いていらっしゃる、意気込みを感じました。この『消えていくなら朝』は、蓬莱さんのこれから先の作品に繋がる大きな分岐点になりそうな作品だと思うんです。

――家族に向き合わなければと考えたことはありますか?

 もちろんありますよ。でも、ふだん、全部を曝け出して、ぶつかりあいながら生きていくことが、もうできなくなっているわけじゃないですか。僕の家族も離れて暮らしてますから。たまに会うと、触れて来なかったことが一気に放出しちゃって大喧嘩になる(笑)。どの家族でもあると思うんですよね。この作品には、お客様それぞれが、違う形で共感できるところがたくさんあると思います。登場人物の誰に感情移入するかで、それぞれのお客様の立場で共感できる部分や感想も変わってくると思います。視点がたくさんある作品ですよね。

――それぞれ、家族のいろいろな立場で読めますね。

 自分の実人生を歩む時に、誰も間違っているとは思っていないでしょう?ただ、人生の方向が家族それぞれ違うっていうだけ。ベクトルも物差しも違うから、ぶつかり合ったり、すれ違ったり、時には共感する、そういうものが全部つまっている戯曲だと思うので、書かれていることを、ちゃんと肉体を通して、お客さんに観ていただければ、何かしら感じていただける作品だと思います。


自分自身が今まで
経験したことを曝け出して
羽田家の家族たちと
向き合わなけければ

――劇中の家族の言い争いで一番気になる言い争いは?

 仕事のことですね。劇作家の定男に向かって、「それ、本当に仕事なのかよ?」と、兄が言いますけど。俳優の仕事も好きなことの延長線上でしょうとか、毎日、電車通勤して会社に通う、それが仕事でしょ、あなたのは違うでしょって言われると、そうですよねとしか言えません(笑)。好きなことやって、お金もらえていいよねって思われても仕方ないですからね。いやいや、この苦しさは、経験した人にしか分からないんだよと言っても、理解してもらうことは難しい。家族との間に共通言語はないわけですからね。でも理解してもらうことを諦めることは、自分自身の仕事を否定しちゃうことになるのかなと。複雑ですけど。

――定男は蓬莱さんの分身みたいな役ですが。

 定男が立ち止まっている時点から話がスタートするんだと思うんです。この戯曲の最後に一歩踏み出すのか、それとも、このまま立ち止まったままなのか。少なくとも、この物語が始まるときには、定男は満たされていない状態だと思います。僕は、その状態は共感できるので、しっかりその状態を丁寧に演じることができれば、あとは流れに沿って、家族と会話しながら心が動いていくだろうし。蓬莱さんの文章って無駄がない印象なんです。言葉を大切に選択して書かれている戯曲だと思うので、その言葉を大切に、お客さんに伝えることができたら、自ずと物語は動いていくだろうし、その人物がどう思っているのかが明確に見えていくのではないかと思います。

――長い台詞もあるんですが、逆に「え」や「・・・」も結構多いですね。

 僕が出演させていただいたことがある城山羊の会の山内ケンジさんの戯曲にも「あの・・・」「えっと・・・」「それは・・・」「というか」が多いんですよ。その戯曲に比べると、蓬莱さんの戯曲はまだシンプル。でも台詞を憶えるのはすごく大変です。ただ、その、「てにをは」や「・・・」を、忠実に再現していくの、僕好きなんです、わりと。台詞はないんですが、表現することはたくさんあるのが「・・・」で、隠された答えを見つけ出す作業がすごく好きで。誰を見て、「・・・」なのか、誰と誰の会話を聞いて「・・・」になっているのか、どういう思いの「・・・」なのか、戯曲を読みながら、とにかく忠実に再現していく作業が楽しいんです。蓬莱さんが書かれた言葉も、句読点や「・・・」など発しない台詞以外も、その意味をきっちり理解してしっかり演じていきたいなと思います。

――出演者として、心がけたいことは何ですか?

 蓬莱さんの想いというか、感じていらっしゃることをしっかりと実感していくことが目標です。そのためには僕の中でも覚悟がないとダメだなって。しっかり、自分の中で落とし前をつけて、そして、宮田さんの演出にちゃんと応えていくこと。自分自身が今まで人生で経験したことも、演劇で経験したことも、ちゃんと曝け出して、羽田家の家族たちと向き合わなきゃいけない。みんなが力を合わせて、蓬莱さんが50歳になったときに、この作品があったから、今も作・演出の仕事を続けていられるんだなと思っていただけるような作品になるといいなと思いますし、必ずなると信じています。

<すずき こうすけ>
福岡県出身。劇団青年座を経て、舞台・映画・テレビに幅広く活躍。2007年にテレビドラマ『LIAR GAME』で注目を集める。主なテレビドラマ出演作に『ドクターⅩ~外科医・大門未知子~』シリーズ、『刑事7人』シリーズ、『緊急取調室』シリーズ、『昼顔』『遺産争族』『最後のレストラン』『人は見た目が100パーセント』『愛してたって、秘密はある。』連続ドラマW 東野圭吾『片想い』 『崖っぷちホテル』がある。舞台出演作に『ガラスの動物園』『叔母との旅』『今ひとたびの修羅』『効率の優先』『才原警部の終わらない明日』『美幸』『遊侠 沓掛時次郎』『密やかな結晶』がある。新国立劇場では、『タトゥー』に出演。

『消えていくなら朝』公演情報

作:蓬莱竜太

演出:宮田慶子

出演:鈴木浩介 山中 崇 高野志穂 吉野実紗 梅沢昌代 高橋長英

上演期間:7月12日(木)~29日(日)

会場:新国立劇場 小劇場

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