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『プライムたちの夜』市原えつこスペシャルコラムその3!

2062年はこうなる?!~人とアンドロイドの関係~

メディアアーティスト市原えつこによる
観劇の前に読んでおきたいコラムをお届けします

2017年の文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で「シン・ゴジラ」に次いで入賞を果たし、いま注目されている「デジタルシャーマン・プロジェクト」。そこには奇しくも『プライムたちの夜』に通じるコンセプトが根底に流れていた。
『プライムたちの夜』の世界はもうすぐそこなのか?プロジェクトを率いる市原えつこ氏に語っていただいた。

人はなぜ感情移入してしまうの? ~ヒト型ロボット~

かつて「ペッパイちゃん」という悪趣味なロボットアプリを開発したことがある。ヒト型ロボットの胸部に乳首を搭載したその作品は女性たちから派手にバッシングを受け、いわゆる「炎上」した。その際に疑問に思ったのが上記の疑問だった。

ぶっちゃけ言うと、ロボットの身体は単なる機構とサーボモーターの塊だ。
柔らかい皮膚を持つヒト型アンドロイドだと、そこにシリコンの外装でコーティングされていたりする。 特に人格があるわけでもなく、それらしく振る舞うようプログラムを仕込まれているだけだ。構造的にも、iPhoneにアプリをインストールしたりするのと大して変わらない。
それにも関わらず、なぜそこに人は「命」を見出し、自己を投影し、感情移入し、時には怒ったり悲しんだりしてしまうのか?

ヒト型ロボットだけでなく、SONYのロボット犬「アイボ」葬儀の事例もある。
生産が停止し、修理不可能になったアイボ100台が持ち主の希望によって通夜葬儀で「供養」されたとのこと。

特に日本人はロボットに対して親しみを感じるお国柄が強いという。
鉄腕アトムを筆頭にロボットに対して牧歌的なイメージが流布し、ロボット研究を志願する学生も多い。
AIやロボットに対して恐怖ではなく親しみを感じるお国柄は世界的に見ると特殊らしい。特に欧米では人工知能に大して恐怖があり、造物主のやることを人間がやると、それがやがて自分たちを駆逐するのではないか、という考えがあるのだという。 日本は自然信仰の国であり、万物に命を見出すいわゆる「アニミズム」信仰の根付いている土地でもある。

ややスピリチュアルな話になるが、私は生き物の形状をした機械には魂が宿ると思っている。
「藁人形」や「土偶」の延長としてヒト型ロボットを捉えているフシがある。

あれらも、ヒト型の造形物に魂が宿るのを認め、様々な呪術に利用しているものたちだ。

日本人である私は、もれなく日本的アニミズムをテクノロジーに対しても認めてしまう。

『プライムたちの夜』は欧米で公開された戯曲である。ヒト型アンドロイドに対しての捉え方は極めて理知的だと感じるが、しかしそれだけでは割り切れない曖昧さも含まれており、個人的には欧米的な価値観と日本的価値観のハイブリッドのように感じている。 今回の日本公演で、多くの日本人観客の反応からそれぞれの文化圏の摩擦や融和がどう浮かび上がってくるのか、個人的にも楽しみだ。

メディアアーティスト/妄想監督 市原えつこ(いちはら・えつこ)

メディアアーティスト、妄想監督。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性から、国内の新聞・テレビ・Web媒体、海外雑誌等、多様なメディアに取り上げられている。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラ・インターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》等がある。 2016年にYahoo! JAPANを退社し独立、現在フリーランス。

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