演劇公演関連ニュース
「十九歳のジェイコブ」朝日新聞の劇評をご紹介します
現在、小劇場にて好評上演中の「十九歳のジェイコブ」。
6月19日(木)の朝日新聞夕刊に掲載された公演評をご紹介します。
あてどなき若者の魂の崩壊

中上健次の小説「十九歳のジェイコブ」を松井周が脚本にして、松本雄吉が演出した。
人はどこから来て、どこへ行くのか。若者の自分探しが主題だ。神話へ高まる中上世界は相対化され、グッと現代の若者の乾いた絶望感に同調している。
東京のジャズ喫茶にたむろするジェイコブ(石田卓也)たちの無軌道と虚実、殺人場面が、時空間を巧みに飛ばして、多重的に構成される。
冒頭、聖書の世界を反転させた松本の演出が目を奪う。血が滴る中、ジェイコブの父らしい直一郎(石田圭祐)ら家族三人の死体が、つり下がる。下で寝ている殺人犯のジェイコブ。ジェイコブとは旧約聖書のヤコブと、パンフレットにあった。天使がはしごで地上と天上を上下するヤコブの夢を、逆の地獄図として垂直に視覚化した。
「父殺し」は、原作の持つギリシャ悲劇的な色ほど濃くはない。中上の磁場である「路地」との関連が薄いせいだろう。
しかし寄る辺なき若者の心のあてどなさと崩壊という点では今に迫る。石田卓也は普通の若者に見せて、憤怒をたぎらせる。松下洸平の妄想もいい。セックスでは人とつながれない若者の渇きを横田美紀、奥村佳恵がリアルに演じた。石田圭祐が舞台を支える。
原作の指定だがJ.コルトレーンらのモダンジャズは、感情のピッチを刻む。テナーサックスのうめきがセックス場面に、ヘンデルのミサ曲が妄想のテロ場面に流れる。音楽や音に敏感だった中上作品らしい演出だ。
聖と卑の宿命の対比は明確ではない。これが、都会をさまよう現代の魂の痛覚なのだろう。他に有薗芳記、西牟田恵、 山口惠子らが出演。美術は杉山至。
(山本健一・演劇評論家)2014年6月19日(木) 朝日新聞夕刊
※朝日新聞社の許諾を得て掲載しています
「十九歳のジェイコブ」は6月29日(日)までの上演です。どうぞお見逃しなく!
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