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伝説時代の中国・北京。絶世の美女だが氷のように冷酷な心を持つトゥーランドット姫の夫となる条件は3つの謎を解くことだが、解けなければ斬首の刑である。姫に一目ぼれした王子カラフは全ての謎を見事に解き明かす。しかし誰のものにもなりたくないと姫が動揺したため、カラフは「翌朝までにわが名を当てれば私は死にましょう」と約束する。カラフの名を知る女奴隷リューは捕らえられて拷問を受けるが、カラフに片思いをしていたリューは口を閉ざしたまま姫の前で自害する。真実の愛に目覚めた姫はカラフの名を愛だと叫び、二人は抱き合う。
プッチーニ最後のオペラ『トゥーランドット』は、“おとぎ話の時代の北京”を舞台に、それまでのプッチーニのヒロイン像とは異なる「氷のような姫君」トゥーランドットを描いています。彼女は求婚者たちに謎を出し、解けない者を容赦なく処刑させる。このようなお話は、実は童話の世界には珍しくありません。
その冷酷さの背景には、祖先であるロ・ウ・リン姫の悲劇がありました。かつてこの国を治めていたロ・ウ・リン姫は異国の男に惨殺され、その彼女の魂がトゥーランドットに宿っているのです。ロ・ウ・リン姫のエピソードは、原作であるカルロ・ゴッツィの寓話劇にはなく、プッチーニのオペラ独自のものです。
もう一人のヒロイン、女奴隷リューもプッチーニのオペラにおける創作です。リューは愛のために自己犠牲を捧げる、プッチーニらしいヒロイン像を体現しています。ただし、リューの死をきっかけにトゥーランドットの呪いが解け、カラフとの愛が成就するという結末は、現実的に考えるとかなり受け入れ難い部分もあります。
新国立劇場のアレックス・オリエ演出は、舞台を未来に移し、「愛」と「権力」というテーマに焦点を当てたものでした。プッチーニがファンタジーオペラに挑戦したことにより、音楽の新たな地平が開かれ、様々な演出はそこにまた新しい視点を付け加えていきます。
- 【作曲】ジャコモ・プッチーニ/1920~24年 フランコ・アルファーノ補筆
- 【原作】カルロ・ゴッツィ『トゥーランドット』
- 【台本】レナート・シモーニ/ジュゼッペ・アダーミ(イタリア語)
- 【初演】1926年4月25日/ミラノ/スカラ座
- 【制作】新国立劇場/東京文化会館2019年
- 【構成】3幕/約2時間
- 【演出】アレックス・オリエ
- 【美術】アルフォンス・フローレス
- 【衣裳】リュック・カステーイス
- 【照明】ウルス・シェーネバウム