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中世ドイツ。騎士タンホイザーは、愛欲の女神ヴェーヌスの虜となるが、やがてこの快楽の日々に飽きて、彼を愛する清らかな乙女エリーザベトが待つ人間世界に戻る。温かく迎えられたものの、城で開催された歌合戦に参加し、ヴェーヌスを讃えてしまう。この大罪への赦しを得るためローマ法王のもとへ懺悔の旅に出るが、叶わず絶望し、再び官能の愛に溺れそうになる。しかし、エリーザベトは自らの命を犠牲に彼の罪を償い、救済されたタンホイザーも息絶える。
中世の騎士歌人タンホイザーはヴェーヌス(愛の女神ヴィーナスのドイツ語)の官能的な愛の虜になりますが、最後には、彼を一途に愛したエリーザベトの犠牲により、キリスト教の神に許されて天に召されます。
タンホイザーがヴェーヌスの魅力に溺れていたヴェーヌスベルク(ヴィーナスの山)は、どこにあったのでしょう?ヴェーヌスベルクについては15世紀からドイツの文献に記述が見られ、特に19世紀ロマン派の時代にタンホイザー伝説の中で語られるようになりました。ワーグナーの『タンホイザー』台本には、ヴェーヌスベルクは「アイゼナハ近郊のヘルゼルベルク」にあると書かれています。これは、領主ヘルマンが歌合戦を開いたヴァルトブルク城(今も実在します)から10キロほど離れたヘルゼルベルク丘陵のことです。緑豊かなヘルゼルベルク丘陵地帯は、古くにはゲルマンの神ヴォータンや地母神ホルダが住まうとされていました。後に、その斜面にある洞窟が「ヴェーヌスの洞窟」と呼ばれるようになります。『タンホイザー』のト書きには、この洞窟の入り口に横たわるヴェーヌスとタンホイザーの周りで、ニンフ、バッカスの巫女や恋人たちが戯れる描写があり、その光景は、ヴァルトブルク城の厳格なキリスト教社会と鮮やかな対比を成しているのです。
- 【作曲】リヒャルト・ワーグナー/1843~45年
- 【原作】中世の詩『ヴァルトブルクの歌合戦』/
ハインリヒ・ハイネ『タンホイザー』他 - 【台本】リヒャルト・ワーグナー(ドイツ語)
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【初演】1845年10月19日/ドレスデン/宮廷歌劇場(ドレスデン版)、
1861年3月13日/パリ/オペラ座(パリ版) - 【制作】新国立劇場2007年
- 【構成】3幕/約3時間15分
- 【演出】ハンス=ペーター・レーマン
- 【美術・衣裳】オラフ・ツォンベック
- 【照明】立田 雄士
- 【振付】メメット・バルカン