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宿題がいやで文句だらけの男の子。物に当たったり、動物をいじめたりと暴れ放題。すると壊された物やいじめられた動物が仕返ししようと飛びかかって大騒ぎに。その最中、怪我をしたリスを男の子が手当すると、生き物たちは子どもの優しいところに気づいて、「坊やはいい子になった」と言って消えていく。
オペラ『子どもと魔法』は、幼い少年が体験する内面の葛藤と成長を、ファンタジックに描いた傑作です。主人公は6、7歳の少年。宿題を嫌がって母親に叱られ、反抗心がめばえた彼は、部屋中の物を壊し、家で飼っているリスや猫をいじめます。
ところが暴れ疲れた少年が肘掛け椅子に座ろうとすると、椅子は動き出し彼を拒絶。それだけでなく、壊された柱時計やティーポットと茶碗、破られた壁紙に描かれた人物、暖炉の炎、本の中のお姫様などが、少年の行いを非難し始めます。少年が庭に出ると、庭の樹木やそこにいる動物たちにも復讐されそうに。少年は、自らの行為が周りの世界に与えた影響を、擬人化された物や自然や動物たちを通して痛感するのでした。
粟國淳の演出は、美術と衣裳の鮮やかな色彩が音楽と見事に調和し、観客を幻想的な世界へと誘います。ラヴェルの音楽は、登場人物の感情や個性を豊かに表現。壊れた柱時計のリズミカルな歌、ティーポットと中国茶碗の異国情緒に溢れた二重唱などの個性的な場面に続き、暖炉から現れた炎はソプラノのよく転がる声(コロラトゥーラ)で歌われて、子どもが炎に感じる恐ろしさと魅力を見事に描きだしています。そして後半の音楽はよりドラマティックに。客席に座ったあなたも、自分が子どもになってその場にいるように感じられる舞台です。
- 【作曲】モーリス・ラヴェル/1924年
- 【台本】シドニー=ガブリエル・コレット(フランス語)
- 【初演】1925年3月21日/モナコ/モンテカルロ歌劇場
- 【制作】新国立劇場2023年
- 【構成】2部/約45分
- 【演出】粟國 淳
- 【美術】横田 あつみ
- 【衣裳】増田 恵美
- 【照明】大島 裕夫
- 【振付】伊藤 範子