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悪魔の呪いを受けて永遠に海をさまようオランダ人船長。7年に1度だけ上陸が許され、永遠の愛を捧げる乙女に出会った時、呪いから解かれる運命にあった。彼はノルウェー船船長のダーラントと出会い、娘のゼンタに求婚する。宿命的な出会いを感じたゼンタは、永遠の貞節をオランダ人に誓う。ゼンタを愛するエリックは彼女の心変わりを責め、それを聞いたオランダ人は絶望し出航を命じる。ゼンタは彼を追って海中に身を投じ、彼女の永遠の愛によりオランダ人は呪いから救われる。
ノルウェー船の船長ダーラントの娘ゼンタは、“さまよえるオランダ人”を一目見て自らの運命の人だと確信します。それは彼に出会う前から、彼を救済するという思いに取り憑かれていたからです。この心情は第2幕でゼンタが歌う「ゼンタのバラード」によって明かされます。家には“さまよえるオランダ人”の肖像画が架けられ、乳母マリーから繰り返し彼の伝説を聞かされて育ったゼンタは、糸車を回しながら船乗りたちの帰りを待つ女たちにその伝説を語り、最後には「私があなたを救う女になるわ!」と叫びます。そして、父が実際にさまよえるオランダ人を連れて帰った時、ゼンタはそれが運命の成就だと悟るのです。
バラード冒頭の「ヨホーホエー!」で始まる掛け声は、船乗りたちの合唱にも使われている印象的な要素です。ワーグナーはリガ歌劇場で仕事をしていたラトビアからパリへ向かう際、自国ドイツで作った借金の債権者らから逃れるためと、彼の忠実な大型犬ロッバーを連れていくために船旅を選びました。ノルウェー沿岸を回る航路で船員たちの掛け声や大嵐を経験したことが、のちに『さまよえるオランダ人』の音楽的な迫力を生み出す要因となったのです。
- 【作曲】リヒャルト・ワーグナー/1840〜41年
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【原作】「さまよえるオランダ人」の伝説、
ハインリヒ・ハイネ『フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想』 - 【台本】リヒャルト・ワーグナー(ドイツ語)
- 【初演】1843年1月2日/ドレスデン/ザクセン宮廷歌劇場
- 【制作】新国立劇場2007年
- 【構成】3幕/約2時間20分
- 【演出】マティアス・フォン・シュテークマン
- 【美術】堀尾 幸男
- 【衣裳】ひびの こづえ
- 【照明】磯野 睦