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歌劇場に隣接する酒場。公演終演後に歌姫ステッラとの逢瀬の約束を交わした詩人で音楽家のホフマンは、酒を飲みながら3人の女性との失恋物語を学生たちに語り始める。機械仕掛けの人形オランピアにそうと知らず恋をする物語。胸を病む恋人アントニアが激しく歌い息絶えてしまう物語。ヴェネツィアの高級娼婦ジュリエッタに影を奪われる物語。回想を終え、恋の空しさに絶望して酔いつぶれたホフマンの前に、詩の女神ミューズが姿を現す。
『ホフマン物語』は、数々のオペレッタを上演し19世紀後半のパリで大成功を収めたオッフェンバックが、生涯の最後に作曲した唯一のオペラです。幻想的な小説で知られる作家E・T・Aホフマン(1776-1822)を主人公に、三つのエピソードからなるオムニバス形式で作られています。ホフマンは、東プロイセンの首都ケーニヒスベルクに生まれ、法律を学びながら、音楽、絵画、文学などに深く打ち込み、プロの指揮者、作曲家としての活動をした後で、ベルリンで法曹界の仕事につきながら作家として活躍しました。
オペラ『ホフマン物語』の原作となったホフマンの『砂男』『大晦日の夜の冒険』『顧問官クレスペル』という三つの小説には、それぞれ作者の一部分が投影されていると言われています。『砂男』では機械人形オランピアに恋する主人公の身を滅ぼすまでの熱狂が、『大晦日の夜の冒険』には、歌を取り上げられたアントニアや周りの人々の芸術に対する葛藤と挫折が、そして『顧問官クレスペル』では美女ジュリエッタにたぶらかされて鏡像を失ってしまうという自我の喪失が描かれています。それに加えて三つの物語を囲む枠組みとしての酔いどれ詩人ホフマンの描写など、オッフェンバックの音楽は、音楽や芸術を愛する人々の幻想と実態をあますところなく表現しています。
- 【作曲】ジャック・オッフェンバック/1877〜80年
- 【原作】エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン
『砂男』『顧問官クレスペル』『大晦日の夜の冒険』 - 【台本】ジュール・バルビエ/ミシェル・カレ(フランス語)
- 【初演】1881年2月10日/パリ/コミック座
- 【制作】新国立劇場2003年
- 【構成】5幕/約2時間45分
- 【演出・美術・照明】フィリップ・アルロー
- 【衣裳】アンドレア・ウーマン
- 【振付】上田 遙